○✕トーク
嬢「あなた、全身に入れ墨があるのね。」
アッシュ「かっこいいだろ?」
自分の泊まる安い宿屋にデリヘルを呼んで、ことを終えたアッシュはタバコを吸う嬢に腕枕をしながらピロートークに花を咲かせていた。
アッシュ「そうだ、君なら墓参りはどんな時にする?」
嬢「変なこと聞くわね、ん~、何かの報告とか?悲しい時?」
アッシュ「へぇ。」
嬢「アタシ……なんだか、ムラムラしてきちゃった。」
セイシにまつわる話をしたからだろうか?
アッシュ『嬉しい誤算。』「延長料金、課金します。」
嬢「サービスしとくわ!お兄さん優しいし!」
アッシュはそれから朝方近くまで寝ることはなかった。
アッシュ『昨日は、張り切りすぎたなぁ。ねんむい!』
いつもの塔に登り、ターゲットの1日の動きの観察。
暗殺者は案外、根気のいる仕事だった。
アッシュは眠気と戦いながら観察を続けたが、昼の陽気もあり、いつの間にか屋根の上で寝ていた。インビジブルはとっくに溶けていて、誰かが屋根にはしごをかけて登ってくる。
アッシュの頭の中で鈴の音が聞こえて、ハッとして起きた。
アッシュ「やっば!」
はしごの男の顔が屋根の上をのぞく。
はしごの男「あれ?誰もいないぞ?」
はしごの下の男「お~い、誰かいたのかー?!」
はしごの男「いやぁ!?誰も居ないぞ、見間違いじゃないのかー?」
はしごの下の男達はそんなはずはないと話し合っていた。
アレスは引き続き騎士団の予算を削られないように大臣たちの会議に同席していた。
軍拡派大臣A「ですから、何回も申してます。その銃器を持ってすれば、砲台陣地もやすやすと取れましょう!」
保守派大臣A「急造の銃器の、急造の部隊にそんな重要な作戦を任せられるか!?」
軍拡派大臣B「急造ではございません!製造開始は2年前ですが、数々の戦場で実績のある銃器ですぞ!」
保守派大臣B「部隊は新しく編成するのだろう?!何年かけるつもりだ!」
議論に白熱する大臣たちに負けじとアレスも参戦する。
アレス「砲台陣地攻略作戦は来年と決まったではないですか!?我々に任せてください!必ず成功させてみせます!」
それを聞いていた王もうんざりしながら切り出した。
王「もう、決まった事だ。目先の銃器に目が眩んでおるぞ。お主ら。」
王は軍拡派の大臣達を睨みつけた。
軍拡派大臣A「ぐっく、申し訳ございません、閣下。」
軍拡派大臣B「早計でした。お許しください。」
会議を終えた軍拡派の大臣達は王宮の一室に集まって、髭面を突き合わせていた。
軍拡派大臣A「クソ!アレスめ!」
軍拡派大臣B「忌々しい!」
軍拡派大臣C「騎士団さえなくなれば、空いた予算で銃器が購入できるし、戦争もしやすくなるものを!」
軍拡派大臣D「王も考えが硬いのだ!」
陰口に盛り上がる大臣たちの顔色がその一言で変わる。
軍拡派大臣A「卿よ、ソレは流石に聞かれるとまずいぞ。」
軍拡派大臣D「構うものか!この国には新しい風が必要なのだ!他の国を見ろ!どこも議会制に移行しとるわ!」
軍拡派大臣B「しー!よせ!それ以上は!」
王への侮辱は最悪、死罪だ。聞かされた他の大臣達は青ざめた。
軍拡派大臣C「とりあえず、騎士団がなくなればよかろう。騎士団の後ろ盾がなければ、王など風前の灯よ。」
軍拡派大臣B「不敬が過ぎるぞ皆!」
軍拡派大臣A「いや、そのとおりだ。」
軍拡派大臣C「アレス。やつさえ居なくなれば……」
その王宮の一室は淀んだ空気が漂っていた。
王宮から出てきたアレスは一人、郊外の墓地に向かっていった。
アッシュ「またかよ。尾行する身にもなれ。」
アッシュは身勝手な文句を言いつつ、アレスの後を屋根伝いに追いかけた。
アッシュ『そう言えば、今日はひとりだな。』
アレスは墓前でしばらく動かない。
アッシュ『あ、ここいいロケーションじゃないか?ヤツが一人なら、高台もあるし。有効射程内だ。』
アッシュは狙撃ポイントをここに絞った。アレスのお祈りを見届けると屋根から路地に静かに飛び降りた。
アッシュ『善は急げだが、昨日の子が言ってた、店のNO.1の娘さんも気になるんだよなー。今日、空いてるかな?』
アッシュは人通りのない路地で不可視を解除するとそのまま、デリヘルの店に予約を見に行った。
ダンは騎士団詰所から先にアレスの家に帰っていたが、鍵を何処かに忘れて、家に入れず、玄関先でしゃがんで待っていた。
ダン「おなかすいたなぁ……」
アレスが遅い日は自分で軽く作って食べるのが習わしだった。その時はアレスの分も作っておく。
ダンの料理の腕は村にいた時より、格段に上がっていた。ダンもそれには、剣より自信があった。
ダン『あ、そうだ。サヤや魔法使いの爺さんに今度、焼き菓子でも作って持っていってやろう。きっと喜ぶぞ。』
喜ぶ2人の顔を想像する。それとは反対に少しやつれたアレスが帰ってきた。
ダン「おかえり!アレス!」
アレス「なんだ?ダン。また鍵をなくしたのか?しっかりしろよ。」
アレスは苦笑する、ダンも頭を掻いて平謝りするだけだった。
アレス「簡単なのを2人で手分けして作ろう。その方が早い。」
アレスは扉を開けた。ダンの冷たくなった肩に手を置いて中に促した。
ダン「なら、カルボナーラにしよう!麺をゆでるだけだ。」
ダンは家に入ってかまどに火をおこす。戸棚から大きな鍋を取り出しながら。
アレス「俺は先に風呂を沸かしてくる。」
一人親世帯というのはこういうものなのだろうか?アレスはしゃがんで風呂の火をおこしながら思った。揺らめく炎に亡き妻の幻影を見る。
アレス「ローザ。俺は今、さみしくないんだ。」
そうなの?良かったじゃない。
焚べた薪が音を立てて燃えている。幻聴でも、アレスは妻の声が聞けたことが嬉しかった。
ダン「アレスー!」
アレス「今、行くよ!」
アレスは立ち上がって食卓へ向かった。
ブリッジは酒場で荒れていた。同僚の騎士がそれをなだめる。
騎士「きっと、アイツもそのうち使えなくなるんじゃないか?」
ブリッジ「そういう、慰めはイイんだ!何で俺は魔法剣が使えなくなったんだ?」
ブリッジは頭を抱えて、うつむいている。
ブリッジ「わかってる、俺はダンに嫉妬してるんだ。情けないよ。」
テーブルに涙が落ちる。
どうして?なぜ?その謎に同僚はいい答えがないか考えた。
騎士「そうだ!今度、王宮の魔法使い殿に聞いてみたらいいんじゃないか?ダンについていけば教えてくれるかもだ!」
ブリッジもその答えに顔を上げた。
ブリッジ「それいいな。王宮付きの魔法使い殿なら何か知ってるかもしれない!」
長年の謎の答えが見つかるかもしれないとブリッジは目を輝かせた。