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誕生祝いの茶会



 緩く波打つ淡い金髪をハーフアップの編み込みにして、瞳の色に合わせたラベンダー色の清楚でふんわりとしたワンピースを着せてもらい、すっかりラウラはご機嫌だ。やっぱり可愛く着飾ると気分が上がるものである。


 王都リベラの小高い丘に建つマーベリック公爵邸からも、その華やかな街並みを見渡すことは出来るが、馬車の窓から間近に感じる街の活気にラウラの心は浮き立つ。しかし、そんな高揚感も王宮に近づくにつれ萎んでいった。


 初めての登城という緊張感も勿論ある。しかしそれ以上に不安に駆られるのがある人物に恐らく、いや確実に顔を合わせることになるだろうということだった。


 本日行われる誕生祝いの茶会の主催者であり、アルフレッド第一王子の生母、国王の側妃グレイス。彼女こそ「レインフォールの乙女」においてライゼン王国を覆う闇の元凶そのものなのだ。


 馬車から降り立ったラウラはキュッと唇を引き結ぶ。大丈夫!父、マーベリック公爵は国王のいとこである上に国王派の忠臣だ。グレイス妃にとっても敵対することは望ましくない存在のはず。無難にやり過ごすことさえ出来れば何ら問題はない。


「ラウラちゃん、少し緊張してしまっているのかしら?大丈夫よ、お母様もお兄様も一緒ですからね」

 

「そうだよ、ラウラ。お兄様がついてるよ」


 表情が強張っていたのか、母フローリアと兄セインが気遣って声を掛けてくれる。胸がじんわりと温かくなり、繋いでいた母の手に少しだけ力を込める。


 前世では家族の優しさや温もりを当たり前のように思っていた。でもそれがどんなに幸せなことだったのかと、今のラウラは思う。受け取った優しさや温かさをちゃんと返したい、言葉にして伝えたい。


「ありがとう。お母様、お兄様、大好きです!」

 

 にこっと笑ったラウラに母と兄は、わたくしもよ、僕もだよ、と嬉しそうに微笑んでくれた。


 そうだ!ラウラは由緒正しきマーベリック公爵家の令嬢なのだ。大好きな家族に恥ずかしい思いなんてさせたくない。グレイス妃が恐ろしくないと言えば嘘になるけれど、堂々と彼女の前に立ってみせる。


 気を抜けば怯みそうになってしまう心を懸命に奮い立たせ、母と兄と共に歩みを進めていると、程なく薔薇の咲き誇る庭園に到着した。


 王族の誕生祝いは年頃になると公式の祝賀会が催されるが、年少のうちはこうしたガーデンパーティーを妃主催で行われるのがライゼン王国の通例で、招待客は子女を伴った夫人達がほとんどだ。


 母と兄と連れ立って向かう先で、金髪碧眼の可愛らしい少年とブラウンの髪にグレーの瞳の貴婦人が招待客からの挨拶を受けていた。グレイス妃とアルフレッド王子だ。


 ストーリー開始がおよそ九年後なことを考えると当然のことではあるが、グレイス妃はゲームでの記憶よりも少し若く、アルフレッド王子もずっと幼い。ラウラはグッと拳を握り締める。……さあ、いよいよだ!


「グレイス妃殿下、アルフレッド殿下。マーベリック公爵が娘ラウラ、お目通りが叶い光栄に存じます。アルフレッド殿下、本日は誠におめでとうございます」


 母と兄が卒なく挨拶を済ませると、続いてラウラも淑女の礼をとり、練習して来た挨拶を口にする。うん、何とか上手く出来たと思う。


「あら、流石はマーベリック公爵家のご令嬢ね。将来が楽しみですこと」


「ありがとう!ラウラ孃。今日は楽しんでいってね!」


 無邪気に笑うアルフレッド王子に比べ、グレイス妃はその目にどこか値踏みをするような光を湛えて微笑む。絡みつくような、でもどこか温度を感じさせない視線に背筋が凍る。瞬間的に思った、やはりこの人は嫌な感じがする。恐ろしい人なのだと直感した。


 

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