結婚式
その日の王都リベラは雲ひとつない、抜けるように青い空が広がっていた。新たに王太子夫妻となる二人の結婚式とあって、ライゼン王国内のみならず近隣諸国からも、二人の姿をひと目見ようと、多くの人々が集まっていた。
結婚式の執り行われる大神殿は勿論、パレードが行われることになっている街道から王宮にかけての道のりの沿道は、大勢の民衆で埋め尽くされている。そこかしこで人々が祝いの歌を歌っては踊り、多くの出店も出ていて王都中がお祭り騒ぎだ。
リシャールとラウラは幼い頃からの努力の甲斐あって、二人揃って抜きん出た優秀な成績で王立学園を卒業した。二人が平民出身である聖女キャロルと親しい関係であることも広く知られていて、そんな気さくさも多くの国民達の心を掴んでいる。
そして、聖女キャロルと共にこのライゼン王国を救ったという物語は何より国民を熱狂させた。リシャールは聖獣に選ばれし王子、ラウラは光の乙女と呼ばれ、爆発的な人気を誇っている。
しかし、それ故に二人にのし掛かる責任は重い。国のために民のために、これから誠心誠意尽くして行くことが二人に課せられた使命だ。でもリシャールと二人、周囲の人々の力を借りながら、一つ一つ乗り越えて行きたいと思っている。
「ラウラちゃん、とっても綺麗だわ。世界一美しい花嫁さんね」
挙式を直前に控えたラウラは花嫁の控室で母フローリアと二人、ラウラ・マーベリックとしての最後の時間を過ごしていた。
「お母様、今まで育てて下さったこと、深く感謝致します。わたくしはお父様とお母様の娘に生まれて、とても幸せでごさいました」
大粒のダイヤモンドが散りばめられた上品なティアラが、美しく結い上げられた淡い金の髪に輝く。亡きリアーヌ王妃が着けていた、この国で最も高貴な女性のためのティアラだ。純白の花嫁衣装に身を包んだラウラの瞳に涙が滲む。
「泣いては駄目よ、折角のお化粧が崩れてしまうわ。フフッ、でもわたくしも泣いてしまいそうよ」
「お母様……」
「ラウラちゃん……いいえ、王太子妃殿下、共に暮らすことはなくなっても、わたくし達はいつもあなた様のことを想っております。すぐにだってお傍に駆けつけますわ。どうかお幸せに……」
潤んだ瞳で母はラウラのウエディングベールをそっと下ろす。今日、ラウラはマーベリック公爵家の娘から、王太子リシャールの妻に、ライゼン王国の王太子妃となるのだ。
目元を潤ませた父カイルにエスコートされながら、ラウラは一歩一歩愛する人の待つ、祭壇の前へと進む。王太子妃となる女性に相応しく、気品高く優美に歩みを進める花嫁の姿に、参列者達は感嘆の息を漏らす。
その中には既に号泣してしまっているセインの姿や、嬉しそうに微笑んで見つめるキャロルとサイラス、アルフレッドの姿もあり、国王陛下の隣にはおすまし顔をしたベリルが行儀よく座っている。
ベール越しに目が合うと、リシャールの綺麗な碧い目が細められ、優しく微笑む。ラウラが大好きなリシャールの表情だ。愛しさが募り、胸がいっぱいになる。
父から渡されたラウラの手を、リシャールの手が迎える。そして二人が祭壇の前で並び立つと、大神官が穏やかな顔で口を開いた。
「ライゼン王国王太子リシャール殿下、あなたはラウラ・マーベリックを妻とし、この先、いつ如何なる時も愛し、尊敬し、慰め、助け、生涯を通してこの誓約を守り続けることを誓います」
「はい。私の全てを懸けて誓います」
「ラウラ・マーベリック嬢、あなたはリシャール殿下を夫とし、この先、いつ如何なる時も愛し、尊敬し、慰め、助け、生涯を通してこの誓約を守り続けることを誓いますか?」
「はい。心よりお誓い申し上げます」
二人は結婚誓約書にサインをし、指輪を交換する。そして、リシャールがそっとラウラのウエディングベールを上げた。
「世界で一番君が綺麗だ」
碧い瞳が愛おしげにラウラを見つめ、ラウラの長い睫毛が静かに伏せられる。リシャールの顔がゆっくりと近づき、二人は誓いの口づけを交わした。
神々のレリーフが刻まれた大神殿のドーム型の天井の窓から差し込む太陽の柔らかな光が、寄り添う二人を包み込むように照らし、参列者達から盛大な拍手が湧き起こる。ここにライゼン王国の若き王太子夫妻が誕生したのである。
そして、祭壇を後にする二人の頭上を、参列者達が祝福の思いを込めてそれぞれに宙に放った羽毛が舞う。ふわりと舞い、ひらひらと揺れる真っ白な羽を見て二人は幸せそうに微笑む。まるで絵画のように美しい二人の姿を、皆が温かな気持ちで見守った。
神殿を出た二人を多くの人々が歓喜の声で出迎え、今度は祝福の花びらが舞う。今日はライゼン王国中の花屋の店先から、花達はその姿を消しているかも知れない。
馬車に乗り、にこやかに沿道の観衆に手を振りながらパレードを行う王太子夫妻の姿に、人々は大歓声を上げて熱狂する。
「これだけの人達が祝福して下さっているのですね」
「そうだね、身が引き締まる思いだ。こうやって笑ってくれる皆の笑顔を守って行けるよう、頑張らないといけないね」
「ええ、心を尽くして行かなければ」
「でも、ラウラと一緒ならきっと頑張って行けると思うんだ」
「ええ、リシャール様。わたくしもあなたと一緒に乗り越えて行きたい」
「ラウラ、愛してるよ」
「リシャール様、愛しております」
二人が口づけ交わすと、ひと際大きな歓声が起こり、花びらが一斉に王都を舞う。夢のように幻想的で、美しい景色だ。多くの人々に祝福された今日のこの日を、この感動を、生涯忘れることはないだろう。
どんな困難も二人で一緒に乗り越えて行こう。これからもどんな時だって、二人はずっと一緒だ。
以上で完結です!読んで下さった方、またブックマーク・評価・いいねまでして下さった方、本当にありがとうございました!誤字報告も本当に感謝です!
誰にも読んでもらえないかなぁ、と思っていたので、とても嬉しかったです!
また番外編など書けたら投稿したいなぁっと思っています!ありがとうございました!




