希望の芽
乾燥させたスギナ草とレミナ草を、台所の片隅でそっと煎じる。
ふわりと立ちのぼる草の匂いに、家族たちは顔を見合わせた。
「…意外にいい匂いだな」
兄が鼻をくんくんと動かす。
「ちょっと草っぽいけど、なんだか元気が出そうな匂いだね」
姉も興味津々だ。
母親が小さなカップにお茶を注ぎ、アリシアに差し出した。
「さあ、アリシア。まずは自分で味見してみる?」
アリシアはこくりとうなずき、そっと一口すすった。
ほんのり苦いけれど、後味はすっきりしていて、体の中からじわじわ温まっていく感覚があった。
「おいしい…!」
顔を輝かせるアリシアに、兄と姉も続いてお茶を飲んだ。
「うん、思ったより飲みやすいぞ」
「なんだか、体が軽くなった気がする!」
そんな中、ふと兄が自分の肘をさすった。
「…ん?なんだこれ」
兄の右肘には、昔剣術の稽古中に負った古傷があった。
痛みこそほぼないが、天気が悪い日にはじんわりうずく、厄介なものだった。
それが今、妙に軽い。むしろ、痛みが消えている。
「…嘘だろ。こんなに違うなんて」
驚く兄に、母親も姉も顔を見合わせる。
「アリシア、このお茶…本当に、体にいいみたい!」
にわかに沸き立つ空気。
アリシアも胸を高鳴らせながら、今度はレミナ草の根をすり潰して軟膏を作ることを提案した。
「お茶だけじゃなくて、塗る薬も作れるかもしれない…!」
さっそく家族総出で準備に取り掛かる。
蜂蜜と油を混ぜ、煮詰め、すり潰したレミナ草の根を加える。
できあがったのは、ほんのり草の香りがする、柔らかいクリームだった。
「よし、試してみよう」
兄が自ら志願し、手のひらに塗ってみると、みるみるうちに古傷の赤みが引いていく。
あまりの効果に、家族は目を丸くした。
「すごい…!」
「これ、使えるわ!」
姉が思いつきで、別に乾かしていたレミナ草の葉を細かく砕き、美容茶としてブレンドしてみる。
母親がそれを飲んでみたところ、翌朝には顔色が明るくなり、肌のつやも良くなっていた。
さらに、手荒れに悩んでいた若いメイド、リサにもクリームを塗ってみた。
「えっ…こんなにすべすべに…!」
リサは驚き、何度も手の甲を撫でた。
ガサガサで赤くなっていた手が、塗ったそばからしっとりと、柔らかく生まれ変わっていたのだ。
年配の執事も、古くから抱えていた膝の痛みに薬草茶を飲んでみたところ、数日で痛みがほとんど気にならなくなった。
「こ、これは…本当に奇跡だ…」
使用人たちは驚きと感動でざわめき、家族も嬉しさでいっぱいになった。
アリシアは小さな胸を張った。
(やった…!わたし、みんなの役に立てたんだ!)
庭に眠っていた宝物は、静かに、確かに花開き始めていた。
そしてアリシアの心にも、小さな自信と希望の芽が、力強く根を下ろし始めたのだった。