御前試合[前編]
御前試合、王族達が王位継承に奔走し、
国の大臣たちが権謀術数で互いの腹を探り合い、
貴族達がさらにのし上がろうとしてるのを覆い隠すかのように、闘技場に集まった多くの国民が配布されたパンと葡萄酒片手に剣闘士たちの激しい剣戟に熱狂していた。
傭兵「ふぅ。」
ルマンド帝国が雇った傭兵は一試合を終えて腰に下げた片手剣と左手に傷だらけの円盾を携えて控室に戻ってきた。無傷で帰ってこれたのは相手が思いのほか弱かったからだ。
傭兵『次もこうだと助かるんだが……』
控室は出場者でごった返していた。その中でブルーリボンのエンブレムを肩アーマーにあしらった一団が目についた。
傭兵『若いのに、アイツラだけ他とは段違いの佇まいだ……』
身にまとってる高そうな鎧兜もそうだが、何気なく立っているようで、隙がない。
傭兵『きっと指導者にいいのがいるんだろうな。あんなのと戦うのはごめんだ。』
旅人達は別々の場所で観覧していた。
一人は一般人の中で、試合を見てるふりをして国民のうわさ話を聞いていた。皆、葡萄酒が入っているので口が軽かった。
旅人A『へぇ、騎士団は予算を削られてんだなぁ。そして、国民の訓練時期は収穫が終わってから。か、どこも変わらないな。』
もう一人は貴族達がいる席の近く、観客の声がうるさくでなかなか聞き取りづらい。
旅人B『ダメだ。うるさすぎて、貴族どもの声が聞こえない。しかし、銃器で軍拡を推し進めたい派と昔ながらの騎士団を保守する派で大臣たちが割れてるのか……』
会場にブルーリボンの騎士が出てくると場は一層盛り上がった。会場から選手の名を叫ぶ声がする。
「ブリッジー!」
「そんなヤツ蹴散らしちまえ!」
終いには、騎士団を讃える歌を歌いだす連中も出てきた。
旅人A「こりゃ、大人気だなぁ。」
国民はいたって保守傾向が強い、リエール公国も例外ではないということだろうか?
コレだけ、人気なら、国としても切るにきれない存在なのだろう。それを擁護して点数を稼ぎたい大臣がいてもおかしくはない。
旅人B『噂は本当みたいだな。』
選手の、真剣同士の剣戟が始まる。相手も手練れ小刀二刀流の剣闘士、その左右から繰り出される刺突を騎士は剣で受けている。
キン!キン!キン!……
金属の乾いた音だけが響く。防戦一方の騎士に闘技場は静まりかえり、固唾をのんで見守っていた。
ブリッジ(ニヤッ)
ブルーリボンの騎士は剣闘士の隙をついてその頬に一撃を繰り出した。
衝撃を受けた剣闘士は距離を取るが、その頬から赤いものが流れた。
旅人A「これは見せる剣だ!」
静まっていた会場は一気に歓声に包まれた。
ブリッジ「さっきまでの勢いはどうした?」
二刀流剣闘士「なめるなよ!小僧!」
中年の剣闘士はムキになって前に出る。今度は騎士が相手の勢いを利用して足をかけて剣闘士を転がした。
ブリッジ「へっ」
闘技場がさらにけたたましい歓声に包まれた。
「いいぞー!ブリッジー!」
「キャー!騎士様ー!」
「結婚してー!」
若いその騎士の活躍に黄色い歓声もあがる。
旅人A『何者なんだ……ここの騎士団はあんなのばかりか?』
立ち上がった剣闘士へ、その騎士が数回、打ち込むと気勢を失った剣闘士は右手の甲を狙われ剣を落とした。
その甲からは血が流れている。
剣闘士「グムッ……」
王の付き人「……そこまで!」
会場にドクターストップならぬ王の試合を止める合図が入った。
王の付き人「勝者、ブルーリボン騎士団、副団長、ブリッジ!」
わあぁぁぁ!
大歓声が上がった。
旅人A『副団長?若いな。苦戦しそうな壮年、中年の騎士は出さずに華のある若手を出すのは分かる。しかし、あの若さで副団長とは……。もしかして、先の大戦でその手の年齢の奴らは死亡ないし引退したのか?』
次は第2試合のルマンド帝国の雇った傭兵が出てきた。相手はブルーリボンの騎士である。
傭兵『うわー、コイツかぁ。』
傭兵は貧乏くじを引いたと天を仰いだ。
騎士「首元がガラ空きだぞ?オッサン。戦場だともう、あの世だぜ?」
へへへ、と若い騎士は笑いながら両手剣を抜く。
傭兵は背中の円盾を取り左手にもった。
傭兵『おや?無駄口?コイツはどうだろうか?』
騎士の上段からの力任せの剣だ。軌道を読んだ傭兵はその盾で受けもせず、半身になってかわす。
地面に叩きつけられるかと思われた刀身は踵を返し傭兵の胸に迫る。
ガキィン!
とっさに左手の盾で受ける。
傭兵『なるほど?こりゃ手ごわい。』
それを見ていたスパイの旅人達は心配そうに傭兵の試合を見ていた。
傭兵は騎士のリーチの長く重い斬撃を盾で防ぎつつ騎士の周りをぐるぐる移動しだした。
騎士「どうした?オッサン。怖気づいたのか?」
傭兵「そうさ、怖気づいたのさ。」
騎士が、得意げに笑って剣を上段に構えて、振り下ろす。
傭兵はそれを盾で受けるとその重さに耐えきれず片膝をついた、
フリをした。
重さを受けていた盾がスッとなくなり、騎士はバランスを崩した。
(ヨロッ!)
騎士は剣の重さに態勢を立て直そうと一瞬、動きを止める。そこへ、
ズシャ!
立ち上がる勢いをつけ、傭兵は片手剣で鎧の隙、脇を狙って刺突を繰り出した。
脇を刺され腕の腱が切れたであろう騎士は両手剣を落とした。
騎士「……ま、まいった。」
わあぁぁぁ!
会場は予想外の傭兵の活躍に盛り上がった。
「負けちまった……」
「うわー、俺たちのブルーリボンがぁ!」
「やるじゃないか!あの傭兵!」
スパイの旅人達は安堵のため息をついた。
わが国の威信、ブルーリボン騎士団の騎士が負けたとあって、保守派の大臣達から1次休憩の合図が入った。
大臣たちが何やら相談をしている。
旅人A『なんだ?どうするんだ?』
王の付き人「皆様、血ばかり流れるのにも飽きたでしょう。続きましては、模擬刀を使った少年の部を執り行いたいと思います!」
場の男たちからはブーイングが起こったが、ショタが見れるとあって黄色い歓声が聞かれた。
「今年はどんな子が見れるのかしら?」
「楽しみね!」
旅人A『そういう、女性向け、箸休め的なやつもあるんだな。この御前試合、よく練られている。』
試合会場にはロングソードの模擬刀を持ったダンと盾と片手剣の模擬刀の少年が立った。
王族の席からダンの名を呼ぶ声が聞かれた。
ダン『サヤ姫?』
ダンに手を振るサヤ姫の姿が見える。
旅人B『アイツ、王族と知り合いか?普通の少年に見えるけどなぁ?』
旅人Bは首を傾げた。
少年「お前、騎士団のとこの奴だろ?ハミ子だって聞いてるぜ?」
ダン「つべこべ、言ってないで始めようぜ。」