穏健派
サミュエル神父の調整により、アリシアたちは穏健派の王族と会うことになった。
王族と会う──それだけでも驚きだったが、まさかの第3王子・エドリアン殿下。
けれど、もはや後には引けない。
アリシアは爆発するのではないかというほど鳴り響く鼓動を押し隠しながら、背筋を伸ばした。─もうすぐ私は十三歳。
前世の記憶もある身として、子ども扱いされるのは嫌だった。
けれど、この若い身体に心が引っぱられるような感覚もまた否定できなかった。
王子は年の頃、十七、八といったところだろうか。王族に興味がなさすぎて正確な年齢を知らない事に今更気がついた。しっかりせねば。
王子は気さくな笑みを浮かべながらも、瞳の奥には冷ややかな光を宿している。
「君が……アリシア嬢か。噂は聞いているよ。とても優れた才覚を持っていると」
「……身に余るお言葉です」
アリシアは、ぎこちなくも丁寧に礼をした。
エドリアン王子はその様子に口元を緩め、席に促した。
──今回の件。
隣国の王家が間者を差し向けたという、重大な事実。
「我が国の王家に正式に報告すれば、隣国との緊張は一気に高まる。最悪戦争もありうる」
サミュエル神父が低く、重い声で告げる。
エドリアン王子もうなずき、静かに思案した。
「だが、隠し通すにも限界がある。いずれ隣国は次の手を打ってくるだろう。……問題は、“いつ、どこまで明かすか”だな」
静かながら、緊迫した空気が部屋を満たしていく。
そんな中、エドリアン王子はアリシアをまっすぐに見つめ、はっきりと言った。
「まず、君の安全を最優先する。僕の直属の影の護衛から、信頼できる者たちを派遣しよう。
表向きは、“領地防衛の強化”という名目で」
「……ありがとうございます」
アリシアは素直に頭を下げた。
一人ではとうてい背負いきれない重さ──
けれど、支えてくれる人たちがいる。その事実に、正直なところ安堵した。
「それと、王家への報告だが……」
エドリアン王子は静かに続けた。
「秘匿情報なのだが…父上は今、病に伏していて細かな政務にまでは手が回っていない。
なので直接ではなく、信頼できる側近を通じて、必要最小限の情報だけを流す。
アリシア嬢に危険が及ばないよう、細心の注意を払う事を約束しよう。」
サミュエル神父も、深くうなずく。
「表に出す情報と、裏で動かす策。
二重の備えをもって、この危機を切り抜けましょう」
アリシアは、小さく息を吸い込んだ。
怖くないと言えば嘘になる。
けれど──この場にいる彼らの存在が、心を支えてくれる。
(守られるだけではなく、私も強くならなくちゃ)
小さな決意を胸に刻み、アリシアはまっすぐ顔を上げた。
「……私も、できる限り頑張ります」
まだ幼い声だったが、その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。
──こうして、新たな守りの網が、静かに張り巡らされていった。




