ワガママ
リエールに入ったクレダは、先ずは王に謁見したいと言い出した。
クレダ「当たり前だろ?」
魔法使い「まあ、報告はする予定だったが謁見かぁ。変なことはするなよ?魔女グレダ。」
グレダ「分かってるさ。」
ダン「?」
この時、ダンは魔女がどんな生き物か知らなかった。
魔法使いがキョトンとするダンに耳打ちした。
魔法使い『お前が頼りだ。グレダが変な動きをしたら、斬れ。』
ダン『そんなことしたら、アレスが!』
魔法使い『かまわん!国の存続に関わるぞ!』
そんなに?ダンは困惑した。魔女グレダ。幼女にしか見えない彼女がそんなに危険なんだろうか?
グレダ「今日中でたのむぞ!ジジイ!」
国王「ワシが、国王だ。魔女グレダ。」
グレダ「騎士団団長を治してやるんだ。それなりのものを要求したい。」
謁見の間、立ったままのグレダは跪くダンと魔法使いに挟まれて国王に相対した。国王の隣にはサヤ姫とその婚約者の貴族の男が並んでいた。謁見の間にはこのちんちくりんな魔女を一目見ようと大臣や貴族達が集まっていた。
ザワザワ
サヤ姫「……」
ダン「……」(チラッ)
大臣A「不遜すぎるぞ魔女め!」
大臣B「不敬罪で縄をくれてやりましょう!閣下!」
国王「鎮まれ。魔女グレダ。それを叶えたら、アレスを治してくれるのだな?用件を聞こう。」
グレダ「国宝、ミスリルテイン。あれをいただこう。」
大臣A「貴様!」
大臣達を押しのけ前に出てきた近衛兵達が剣の柄に手をやる。国王がそれを制する。やれやれと言った風にグレダは肩をすくめた。
グレダ「おいおい、ケチるなよ。国宝なんて他にもあるだろ?」
国王「アレスの命を天秤にかけたか?魔女め。」
グレダ「安いもんだろ?ミスリルなんて現代ではめったにお目にかかれない。お前らが持ってても、宝の持ち腐れというやつだよ。」
国王「と言うと?」
グレダ「いいメスが作れるんだ、あれ。もう銃の時代だし、剣にしとくなんて勿体ない。私が使ってやるよ。」
ブルーリボン騎士団、団長アレスと国宝ミスリルテイン。剣をメスに、魔女は実用性のために欲している。もう、銃の時代。国王は目を閉じて考え込んだ。
サヤ「父上、団長が居ないと、この国が滅びますぞ。」『ダンの居場所がなくなってしまう。』
ピクッ
サヤ姫の心を読んだグレダはダンを見てほくそ笑んだ。
グレダ「その嬢ちゃんの言う通りさ。くれないってんなら、私はコイツと、この国を出ていく。」
グィッ
ダン「え?」
突然、腕をつかまれたダンは困惑した。頭の中にグレダの声がする。
グレダ『いいから、お前は黙っていろ。』
それを見たサヤ姫の顔がみるみる青くなっていく。
サヤ『いや!だめ!行かないで!』「お父様!」
国王「……分かった。持って行くがいい。」
大臣達がお考え直しを、と国王に詰め寄る。近衛兵達が相談して何人かが宝物庫へと走った。サヤ姫がホッと胸をなで下ろす。見物に来ていた貴族達がザワザワと話を始めた。
グレダ「ちゃんと治してやるから見てな!あーッハッハッハ!」
騒然とした謁見の間で、交渉を成功させたグレダは高らかに笑った。
アレスは光の剣を携えて、ローザとともに霧の中、川の上流を目指した。時折、動物のような四つ足の魔物に出くわすも、アレスはやすやすと切り捨てていった。
ローザ「もう少しで、声マネをする魔物の巣のはずですが……」
アレス「なぁ、ローザ。魔物ってなんなんだ?」
ローザ「生前の罪を拭いきれなかった人間の成れの果て。転生もできず、ましてや死者の都に入ることも許されず、醜く形を変えながら永遠と苦しみ続ける存在。」
アレス「そんな奴等にとどめを刺してるのか……」
ローザ「これは彼等にとって、きっと最後の救いなんですよ、アナタ。気にしないで。」
ぐけぇぇぇぇ!
霧の深い、石だらけの山の中で魔物の早期警戒の叫びがこだまする。アレスは光の剣の刀身を柄から出した。
ビジュン!
アレス「行くぞ!」
霧から出てくる魔物を片っ端から切り捨てていった。
剣聖、そんな神聖なものじゃない。そこにいたのは魔物相手にダンスを踊る狂戦士だ。アレスはそう思った。
アレス「お?」
敵陣に深く切り込みすぎたアレスは四方を魔物に囲まれた。
魔物A「コノヤロー!」
魔物B「好き放題暴れやがって!」
アレスに魔物が背後から飛びかる。しかし、
ドッ!
魔物の頭に矢が貫通する。
ドサッ
アレス『なんだ?!』
???「皆!団長に続け!」
おぉ!!!
その声と同時に、霧の中からアレスの同期たちが出てきて、魔物の群れに切り込んでいった。
騎士A「団長だけにいいところはやらせませんよ!」
アレス「お前ら、死んだんじゃ……」
騎士B「団長が遊びに来たってんで皆で来たんです。」
騎士C「そしたら、いきなり、魔物退治だーって奥さん連れて、行っちゃうんですから。」
騎士D「まだまだ、若いっすね団長は!」
皆の声が小さくなる。アレスがその事を気にしているとローザが抱きついてきた。気がつけば、辺りは闇、手にしていた光の剣もなくなっている。
ローザ「……アナタ。」
アレス「……俺はずっとここに居たい。」
泣き出したローザが顔を上げる。そのキスは塩辛い。
ローザ「まだ、ダメよ。あなたはやることがあるじゃない?」
妻と抱き合うアレスの後ろから魔女の声がする。
グレダ「小僧、起きろ。私が治してやったんだ。」
アレス「グレダ?なんでアンタがここに?」
グレダ「ダンに感謝しな?私を連れてきたのはアイツさ。」
遠くでダンが呼ぶ声がする。アレスは笑う。
アレス「行ってやるか。」
ローザ「いってらっしゃい、アナタ。」
グレダの進む後にアレスは続いた。
振り向いてローザに手を振る。
光。
アレス「俺はまた、ローザのところに行く。」
グレダ「ま、今度にしな。」
王立病院のベッドで目覚めたアレスの周りにはまだ若い騎士達の泣いて喜ぶ顔があった。
ダン「よかったな!アレス!」
ブリッジ「うおぉぉ!団長ぉ!」
ベッド脇に傅いて泣き叫ぶブリッジの頭を撫でながらアレスは気持ちを新たにした。
アレス『まだまだ、俺にはやることがあるよ、ローザ。』
グレダ「私は当分お前のとこに住む。」
魔法使いのところ、何不自由のない王宮にグレダは住むのだろうと考えていたダンはえぇ?と困惑した。
ダン「俺、アレスのとこに住まわせてもらってるだけなんだけど……」
グレダ「気にするな。奴には私から言っとくから。」
アレスは意識不明が長かったので、当分リハビリのために入院になる。幼女姿とは言え魔女と同居?ダンには考えられないシチュエーションだった。
魔法使い「勝手に決めるな魔女グレダ。」
グレダ「王宮を巣にしてもいいんだぞ?」
魔法使いはその言葉に反論できなかった。王宮が迷路になれば、最悪、国が滅ぶ。
グレダ「決まりだ。アヌの生態なんて一生お目にかかれないチャンスだ。」
ダン「なぁ、俺のことをアヌって呼んでるけど、なんなんだよそれ?」
グレダ「あぁ、魔女の上位種さ。この星を開拓した奴等の事をアヌっていうんだ。人間文明は忘れちまってるだろうがね?」
グレダはダンに家まで案内するように促した。
魔法使いの部屋の扉を開けて外に出るとそこにサヤ姫と婚約者の貴族がほかの貴族達と立ち話をしていた。
貴族達はグレダとダンに聞こえる音量で話している。
貴族A「おや、ちんちくりんな魔女と騎士見習いの小僧ですぞ?」
貴族B「触らぬ神に祟りなし、行きましょう。ウォール卿」
アンドリュー「まあまあ、皆様そう言わずに。魔女と交流してみませんか?」
グレダは一行に近づいていった。確かにそっちに出口はあるが、ダンはサヤ姫に避けられていると思っていたので別のルートで外に向かおうとしていた。
グレダ「やぁやぁ、皆さん、魔女の話ですかな?」
魔女は偏屈な変わり者とばかり思っていた貴族達はグレダが思いのほか、社交的に接してきたので面食らった。
アンドリュー「え、えぇ。魔女グレダ様は名医であるとか?」
貴族A「私の息子が医者を目指しています。何かアドバイスなどないでしょうか?」
グレダ「それは、それはぁ、素晴らしいですな。どの程度のことができるのか今度、拝見したいです。」
貴族Aは押し黙った。
貴族A『どの程度だって?!そりゃぁ、お前の足元にも及ばないだろうよ!』
グレダ「ほほぉ、そうですか。カエルの解剖。」
貴族A「!」
他の貴族達も絶句した。貴族Aの息子が医師の勉強半分、面白半分でカエルの解剖を続けていたのを聞いてたからだ。
そうこうしてると今度は貴族Bは左目を押さえて叫び声を上げた。その目からは血が流れている。
グレダは不敵に笑いながら貴族Bに駆け寄った。
グレダ「おやまぁ、私が診ましょう。」
皆は一斉に青ざめた。
グレダ「魔女の話題はほどほどに。口は禍の門。魔が事、凶事が起こりますぞ?」
ダンはその時、魔女を脅威に感じた。