王家の庇護
「殿下、この薬は、取引に使われたり、利権の道具になったりしてはいけないものだと思うのです」
アリシアは真剣な眼差しでエドリアン王子を見上げながら言った。
まだ十二歳、もうすぐ十三歳とは思えないほどの覚悟が、その声には込められていた。
「必要な人に、ちゃんと届くようにしたい。お金や地位があるかどうかで、命の価値が変わるなんて、そんなのは嫌だから─」
その言葉に、父も母も、サミュエル神父も静かにうなずいた。
家族も同じ思いだったのだ。
王子は一瞬だけ目を見開き、そして微笑む。
その笑みには、どこか誇らしさすら滲んでいた。
「君の願い、きっと叶えよう」
彼はすぐに考えをまとめ、周囲と相談しながら提案を出した。
「薬の製造と分配は、アリシア嬢たち──君たちが中心となって行う。ただし、表向きには王家の指導と加護のもとで、という形にする」
「…王家の功績として?」
「そうだ。そうすれば王国内での配布網も整えやすいし、他国からの干渉も防げる。民の誰もが恩恵を受ける形になる」
重苦しい沈黙が一瞬だけ流れたが──すぐに、皆の間で静かな頷きが広がった。
「……その方がいいでしょう」
サミュエル神父が口を開き、アリシアの両親も深くうなずく。
「アリシアと、アリシアの願いを、守るために。」
アリシアも、胸に小さな痛みを抱えながら、こくりとうなずいた。
──こうして方針は決まった。
そしてついに、国王本人に薬液を用いる日が訪れる。
王の身体はすでに弱りきっていたが、それでも瞳は強く気高い意志を決して失ってはいなかった。
ブラッククミンの薬を、慎重に、慎重に王へと投与する。
結果は──
その日の夜、王宮から連絡が入った。
【容体が安定し、これまでにないほどに体調が上向いている】
【意識もはっきりし、食事をとれるまでに回復しつつある】
その報に、アリシアたちは文字通り、全員が肩の力を抜いた。
「……よかった……!」
小さく漏れる安堵の声。
アリシアも、胸いっぱいの思いで両手をぎゅっと握りしめた。
そして数日後──
王城から、金糸で縁取られた厚手の羊皮紙が届けられた。
そこには、国王直筆の感謝の言葉と共に、こう記されていた。
【王城へ来てほしい】
【ぜひ直に礼を伝えたい】
アリシアは、封書を胸に抱えたまま、長いこと動けなかった。
この胸に満ちる温かさと緊張と、ほんの少しの不安─。
そうして、アリシアたちは、王城へと向かう準備を始めたのだった。




