教会お墨付き
薬草を漬け込んだ薬草酒が、ゆっくりと香りと成分を引き出しながら熟成を進めるころ、アリシアたちはまず完成した消毒液を教会へと持ち込んだ。
教会の聖職者たちは、蒸留酒による消毒効果に大いに驚いた。
「これは……まるで神の恩寵のようだ!」
善良なお人好しで知られる司祭が、感激した声を上げる。
試しに小さな切り傷に消毒液を使ってみると、傷がきれいに保たれ、癒える速度も早い。
これまでの薬草や祈祷だけでは防げなかった感染症への対策として、教会は即座にこの消毒液を医療用に採用することを決定した。
「アリシア様、これで救える命が格段に増えます。本当にありがとうございます!」
聖職者たちが深々と頭を下げるのを見て、アリシアも照れながらも小さく微笑んだ。
一方、薬草酒も試飲され、こちらは健康増進用の飲み薬として、慎重に扱うことになった。
教会から帰ったその夜、恒例の家族会議が開かれた。
「さて……次は蒸留酒の一般販売についてだな。」
父が真剣な表情で言う。
アリシアは一呼吸置いてから口を開いた。
「前世ではね…お酒が原因で病気になったり、依存して人生を壊してしまう人もたくさんいたんだ。」
家族たちは静かに耳を傾ける。
「だから、嗜好品として販売するなら、誰でも簡単に手に入るようにはしない方がいいと思う。量を管理できるようにしたり、未成年には絶対に売らないとか。」
母も深く頷いた。
「確かに…あまりにも安く大量に出回れば、苦しむ人も出てしまうかもしれないわね。」
「それに、今はまだ新しいものだから、余計に扱いに注意しないとな。」
兄も賛同する。
父は腕を組み、考え込んだあと、力強く言った。
「よし。蒸留酒は正式に”特別許可品”として扱う。信頼できる商人にしか卸さず、教会とも連携して管理していこう。」
アリシアはほっと胸をなでおろした。
領民たちの生活を豊かにするために作ったものが、誰かを傷つける道具になっては意味がない。
だからこそ、慎重に、一歩ずつ。
こうして蒸留酒と薬草酒の取り扱い方針が定められた。
教会から正式に「医療用消毒液としての効果が認められた」という認可を得たことで、アリシアたちは蒸留酒の一般販売に踏み切る準備を整えた。
「いよいよだね。」
アリシアは晴れやかな顔で、家族を見渡した。
販売初日、領内の広場に設けられた仮設の販売所には、教会の紋章を掲げた立て札が立てられていた。
そこにはこう記されている。
──「適量を守り、節度ある楽しみを」──
──「教会推奨の医療用消毒液としても使用可能」──
教会の後押しがあることで、領民たちの不安も薄れ、興味を持った多くの人々が集まってきた。
「これが、例の消毒液にもなるっていう酒か!」
「少し飲んでもいいのかしら?医者の薬草酒みたいなもんだろ?」
人々は興味津々で、試飲用にごく少量だけ提供された蒸留酒を味わってみた。
「うわ、すごい……体がポカポカしてくる!」
「香りも良いね、飲みすぎ注意っていうのも分かる気がする!」
口々に感想を述べながら、領民たちは蒸留酒の新しい力に驚き、慎重に、そして嬉しそうに瓶を買い求めていった。
販売にあたっては、年齢確認のために小さな証明書の提示を求めるようにし、未成年への販売は禁止した。
また、一人当たりの販売量も厳しく制限し、教会と商業ギルドが協力して定期的に管理する体制も整えられた。
その様子を見ながら、アリシアは胸を張った。
(これなら、領民たちを傷つけることなく、ちゃんと役立てるはず。)
一方、蒸留酒を医療用消毒液として求める教会関係者たちもやってきて、専用の医療用ボトルに詰めて受け取っていった。
怪我の治療や、手術の際の清潔維持にすぐにでも役立てられると喜ばれ、アリシアは改めてこの世界での蒸留技術の可能性を感じるのだった。
「これからが本当のスタートだな。」
隣で父が、静かに言った。
アリシアは力強く頷いた。
──こうして、アリシアたちの生み出した蒸留酒は、「命を救う新たな道具」として、そして「節度ある楽しみ」として、領地に静かに、しかし確実に根づき始めた。




