最蹴廻 推しの王子様
幻野大地
しかし、アパートは失敗だった。いや、何が失敗だったかというと、
隣の鋼野さんが反対隣の槍崎さんと遊びでキャンプファイヤーをしていたら、
キャッスルあかばねは全焼した。
「まあ、よくあるご近所トラブルさ」
「いや、全くよくはない気が」
貴央先生の話にサクマヒメは首を傾げる。
「そして私と幻野くんはまた保健室暮らしに戻ったが」
「おお、振り出しじゃな」
ふむふむ、とサクマヒメは何とか理解を得ようとする。
「思ったんだ。盤石ってどれだけ稼げば手に入るんだろう、ってな」
「オブジェクト設計士の卵みたいな疑問じゃな」
貴央先生のヘヴィーな話に、サクマヒメはネバーゲイブアップでワンモアチャンスする。貴央先生のベイビーはマグナムする。
「まあ、そうして家を買った訳だ」
「いや、まあ、そうなんじゃろうが。あれ? 今時間飛んだ?」
サクマヒメは近くにスタンド使いがいないか、と周囲を見渡す。
「しかし、馬鹿な買い物をしたものだ。もう彼はいないのにな」
「貴央先生……」
貴央先生とサクマヒメは、運命のあの日のことを思い出す。
「ドランゴが、女の子に……?」
「ハーハラ‼」
「ボッツ‼」
幻野くん改めボッツは、ドランゴ改めハーハラを抱き締める。そしてハーハラの
「ジンゲ‼」
という次元操作魔法により、時空の歪みが発生してしまう。貴央先生は理解した。もう彼は帰ってしまうのだろう。ハーハラと共に、元の世界へ。
「幻野くん‼」
「貴央先生、貴女の玉子焼き、美味しかったです。また、食べに来て良いですか?」
「あ、当たり前だ‼ いつでも来い‼」
「はい。ではまた」
そう良い、ボッツとハーハラは時空の歪みへ吸い込まれていく。長い、そして儚い夢だった。
「推しの王子様」
貴央先生のその台詞を、隣にいたサクマヒメだけは聞き入れた。サクマヒメは状況に似合わず、少し微笑む。これで幻野大地という少年との出会いから別れまで、全て終了したのだ。そこまで月日が経った訳でもないが、しかし無限に近い夢幻を見せてもらった。どれだけ上手いことを言っても、彼は戻ってこないというのに。
空久貴央