八蹴 ターカオ
空久貴央
「保健室暮らしの良いところを教えてやろう!」
「はい」
「まず、金が掛からないんだ! 家賃とか払わなくていいし、
金が無限に貯まっていくんだ!」
「良いですね」
「あと、私はスーパーインドアだからな!
別にこの保健室という狭い空間で事足りるんだ!」
「凄いですね」
「そして通勤も楽だ! 何故ならここが職場だからな!」
「ルーラ要らずですね」
「ルーラ……幻野くんは、元の世界に帰りたいか……?」
「え、まあ、そりゃあ。でも、多分」
「いや、無理とは限らんぞ? 来れたのだから行けるだろ。
ただ、どう来れたのか分からんから、どう行くかもまだ分からんが」
そこで貴央先生はふと脳裏にドランゴが浮かぶ。
ドランゴは幻野くんよりも前に卵としてこの世界へ送り込まれた。
つまり、幻野くんが元の世界に戻る鍵を握っている可能性が高い。
しかし、貴央先生としては
「貴央先生」
「ん?」
「いつもありがとうございます」
「え? いや、だって、私は。君のことが」
そこで貴央先生は少し恥ずかしくなり、顔を伏せる。
「ターカオ」
「え?」
「僕の妹の名前です。貴女は、妹によく似ている」
貴央先生は息が詰まる。
「妹さんに、会いたいか……? あ、いや、愚問か」
幻野くんは何かを想起するように、視線を逸らした。
まずい。湿っぽい空気になってしまった。
と貴央先生は自戒する。
幻野大地