強行偵察
去年の戦で戦場となり少しづつ復興をしていた街
雪はちらつく程度になっていたがまだまだ春は遠い。そんな中にあって、建築現場の従業員達がしもやけを作りながら作業に従事していた。
サヤ「皆、ご苦労である。甘いコーヒーでも飲んで一息つくと良い。」
その従業員達にサヤ姫は私財でコーヒーを配って回っていた。
ダルタニアン「……」
街は順調に復興しつつあったが、壊滅したダンのいた山間部の村落は放置されたままだった。
山肌を削って作った棚田の石垣も崩れたまんまだ。
ダルタニアン『気にしてても仕方ない。しかし、ここに来るのは久しぶりだ。お使いによく行かされてたっけなぁ。』
サヤ姫の巡視に伴われて訪れていたダルタニアンは馴染みの顔がいないかと探してみたが、それらしい人は居なかった。
時折、仮面からノイズ混じりの魔女達の声が聞こえる。
グレダ「てい、(ザー)れん(ザー)く。」
ダルタニアン「何もない、大丈夫だ。」
リュプケ「(ザー)そんなと(ザー)、死ぬなよ?か(ザー)が、めんどく(ザー)」
ダルタニアン『またそれかよ、死なねーって。』
グレダ「聞こえ(ザー)ぞ?」
ダルタニアン『心の声も聞かれんのか……』
御前試合の一件以来、こんな調子で魔女たちからの指示は聞き取りにくくなっていた。
元々、人付き合いが苦手なダルタニアンは無口で居ることはそんなに苦ではなかった。
何とかやっていける。そう思えた。
ダルタニアン『オキツカカ"ミを使うなと言われてるけど……』
自分の意思とは無関係に発動したりしなかったり、ダルタニアンにはまだまだ修行が足りないところがあった。
サヤ「だいぶ、復興してきとるな!次は、騎士団詰所に行くとしよう!行くぞ!ダルタニアン、ついて参れ!」
ダルタニアン『?あぁ、治安維持と国境警備。考えてみれば、あって当然か。』
古砦
グレダ「大丈夫かね、あれは。」
リュプケ「危なっかしいなー!やっぱ連れ戻そうぜ!?」
傭兵「どうしたんだ?」
狩りから帰ってきた傭兵にグレダは御前試合での事を話した。
傭兵「ふーん。小刀で通信障害ね。」
グレダ「あれ以来、仮面の調子が悪くってなぁ。」
リュプケ「レビューに強度はイマイチって書いとこうぜ!」
ところは戻って
サヤ姫の一行が街のはずれの騎士団詰所に近づくと、騎士たちが慌ただしく右往左往していて何やら騒がしい。
サヤ「なんじゃ、どうしたんじゃ?」
騎士A「姫様、お逃げください!敵襲です!」
ダルタニアン「!」
去年の村落壊滅を経験していたダルタニアンは当時の恐怖が蘇り身体が硬直した。
サヤ「逃げるってどこに?!」
その問いに答えることなく騎乗した騎士達に怒号が飛び交う。
騎士B「敵は少数!打って出るぞ!」
騎士C「ドラグーン(銃騎兵)も遅れるなよ!」
遠くの森から帝国兵がでてくるのが見える。
ダルタニアン『平地、しかも高所を押さえられてて、遮蔽なしのところを騎兵突撃だって?!』「ま、まて!」
騎兵の左右からの挟撃。
しかし、接敵する前に一人また一人と銃で討ち取られていく。
ダルタニアン『だめだ!せめて、ドラグーンが先じゃないと!』「姫を詰所へ!」
ダルタニアンはお付の侍女達に指示を出すと残っていた馬にまたがって戦場へと駆けた。
ダルタニアン『アレは偵察か?なら、本隊が来る!』
騎乗で抜刀したダルタニアン。
リュプケ「かまう(ザー)!ぶちかませ!」
ゾフ!
次元を切り裂く刃が帝国兵の一団を直撃する。
パァァン!
飛び散る大地とともにバラバラになった帝国兵の手足が宙を舞う。ダルタニアンの持っていた剣も粉々に砕け散った。
突然の出来事に生き残ったブルーリボン騎士達も馬を止める。
騎士「なんだ今のは……?」
ダルタニアン「帝国の本隊が来ます!今すぐ、ここを離れましょう姫!」
普段、無口なダルタニアンが進言しているのを見て、ただ事ではないと感じたサヤ姫もそれに同意した。
サヤ「しかし、ここの者たちはどうする?」
ダルタニアン「放置しましょう、敵にコチラが気づいたと気取られます。」
人命軽視ともとれるダルタニアンの言葉にサヤ姫は憤慨した。
パチン!
サヤ「貴様、恥をしれ!」
ダルタニアン「……これは戦争です。情など無用。」
サヤ姫はその言葉無視して、侍女たちに指示を出した。
サヤ「ここの者たちにも避難指示を。」
ダルタニアン「ならば、せめてここの資材は焼き払いましょう!」
サヤ「お前というやつは!」
ガチャ!
サヤの平手がダルタニアン仮面のすんでで止まる。
サヤ姫の居る騎士団の詰所の一部屋の扉が開き、ブルーリボンの騎士達が入ってきた。
ダルタニアン『アレス。』
早馬の伝令で騎士たちが増援に来ていた。
アレス「その傭兵の進言には一理あります!」
サヤ「アレス団長!そればどんな利よ!」
アレス「ここの資材があれば帝国はそれを使い、簡易兵舎、果ては塹壕を作るのに使います。」
それを聞いて激情に駆られていたサヤ姫もようやく落ち着きを取り戻した。
サヤ「ヌヌヌ……」
アレス「私の指示に従ってください姫。ここは戦場です。」
サヤ「……わかった。ただし、皆は避難させるぞ!」
アレス「わかっております。護衛に数機つけましょう。」
その夜
騎士団詰所のものみの塔からサヤ姫とそれに伴われて復興作業員と持てるだけの資材が町を離れていくのをアレスとダルタニアンは見送っていた。
アレス「聞いたぞ?魔法剣でアイツラを仕留めたって?」
ダルタニアン「魔法剣じゃない。十種の神宝、八柄の剣っていうらしい。」
へぇ。
苦笑しながらアレスは続けた。
アレス「お前は凄いやつだ。」
ダルタニアン「……俺もそろそろ行かないと。」
アレス「騎士団に戻ってはこられないのか?」
ダルタニアンは頷いた。
アレス「……そうか。それが、お前の道なんだな。俺等もここを焼き払ったら追いつくよ。」
ダルタニアン「先に行くよ、アレス。」
アレス「あぁ、またな。」
伝令からの
「強行偵察に出した兵士が全滅した。」
と聞かされたジュリアスは顔を曇らせた。騎乗で片手であごを押さえて考える。
ジュリアス『新型小銃の実地試験もかねての偵察だった……奴らの銃か?いや、あり得ない。』
参謀「相手は装備、戦術も旧式の国境警備の騎士団だろ?楽勝じゃなかったのか?」
ジュリアス『すると、魔法剣と言うやつか?侮れんな。』
黒騎士「見えてきました、砲台陣地です。」
ジュリアス「歩兵、騎兵は入城。休ませろ。」
参謀「ここなら枕を高くして寝れますね。」
ジュリアス「リエールに入れば、そうはいかんだろうからな。」
伝令「伝令!リエールに勘付かれた模様!奴ら街を焼き払いました!」
ジュリアス「想定内だ。問題ない。」
参謀「強行偵察部隊がやられたんだ。そのくらい予想はしてた。」
ジュリアスが頷く。
ジュリアス「ゆっくりできるのはここまでだろう。下のものには知らせるな。気が滅入るだろうからな。」
伝令「承知しました。」
アドリブのダルタニアンとアレスの会話を水晶を通して聞いていたグレダは目を閉じてため息をついた。
グレダ『やはりこうなったか……』「あの姫にもいずれバレるぞ。」
リュプケ「おいおい、どーすんだよー?捕まって火炙りになればネクロイドにもできやしない!」
グレダ「その時は、代金として、この傭兵を持ってけよ。」
傭兵「ィ゙?!」
ニヤけたリュプケが傭兵の方を向く。解体されるのかと、傭兵はヒヤヒヤものだった。
リュプケ「落ち着け、生者には生者の使い道がある。代金はお前が死んでからで十分さ。」
あ、そうだ。と手をポンとたたいたリュプケが続ける。
リュプケ「傭兵。お前、戦地から死体を回収してこい。そしたら代金はチャラにしてやる。」
傭兵「ほんとか?!」『あー、でも、死体漁りかぁ。気が進まねぇ……』
リュプケ「死んだら、墓の下でのんびりしたいだろ?」
それには傭兵は深く同意した。
傭兵『死んでも働かされるってどんな地獄なんだ……』