国王陛下の思い
騒動の一週間後、ラウラは父であるマーベリック公爵に連れられ、国王フレドリックの私室に招かれていた。
「ラウラ孃、息子のこと礼を言う。ありがとう、君のお蔭だよ」
国王陛下はいとこなだけあって父と少し面差しが似ている。金髪に碧眼なところも同じだ。優しい目で言われ、ラウラの緊張も少し緩んだ。
「時々、同じ夢を見ておりました。長い黒髪にエメラルド色の目をした女の人が、黒髪に碧い目をした男の子を抱いて、この子を助けて欲しいって、救って欲しいって」
ラウラの言葉に国王陛下だけでなく、ラウラに付き添っていた父も驚きに目を見開く。
「リシャール殿下に偶然お会いして、その夢の意味が分かったのです。きっと王妃様が伝えて下さったんだって」
「そうか、リアーヌが……。そうか、そうだったのか、ラウラ孃ありがとう」
国王陛下は泣いていた。例え信じてもらえなかったとしても、ラウラはどうしてもリアーヌ王妃の思いを陛下に知ってもらいたかったのだ。父と共にただ静かに佇み、陛下の感情が落ち着くのを待つ。
「グレイスの魔力のことは何故分かったんだい?」
「王妃様が教えて下さいました。妃殿下の闇の力に気をつけるようにと」
ここは心苦しいが誤魔化すしかない。それを説明するには転生のことを口にしなくてはならなくなる。
「そうか……ラウラ孃に頼みがある。リシャールと婚約し、力になってあげてくれるかい?」
「はい。リシャール殿下のお力になれたら嬉しく思います」
国王陛下は満足そうに頷くと、ラウラと父をリシャール王子の私室へと案内してくれた。
「怯えるばかりでね、少しも話そうとしないんだ」
陛下が私室の扉を開くと、部屋の隅でリシャール王子が小さくなって震えている。
「リシャール殿下、ラウラです。この前お会いしましたね。覚えて下さっていますか?」
ラウラが怖がらせないよう、ゆっくりと語り掛けると、俯いていたリシャール王子が弾かれたように顔を上げる。
「僕、ラウラのこと覚えてる」
「お約束通り会いに参りました。わたくしと仲良くして下さいますか?」
リシャール王子はパアッと顔を輝かせ、微笑みながらコクリと頷いてくれた。王子の小さくて細い手を取ると、ラウラは彼を外の庭園へと連れ出す。
そんな二人の姿を見送った国王フレドリックとラウラの父カイルは顔を見合わせていた。
「いや、本当に驚いたよ。ラウラ孃まだ五歳だろう?セインも優秀な子だけど、ラウラ孃はとんでもなく聡い子だね。君の家では一体どんな教育をしているんだい?」
「親の私もびっくりしていますよ。以前は寝込むことも多く、皆心配しておりましたが、少しずつ活発になって参りましてね」
「まさかリシャールがあんな笑顔を見せるなんてね。あの時のラウラ孃、まるで聖母様みたいだったよね。リアーヌの夢の件といい、聖女がいるのだとしたら、きっと君の娘みたいな子かも知れないね」
「まあ、うちの子達が天使であることは否定しませんがね。ところで陛下、ラウラが婚約ってどういうことなんです?まだ五歳ですよ?しかも本人もあっさり了承してしまうし…」
「リアーヌが選んだ子だよ?神のお導きだと、私にはそうとしか思えないんだ」
リシャール王子の手を引きながら一緒に庭園を散歩している頃、父親同士がこんな会話を繰り広げつつ、今後の対策を練っていたことなど、ラウラは知る由もないのであった。