いざ隣国へ
王家の命を受け、第一王子リオネルが秘密交渉団の代表として動くことになった。
同行するのは、アリシア、カイン、第二王子シリウス──そして、重要参考人として魔物化薬の被害者でもあるレオン。
彼らの目的は、ただひとつ。
「人体実験と魔物化薬の出所を突き止め、隣国との友好関係を維持すること」
慎重な準備を経て、王都を発った一行は、隣国の首都へと密かに到着した。
到着早々、彼らは表向きの歓迎を受けた。
舞踏会、晩餐、謁見──
華やかな装飾と微笑みの裏で、どこか張り詰めた空気が漂っていた。
アリシアは、すぐに違和感を覚える。
城の周囲にかすかに漂う、薬品に似た異臭。
耳を澄ませば、床を擦るような足音が絶え間なく続いている。
(──この国は、平穏ではない)
カインが目配せを送り、すぐに影の護衛から報告が届いた。
「王宮内部に、我々の動きを探る者が複数潜んでいます。
また、敵対派閥がアリシア様を拉致しようと画策しているとの情報も──」
リオネルは顔色ひとつ変えず、低く命じる。
「敵が動く前に、こちらが先に動く。
証拠を掴め。隙を見せるな」
その夜──。
交渉団は隠密行動に移った。
カインとシリウスが警護に付き、アリシアとレオンは密かに影から得ていた情報をもとに向かう。
レオンが、震える声で告げた。
「あそこだ……昔、連れて行かれた場所……」
案内されたのは、王都郊外に打ち捨てられた教会跡地だった。
半壊した塔の内部には、埃にまみれた拘束具や、錆びた実験器具が乱雑に転がっていた。
アリシアは震える指で、そっとそれらに触れ、調査を進める。
「これ……成分に見覚えがある……
私たちの開発した薬と……どこか共通点がある……?」
壁の隙間から見つけた、朽ちかけた古書をめくったシリウスが、息を呑んだ。
「──これは……禁じられた古代技術……
人体を魔物化させる禁術だ!」
カインも険しい顔で呟く。
「つまり──隣国の闇組織は、禁書を掘り起こして、
魔物化薬を量産しようとしてるってことですか?」
しかも。
発見された実験薬の配合には、アリシアたちが開発した医薬の基礎技術を悪用した痕跡すらあった。
(……私たちは、人を救うために薬を作った。
なのに──)
アリシアは震える拳を強く握り締めた。
「許せない……!」
カインは周囲を警戒しつつ、鋭い声で告げた。
「ここを放っておけば、また犠牲者が出る。
証拠を持ち帰ろう。王家に報告して、次の手を打つ──!」
決意を胸に、一行は闇に沈む教会を後にした。
だが──
彼らの背後には、静かに忍び寄る影があった。
密命を帯びた暗殺者たちが、牙を剥き、じわじわと包囲を始めていたのだった。




