新たな決意
会議室の空気が張り詰めていた。
魔物を利用した襲撃事件、その裏に隣国の王家の影──事の重大さを前に、アリシアたちは沈黙していた。
その場にはアリシア、兄のレオン、両親、影の護衛カイン、そしてサミュエル神父が集まっていた。
「……やはり、隣国の王家が関与している以上、我が国の王家にも報告しないわけにはいかないだろう」
父の重い声が響く。
「隠して済む問題ではない。外交の火種になりかねん」
「……ええ、わかっています」
アリシアは神妙な面持ちで頷いた。
その時だった。
サミュエル神父が静かに、しかし強い意志を込めて言葉を発した。
「その件、私に任せていただけませんか」
皆が一斉に神父を見た。
「実は、私は王都の教会本部を通じて、王家の顧問枢機卿と定期的に連絡を取っています。
かつて、彼の命を救った縁があり……今でも個人的なコネクションがあります」
驚きの声が上がる。
「なぜ、今まで……?」と母が問いかけると、神父は静かに答えた。
「アリシア様の特異性が知れ渡れば、王家ですらその力を“利用”しようとするかもしれない。
それを恐れて、私はあえて情報の一部を王家に伏せてきました。
“神の加護を受けた薬草に精通した娘”という程度の伝え方にとどめてあります」
「私を……守るために……」
アリシアの目に、じわりと涙が滲んだ。
「あなたの力は、人を救う力です。
だからこそ、それを囲い込もうとする者から、私はずっとあなたを遠ざけたかったのです」
サミュエル神父の目は、優しくも、強い覚悟に満ちていた。
アリシアは深く息を吸い込み、涙を拭った。
「……ありがとう、神父様。私は……もう逃げません。
たとえ王家に知られようと、私の意思で、人々を救う道を選びます。
でも──守ってくれる人たちがいるから、私は立ち続けられる。
これからも、どうか力を貸してください」
その言葉に、神父も、家族も、皆が頷いた。
「もちろんだ、アリシア。私たちは家族だ」
父が穏やかに笑い、レオンが続けた。
「一人で抱え込むなよ。俺たちは、ずっとそばにいる」
「命に代えても、お守りします」
カインも短く、だが確かな決意をにじませて答える。
会議の空気が、重苦しさから希望へと変わっていく。
そう──この日、アリシアはただ守られる存在ではなく、自らの意思で「戦う覚悟」を持った。
その覚悟が、後に大きなうねりとなって世界を変えていくことを、この時まだ誰も知らなかった。




