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第20話 元最強のおっさん(35)、ふたたび皆を救う

 オーブリーが杖を振り下ろす。

 祭壇の月晶石が激しく明滅し、凝縮された破壊のエネルギーが、光線となって俺たちに襲いかかってきた!


「させん!」


 俺はミアとノエルをかばうように前に飛び出し、剣で光線を受け止めようとする。

 激しい衝撃。火花が散り、腕が痺れる。

 なんて威力だ……!


 オーブリーが杖から放つ禍々しい光線、衝撃波、そして空間そのものを歪ませるかのような不可思議な攻撃が、俺に絶え間なく襲いかかる。


「どうした、灰色の死神! 帝国の犬め! これが月影の真の力だ!」


 オーブリーは狂的な笑みを浮かべながら、祭壇中央の巨大な月晶石から、際限なく力を引き出しているようだった。

 その一撃一撃はヴォルフとは比較にならないほど重く、速く、そして予測不能。

 俺は全神経を集中させ、長年培ってきた剣技の全てを駆使して、辛うじてその猛攻を凌いでいた。


 剣で光線を弾き、衝撃波を最小限の動きで回避し、空間の歪みが生じさせる幻惑には、研ぎ澄ませた感覚で対抗する。

 だが、防戦一方だ。

 奴はこの祭壇そのものを味方につけている。


「マスター! 奴の攻撃パターンを分析しました! 杖の先端、ルーンが集中している部分が力の放射点です! しかし、エネルギー源は祭壇の月晶石! 接続を断たない限り、奴の力は尽きません!」


 後方からノエルの冷静な声が飛んでくる。

 瓦礫の陰に身を隠しながらも、彼女はその卓越した分析力で活路を探ろうとしてくれていた。

 分かっている。だが、あの月晶石とオーブリーの接続を、どうやって断つ?

 下手に近づけば、あの膨大なエネルギーの奔流に飲み込まれるだけだ。


「小賢しい女狐め!」オーブリーがノエルを一瞥し、牽制するように強力なエネルギー弾を放つ。


「ノエル!」


 俺は咄嗟にノエルの前へ飛び出し、剣でエネルギー弾を受け止める。

 凄まじい衝撃が全身を駆け巡り、体勢を崩しかける。

 やはり、まともに受け止められる代物じゃない。


「ククク……仲間を守るか、感心だな。だが、その甘さが貴様の命取りだ!」


 オーブリーは俺の隙を見逃さず、杖を天に掲げた。

 祭壇の月晶石が、これまで以上に激しく明滅し、空間全体が不気味な振動に包まれる。

 天井の星々が乱れ飛び、祭壇のルーンが禍々しい赤黒い光を放ち始めた。


「見せてやろう! この月晶石の真の力を! 帝国の腐敗も、愚かな人間どもの営みも、全てを浄化し、月影の理想郷を創り出す、始まりの光を!」


 奴は、この祭壇の力を暴走させ、ミルウッドどころか、より広範囲に影響を及ぼすつもりか!?

 そうなれば、第二、第三の【月狂事変】どころの話ではない。

 世界そのものが、この狂気に飲み込まれてしまう。


「やめ……て……!」


 その時、震える、しかし凛とした声が響いた。

 ミアだ。

 彼女は恐怖に顔を青ざめさせながらも、真っ直ぐにオーブリーを見据えていた。


「あなたの一族への想いは……わかります。でも、だからといって、こんな……こんなやり方で、他の誰かを傷つけていいはずがありません! 私たち月影の民は、星と月の巡りを読み、自然と調和して生きる民だったはず! その力を、破壊と復讐に使うなんて、間違っています!」


「黙れ!」オーブリーが怒号を返す。「お前はただ、新たな世界の聖母として、私に力を捧げれば良いのだ!」


「嫌です!」ミアは叫んだ。「私の力は、誰かを傷つけるためじゃない! 守るために……調和のために使う! それが、私の一族の、本当の教えのはずだから!」


 ミアは覚悟を決めたように目を閉じ、手を胸の前で組んだ。

 そして、古代の月影族の言葉で、静かに、だが力強く詠唱を始めた。


 ミアの詠唱に呼応するように、彼女自身が清らかな光を放ち始めた。

 その光はミアの全身を包み込み、白銀色の髪と蒼い瞳を、より一層輝かせる。

 まるで古代の巫女が降臨したかのように、神々しいまでの気配。


 ミアから放たれた清浄な光の波紋が、祭壇全体へと広がっていく。

 オーブリーが生み出した禍々しいルーンの光と、ミアの放つ青白い調和の光が、祭壇の上で激しくぶつかり合い、火花を散らす。

 ルーンと意志の、壮絶な激突。


「な……馬鹿な! この私の力が、小娘一人の力に……!?」


 オーブリーの表情に、初めて焦りの色が浮かんだ。

 ミアの純粋な祈りが、彼の歪んだ野望が生み出す狂気のエネルギーを中和し、その力の制御を乱し始めているのだ。

 月晶石の輝きも不安定になり、オーブリーの杖から放たれる力の奔流が、一瞬、途切れた。


 ――今だッ!


 この好機を、逃すわけにはいかなかった。


「オーブリーッ!!」


 地面を蹴り、一直線にオーブリーへと肉薄する。

 もはや、通常の剣撃では奴を止められない。

 俺は最後の切り札を切る。


 久々に全力を出す。

 剣の切っ先に、俺自身の魂をも込めるかのように。


 狙うは、オーブリーが持つ杖だ。

 月晶石と彼自身を繋ぎ、その狂気の力の源泉となっているであろう、ルーンが刻まれた中枢。


 それは、かつてヴォルフの力の源を断った一撃を、遥かに凌駕する神速の一閃。


 閃光。


 そして、ガラスが砕けるような、甲高い音。


「――な……に……?」オーブリーは目を見開く。


 俺の剣は、オーブリーの杖を見事に貫いていた。

 杖に刻まれたルーンは砕け散り、月晶石からのエネルギー供給が完全に遮断される。


 力を失い、行き場をなくした膨大なエネルギーが、オーブリー自身の内部で暴走を始める。

 彼の身体が、まるで内側から破裂するかのように、激しい光に包まれていく。


「馬鹿な……私の理想が……月影族の復興が……こんな、ところで……! 帝国の、犬風情に……!」


 断末魔の叫びと共に、オーブリーの姿は、制御不能となったエネルギーの奔流の中に飲み込まれ、眩い閃光と共に掻き消えた。

 彼の歪んだ野望も、復讐心も、全てが光の粒子となって霧散していく。


 後に残されたのは、破壊され、半壊した祭壇と、力を失い静かに光を放つ巨大な月晶石。

 そして、激しい戦闘の後の、重い静寂だけだった。


「……終わった、のか……?」


 俺は荒い息をつきながら、剣を杖代わりに身体を支える。

 全身が鉛のように重い。


 ミアは力を使い果たしたのか、その場にふらりと膝をついた。

 ノエルがすぐに駆け寄り、彼女を支える。


「ミア様、ご無事で!?」


「……はい、なんとか……」


 ミアの顔には疲労の色が濃いが、その瞳には、困難を乗り越えた者の、確かな輝きがあった。

 彼女は、自らの意志で、未来を選び取ったのだ。


 俺は深く息を吐いた。


 ――さぁ、カフェへ帰ろう。

カクヨムで新作書いてます!


『童貞のおっさん(35)、童貞を捨てたら聖剣が力を失って勇者パーティーを追放されました 〜初体験の相手は魔王様!? しかも魔剣(元聖剣)が『他の女も抱いてこい』って言うんでハーレム作って世界救います!〜』

https://kakuyomu.jp/works/16818622176113719542


本作を楽しんでいただける読者の方におすすめです!!


ぜひ第1話だけでも読んでみてください!!

フォローと☆評価お願いします!

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