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決闘

決闘。

アンドリュー•ウォール伯爵は大金を払って相応の剣闘士を雇った。婚約を期に自分の邸宅の増築工事をしていて、工事の喧騒で騒がしい一室で、ウォール伯はその傭兵と面会した。


アンドリュー「相手は若いが、魔法剣使いだ。油断するなよ?」


ウォール伯はお抱えの魔法使いに念写させたダンの顔を見せて渡した。


傭兵『へぇ、御前試合で見たアイツじゃないか。』


アンドリュー「?聞いてるのか傭兵?」


片手剣に使い古した傷だらけのシールド。帝国との契約が切れた傭兵は諸国を放浪していた。

リエール公国に立ち寄り、滞在していた酒場で声をかけられて、大金に目がくらんで応じたのだった。


傭兵「魔法剣対策の噂を知ってたから、俺に声をかけたんでしょ?オタク。」


アンドリュー「フッそうだとも。まぁ、痛めつけるだけでいいよ。相手は身分も自覚してない子供だし、我々の財産の近衛兵だからね。」


財産の近衛兵か……


リエールと敵対関係にあり、雇い主でもあった帝国に長くいた傭兵は複雑な顔をした。


傭兵『まぁ、巡り合わせかな?』




グレダ「日取り的に、そろそろ来るか?」


朝から魔女は誰か来客を待っている様子だった。

朝食に2枚のスライスしたベーコンの上に卵を落として焼いた物を、バターを塗ったトーストに乗せて二人はテーブルでかじっていた。


ダン「?誰か来るの?」(モグモグ)


グレダ「まあな、こう見えて、私は顔が利くんだ。魔女の一人や二人呼べるのさ。」(カジリッ)


ダン「ふーん。どんな人?」


グレダ「私以上の偏屈さ。」


何だそりゃ……


グレダ「ダンは今日、決闘の日だろ?」


ダン「うん。近衛隊の仕事も休み。正午くらいに王宮の広間でやるらしい。」


グレダ「えらく、余裕じゃないか?」


魔女はダンが落ち着き払っているのを呆れてみていた。


もう少し、緊張感とかないのか?


ダン「魔法剣でイチコロだろ?余裕だよ、そりゃ。」


魔女は何かを見透かしたようにました顔で笑っている。


グレダ「だといいな。」(モグモグ)


ダン「?」




王宮の広間でメイド達が慌ただしく席を準備していた。

決闘を見ようと集まった、王族、貴族達が立ち話に花を咲かせている。


サヤ『当事者の気持ちも知らないで、小奴らときたら!』


暴れ出したい気持ちをグッと堪えてサヤ姫はウォール伯を待っていた。サヤ姫の後ろに控えていた魔法使いの爺さんが身を乗り出す。


魔法使い「落ち着いてください姫様。まだ決闘は始まってません。」


ガチャ


アンドリュー「長らくお待たせしました皆さん!私が雇った傭兵をご覧ください!」


仰々しく会場に入ってきたウォール伯爵は集まっていた王族、貴族たちに自分の雇った傭兵を、これまた仰々しく紹介した。


傷だらけのシールドに傷らしい傷がない顔に腕、それだけでその傭兵の実力がうかがえた。


アンドリュー「魔法剣使いにも打ち勝つ、傭兵でございます!百戦錬磨の彼にかかれば、身分の自覚のない少年も心を入れ替えるでしょう!」


王族、貴族たちがざわつく。


「魔法剣に打ち勝つだって?」


「それが本当なら、相当な金が動いてるぞ……」


「相手は魔法剣使いの少年だろ?」


「最近、騎士見習いから近衛兵になったとか?」


「アレスの秘蔵っ子と聞いてるぞ。」


それを聞いていたサヤ姫は心穏やかではなかった。


サヤ『どうなるんじゃ、この決闘は……』




正午

王宮の広間に少し遅れて来たダンに貴族の席から汚い言葉が投げつけられた。


国王の愛娘のサヤ姫に近づき、横恋慕を試みた卑しい若者。


サヤ姫を除いて、その会場にいた全員がその認識だった。


ダン『うわぁ、人いっぱいいるじゃないか……』


傭兵「どこを見ている?お前の相手は俺だ。」


傭兵はすでに、盾と剣を構えていた。ダンも腰から下げていたロングソードを抜いた。

剣先を合わせる。


キン


小さく、剣の鳴る音が。静まり返る広間に響いた。決闘開始。


ダンは接触発動系の魔法剣、雲の剣をロングソードに掛けていたのに傭兵が昏迷しないのをいぶかしがった。


ダン『剣に接触したら倒れるのに変だな?』


傭兵『ほぅ?雲の剣か。』


傭兵の剣を持つ右手の入れ墨が光る。


傭兵『最初から紋章魔法、マジックプロテクションを発動させておいてよかったぜ。』


ダン「!」


ダンの大振りの袈裟斬り。 


ガキィン!


傭兵は盾で防いだ。瞬間、盾を持つ左腕の入れ墨も光る。


傭兵『無い力量を魔法剣でカバーしてる雑魚だな。』


一歩、

踏み込んだ傭兵はダンの正中めがけて刺突を繰り出した。体勢を崩しながらダンは剣を避ける。


ダン「なんでだ?!」


サヤ姫はその真剣勝負をハラハラしてみていた。その横、ダンは最初から魔法剣を使ってくると読んでいたウォール伯は肘をついて試合を眺めていた。


アンドリュー「フッ思った通りだ。」


「ざぁこ、ざぁこ!」


貴族の席からダンを煽る声が上がる。それを皮切りに王族、貴族がダンや騎士団を蔑み始めた。


「魔法剣、大したことありませんな。」


「やはり、これからは銃器の時代、アレに頼ってるようでは、この国は滅びますぞ。」


「騎士団、いらない子なのでは?」


「私はこれを期に軍拡派につきます!」


「おお、それは良い!私もそういたしましょう。」


ダン「俺のいた騎士団を馬鹿にするな!」


ダンは好き勝手言う、王族、貴族に叫んだ。傭兵から目を離した。

その瞬間。


傭兵「お前の相手は俺だ、と言った!」


ドカッ!


シールドバッシュにダンは吹き飛んだ。それ見たことかと会場に笑いが起きる。


ダン「くっそぉ……」


起き上がるダンの口に血が滲む。


サヤ「あぁ。」『見てられぬ!』


ダン「うりゃぁ!」


ロングソードで斬りかかるも、傭兵に足を引っ掛けられ前のめりでダンは倒れた。


傭兵「素人同然だな。戦場では足元に気をつけろ。」


頭を強く打ち、気が遠くなるダンにブリッジの言葉が蘇る。


ブルブル


頭を横に降って意識を呼び戻す。


ダン「コレならどうだ!」


ロングソードの刀身が光を発し、ダンが袈裟斬りで空を斬ったかと思うと光の鞭が傭兵を襲った。


スパ!


傭兵「う!?」


受けたシールドが腕ごと切り裂かれる。


傭兵「手加減してやってりゃ!」


傭兵の剣がダンに当たる瞬間、その右腕は虚空に飲み込まれた。


ブツ!


傭兵「うぎゃぁぁぁ!」


両腕を無くした傭兵が血を噴き出しながら、床でのたうち回っている。


アンドリュー「バカな!?」


ダンの不思議な力に恐れおののいた会場は騒然となった。

そこへ、どこからともなくグレダがやってきた。グレダのクマで覆われたジト目がダンと傭兵の惨状を見据える。


グレダ「あー、やっちまったなぁ。ダン。もう戻れないぞ?」


「魔女だ!」


「やつも魔女だったんだ!」


「ヒィィ!殺される!?」


魔女はダンと両腕を無くした傭兵を伴って虚空へと消えた。


アンドリュー「近衛兵!サヤ姫をまもれ!魔女がいつ襲ってくるかわからんぞ!」


魔法使い「ぐぬぬ、ダンは魔女に囚われていたか!」


サヤ「ダン……」




ガシャガシャガシャ……


昼過ぎ。アレスの家をショルダーアーマーにブルーリボンのエンブレムをした騎士たちが取り囲む。


ドカァ!


扉を蹴破って抜き身の剣を持った数人の騎士が中を改めていく。


ブリッジ「ダンの奴は?」


騎士A「まだ帰ってきてません。」


騎士B「もう、ここには帰ってこないのでは?」


騎士C「魔女と同居すると聞いて、嫌な予感はしてましたよ。」


うーん。と、ブリッジは唸った。


ブリッジ「捜索範囲を広めよう。人相書きもバラまけ。見つけ次第、逮捕、連行するんだ。」




ダンはグレダ、傭兵、見知らぬ銀髪の魔女と共に山の中腹にいた。傭兵は銀髪の魔女とそのメイド達に取り押さえられ何かの注射を首にされると気を失った。


銀髪の魔女「ケケケ、グレダ、コイツはバラしていいのかい?」


グレダ「ダメだろ?まだ生きてる。リュプケのとこの在庫で何とかしてやってくれ。」


リュプケ「えー、まじかよ!?」


グレダ「そのために呼んだんだぞ?」


ダンは魔女達の不穏な会話を聞き流しつつ、もう戻れない王都を眺めていた。


グレダ「時間の問題だったんだ、気にするなよダン。私達は人間社会じゃ生きていけない。」


ダン「けど……」


リュプケ「あきらめな。」


グレダ「ここも、すぐ追っ手が来る。行こう。」


ダン『サヤ……』

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