表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/21

仮面の騎士 虹刃剣のダルタニアン

アレス「そうか……」


ブリッジ「残念です。まさか、こんな形で将来有望な魔法剣使いを失うとは。」


アレス「ブルーリボン騎士団はお前がいるから安泰だろ?」


アレスは自嘲じちょう気味にいった。


ブリッジ「ははは、まさか?!リハビリはもういいでしょ?団長、早く帰ってきてくださいよ!」


アレス「そうだな!俺も、ベッドの上より馬上の方が良い!」


ダンがこの国から去って数カ月、リエール公国には雪が振り始めていた。


ブリッジ「うわ、今日も積もるのか?」


病院を出たブリッジは着ている厚手のコートの襟を立て足早に騎士団の詰め所へと戻った。

前よりかは、さばくスピードも上がり机の上の書類も少なくはなったが、まだまだ、今日中に終わらせないといけない物がたまっていた。 


ブリッジ「まばらだなぁ、煙。」


帰りの道に人影はあまりなく、家の煙突から出る煙の筋は煙突の総数に比べて圧倒的に少なかった。

重税と物価高に苦しむ人々は暖房代を節約するために近所に声をかけあい、狭い部屋でみんなで固まって生活するようになっていた。


それを尻目に王宮では毎週のように舞踏会が開かれていた。彼らから搾り取ったもので……。

しかるに、その結果は当然だったのだろうか?




舞踏会

貴族A「ウォール伯、年明けには結婚なさるので?」


アンドリュー「早すぎますでしょうか?」


ウォール伯は笑って答えた。


貴族B「羨ましい限りですな!伯爵家から公爵家になられるのですから!」


アンドリュー「結婚式の際には、ご招待すれば、快く来てくださいますでしょう?皆様!」


貴族C「是非に呼んで頂きたい!」


貴族D「我ら、喜び勇んで行くでしょう!」


アンドリュー•ウォール伯爵のいる場所からそう遠くない所に王族達がウォール伯達の話を盗み聞きしているようだった。


王族達「……」


王族達は権威にかまけて、その財産を食いつぶす放蕩者ばかりであったが、ウォール伯のような貴族達は財産を元手に商売をして、巨万の富を手に入れるものも少なくなかった。


アンドリュー「……」


ウォール伯爵家はその中でも一番の資産家で、王族達に金を貸し付けていたり、主産業の鉱山、炭鉱経営は国の財源の一角を担っていた。


貴族B「サヤ姫、ウォール伯はどのように知り合われたのです?」


貴族C「おお!ソレは私も知りたい!家内がしつこく知りたがっていたのですよ。」


わはははは……!


アンドリュー「いやいや、たまたま部屋に通りかかったのです。一目ぼれというやつでしょうか?」


王族達から小さく舌打ちのような音が聞こえてきた。

ウォール伯の取り巻きの貴族達もそれを気にして王族達を睨んだ。


アンドリュー「喉が渇きました。失礼。」


気勢のそがれた貴族達は、

あるものは婦人たちにダンスの相手を申し込みに行ったり、またある者は、王族達の話に混ざりに行くものも居た。


アンドリュー『俺が王族の仲間入りできたら財源運用の発言権が手に入る。みんなそれに乗っかりたいんだ。頑張らなくちゃ。』


アンドリューはカウンターに行き。ウイスキーをショットで頼んで一気に飲み干すと席に戻った。


アンドリュー「サヤ姫は戻ってないか。」


ドン!


アンドリュー「おっと!失礼?」


え?


ぶつかった衝撃で分からなかったが、婦人たちの悲鳴で自分が刺されたのだと気付いた。


アンドリュー「は?」『今ぶつかった奴は?!』


脇腹から勢いよく血が噴き出す。太い血管でもあったのだろうか?刺された部分を押さえ膝をつく。

後ろを振り向いても、今のが誰だったのかわからない。


アンドリュー「おぶ!」


口からも?内臓が傷ついているのか?遠のく意識の中で、笑う王族、駆け寄る貴族、救護班を呼ぶ近衛兵の怒号、青ざめたサヤ姫の顔が見えた。


アンドリュー『これからだろ?俺の人生……』


血溜まりにサヤ姫の握っていたウォール伯の手が力なく落ちた。




街では広場で寒空の中、声を上げる一団が居た。

いつもの民主化の話だろうと人々は暗い顔で立ち止まって聞いていた。しかし、その日は、話の内容が違った。

戒厳令が敷かれていた、昨日、起きたウォール伯暗殺事件を事細かく喧伝し始めたのだった。

聞いていた騎士見習いの少年が事の重大さに気づいて騎士団の詰め所に急いで戻る頃には大半の話が終わっていた。


ガシャガシャガシャ……


ブリッジ「ソイツら、どっからその情報を!?」


騎士A「捕まえて吐かせましょう!」


騎士たちは広場に駆けていった。馬は財源削減で使えなくなって久しかった。アレス団長がどれだけ軍拡派達を抑えていたのかと、ブリッジ含め騎士たちは身にしみて感じていた。




帝国首都のセントラルゾーンの自分の邸宅、自分の部屋、自分の執務席に座るジュリアスは報告書から顔を上げて執事を見た。


ジュリアス「で?彼等は?」


執事「うまく逃げおおせた。とのことです。」


よしよし。ジュリアスは満足げだった。


ジュリアス「動乱の波はこうやって起こすんだよ。」


執事「年明けには再侵攻ですか?」


その質問にジュリアスは笑って答えた。


ジュリアス「コチラの軍備が整い次第かな?」


バタバタバタ……


扉が乱暴に開かれ慌ただしく使用人が入ってきた。執事が何事か、とその使用人を叱責する。


ジュリアス「落ち着け、そんな急報なのか?」


使用人は少し息を整えてから話しだした。


使用人「あの武器商人が暗殺されました!」


執事「!」


ジュリアス「待て待て、どうやってかと背後関係は掴んだか?」


使用人「狙撃です!背後関係は、その、敵が多く。」


ジュリアス「時間の問題だったか……それで?リエールへの武器供給に影響は?」


使用人「今は代理が取りまとめてますが、手綱を握っていた彼が居なくなっては……」


うーん、とジュリアスは両肘をついて、その先の言葉を思いやった。


ジュリアス「勝手をしだすな。」


執事「再侵攻の手続きに入りましょう。」


ジュリアス「そうだな、任せる。急げよ?」


ジュリアスは深々と椅子にもたれかかると目を閉じた。


ジュリアス『そういう時代だ。我々が次の時代を担う。古きは潰える。それだけのことさ。』




王宮内で起きた暗殺事件、最大級の不祥事で近衛隊は有名無実を晒し、王族、貴族達は自分の身を守るため、金に糸目をつけずに各自で傭兵を雇うようになった。


サヤ「ワシの傭兵は今日、到着するのだな?」


魔法使い「はい、魔法剣の使い手で仮面で顔を隠しては居ますが腕は確かです。」


魔法使いの持ってきた傭兵の紹介文。その名にサヤ姫は少し感じるものがあった。


虹刃剣のダルタニアン


おとぎ話、絵本の主人公の名前だ。あの時、ダンが読んでいた本の……


サヤ『ダン。お前は今どこで何をしてる?』「お主の知り合いからの紹介だったな?」


魔法使い「其奴によれば無口ですが、品のある若者であるとか、失礼なく、姫様の護衛しっかり努めてくれるでしょう。」


サヤ「そうでなくては困る。メイドの尻を眺めているやつはごめんだ。見たくもない!」


品のいい傭兵もいれば、原始人のような粗野な者も居て玉石混交ぎょくせきこんこうと言った体で王宮は混沌としていた。


コンコン


サヤ「おお!来たか!」


魔法使い「入れ。」


ガチャ


入ってきたのは、

セミロングの白髪、洒落っ気のない簡素な仮面で顔を覆った軽装の騎士と言った具合の傭兵だった。


仮面の騎士「虹刃剣のダルタニアン、参上いたした。」




ダルタニアンはサヤ姫にピッタリついて離れなかった。

しかし、サヤ姫はその仮面と一言も発しない騎士に少し嫌気が差していた。


サヤ「のう?ダルタニアンよ。少しはワシの話し相手になってくれ。」


ダルタニアン「……。」


サヤ姫はため息をついた。王宮の広間、ダンの姿を見た最後の場所、サヤ姫は何の目的があるでもなく、ここを訪れるようになっていた。


サヤ「もう良い。」


ダルタニアン「……俺は、サヤ、姫を必ず守る。」


サヤ「?そうでなくては困るぞ?」


ダルタニアンは独り言をブツブツいい始めた。たまにそういう場面に遭遇する。

魔法使いに聞けばそういうのが魔法剣使いの特徴らしい。


サヤ『ダンもよく、ぼーっとしとったな。』


懐かしい。

懐かしい。

初めて会ったときから随分経った。

サヤ姫の目からは涙がポロポロ落ちた。


アンドリュー•ウォール伯爵は話せばいいやつだった。この国を良くしようと彼なりに努力をしていた。

騎士見習いから騎士に昇格になったダンを少しでもその姿を見たいと強引に近衛兵編入させるときも少なからず彼は動いてくれていた。


サヤ『それでも私はダンが好きだった。』


スッ


ダルタニアン「コレを。」


ハンカチ


サヤ「……スマンな。ダンはまだ生きて何処かで暮らしとるのだろうか?」


ダルタニアンが何かをいいかけてやめた。


サヤ「……戻ろう。」


ダルタニアン「……。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ