まさかの効果
とある昼下がり、協会から慌てた様子で使者が訪ねてきた。
教会からの急報に、アリシアたちは急いで教会へ向かった。
サミュエル神父の報告によると、「冷やしたエスプレッソ」を呪いにかかった者に与えたところ、なんと呪いの影響が次第に薄れていき、数日後には驚くほど回復したというのだ。
「そんな……本当に?」
アリシアも驚きを隠せなかった。
だがサミュエル神父は頷き、重々しく言葉を続けた。
「呪いによる肉体と精神への侵蝕が、冷えたエスプレッソを飲んだことで止まり、さらに回復まで促した。これは……神の奇跡と言ってもいい。」
アリシアは考え込む。
(エスプレッソに、そんな効果が…?)
彼女はふと、以前試作した「カカオの原液」のことを思い出した。
カカオにはわずかながら”気分を高揚させる効果”があると確認していた。
――もし、冷えたエスプレッソとカカオ原液を合わせたら?
「もしかすると……呪いだけでなく、精神的な傷や、心の闇にまで効果が及ぶかもしれない……!」
アリシアは家族と相談し、すぐに試作品を作ることにした。
カカオ原液と冷えたエスプレッソを慎重に混ぜ合わせ、新たな飲料を完成させる。見た目も味も、前世でのカフェモカそのものだ。
その味は濃厚で、ほのかにビターな香りと甘みを持ち、飲むと体の奥から温かさが広がるようだった。
まずは、教会にいる重症の患者に試してもらうことにした。
最初に試したのは、呪いによる精神崩壊寸前だった若者。
一口、また一口と飲み進めるうちに、彼の曇った瞳に光が戻っていく。
「……な、なんだこれ……心が…楽になる…」
サミュエル神父は息を呑み、アリシアに向き直った。
「……これは”奇跡の霊薬”になるかもしれない。」
それを聞き、アリシアは強く胸に誓った。
(この力を、誰かのために正しく使おう……絶対に。)
だが同時に、これほどの効果を持つものが存在するとなれば、
それを利用しようとする勢力も現れるに違いない――
アリシアたちは、冷たいエスプレッソの驚くべき効果について、再び恒例の家族会議を開いた。
屋敷の一室に家族が集まり、アリシアは慎重に口を開いた。
「冷えたエスプレッソが呪いを解く…推測でしかないんだけれど、コーヒーの木は土地に関係している気がするの。」
「土地に関係……って?」と兄が首を傾げる。
アリシアはうなずき、静かに語り出した。
「この世界のコーヒーは、栽培を試みたけれど瘴気の多い森でしか芽すら出なかったでしょ?うちの領地も、かつては貧しい荒地とされていて、森は瘴気に満ちていたでしょう?
前世の知識では、ハーブは自然の中で負のエネルギーを浄化するために強く育つ植物だと言う人もいたの。その土地に住まうものに足りないものを補うように咲く…。おそらく、コーヒーも同じなのかもって…。」
家族たちは、アリシアの言葉にじっと耳を傾けた。
「つまり……瘴気に対抗する力を持っているかもしれないってことか」と父が静かにまとめる。
アリシアは頷いた。
「だから、コーヒーを飲むだけでも多少は効果があると思う。でも、冷やすことで力が凝縮されるなら、冷えたエスプレッソは、呪いや瘴気に対して特別な効果を発揮するんだと思うの。」
「なるほどな…」
兄も腕を組み、真剣な表情になる。
「だったら、うちの領地だけに留めておくべきじゃないな。」
父も深く頷いた。
「広く流通させて、人々の健康や命を守るべきだ。」
母も力強く同意した。
アリシアは、家族みんなの賛同を得て、ほっと笑顔を見せた。
(これで、少しでも多くの人が救われるなら――)
だが、広めるには課題も山積みだった。
育てるには瘴気に満ちた土地が必要であり、簡単には生産できない。
輸送方法や保存の問題、冷やした状態で届ける技術も必要になる。
それでも、アリシアたちは決意を固めた。
この世界に生きる人々を、少しでも救うために。
貧しい土地に希望をもたらすために。
「よし、まずは商業ギルドと教会を巻き込んで領内に冷たいエスプレッソを安定供給できる体制を作ろう!」
父の言葉に、皆が頷く。
アリシアは胸の奥からふつふつと湧き上がる使命感を感じながら、次のステップに向けて動き出したのだった。




