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デビュタント



 あの事件から時が経ち、リシャールとラウラは十六歳となっていた。王立学園の一年生として学んでおり、もうすぐ二年生だ。一学年上にキャロル、セイン、アルフレッドが在籍している。


 事件の後、アルフレッドは将来的に臣籍に下ることを決めた。公爵として、王家の直轄地を治めていくことになっている。現在もグレイス妃が幽閉されている、あの北の塔のある領地だ。


 北の塔の祭壇は国王陛下の命によって修繕をされ、今はかつての輝きを取り戻して、神官達がやって来るようになった。折に触れラウラ達も北の塔に出向き、神々や亡きリアーヌ王妃に感謝の祈りを捧げている。


 あれから毎年、アルダバード遺跡では鎮魂の行事が執り行われるようにもなった。神官達やキャロルと共に、ラウラ達も毎年彼の地を訪れている。


 今年、キャロルとサイラスの婚約が決まった。キャロルの猛烈アタックにサイラスが応えたのだ。キャロルと二人、ラウラは涙を流して喜び合った。大切な二人が結ばれるなんて、大きな喜びだ。


 マーベリック公爵家の後継者であるセインは、相変わらず令嬢達に大人気で、学園では女生徒達に囲まれ、夜会に出掛ければ令嬢や貴婦人に囲まれる日々を送っている。優しすぎるのも考えものである。


 そして、リシャールは学園卒業後に王太子となる。そしてラウラとの婚礼の儀を迎える予定だ。初めは兄を差し置き王太子となることに困惑していたリシャールだったが、アルフレッドの決意は固く、説得された形となった。


 隣国の王女であり、国王フレドリックに嫁いで王妃となったリアーヌをグレイス妃が死に至らしめた事実は消えず、アルフレッドがいずれ国王となれば、リアーヌ王妃の祖国との新たな軋轢を生むことになり兼ねない。


 それに、許されることのない大罪を犯した母を正し続けるのだと、アルフレッドは決意を込めた顔で言った。アルダバード遺跡のある地も含め、真面目過ぎるほどに誠実なアルフレッドならば、正しく治めて行ってくれるだろう。


 そんな兄の姿を見て、リシャールはライゼン王国を背負って行くという決断を下した。学園卒業後、王太子妃となるラウラもリシャールを支え、国と民に尽くして行く覚悟だ。ベリルも相変わらず二人の傍にいてくれている。


 そして今日、ラウラはデビュタントの日を迎えていた。ライゼン王国では、十六歳を迎えた令嬢達が、国王陛下へ挨拶をした後、貴族達の前でダンスを披露する夜会が開かれる。この日は令嬢達が主役なのだ。


 王子の婚約者であり、公爵令嬢のラウラが最も高位の令嬢となり、リシャールと二人、皆の前で一曲踊った後で、令嬢達が続いてダンスを披露し、その後、全員が参加するダンスパーティーとなる段取りとなっている。


 令嬢達の親族や、若年層の貴族達の参加者の多い夜会だが、今年は王太子となることが決定しているリシャールと、婚約者であるラウラが参加するということで、例年以上に注目度が高く、多くの貴族達が集まる予定となっており、かなり大々的なものになりそうだ。


 更にぐんと身長が伸びて凛々しくなり、男らしさを増したリシャールは、白のクラバットに黒のコート姿だ。彼にエスコートされながら、純白のドレスを身に纏ったラウラは会場へと向かう。


「ラウラ、なんて美しいんだろう。今日の君をエスコート出来て、俺はとても幸せだ」


「リシャール様こそ、とても素敵ですわ」


 二人が会場へ入ると、会場中の視線が二人へと集まる。王立学園でも大注目を浴びている二人は、もう慣れたものである。リシャールが一緒にいてくれるなら、そんな視線も怖くなんてない。


「リシャール殿下とラウラ様よ。ああ、お二人とも麗しいわー!」


「お似合いよねー!学園でも仲睦まじくされていて、憧れちゃう!」


「ああ、あんな恋がしてみたいわよねー!」


 ねー!と令嬢達は声を揃えて感嘆の息をつく。


 国王陛下に挨拶を終え、ホールの中央へと向かう二人の姿を会場中の貴族達の視線が追う。楽団の演奏が始まり、二人は寄り添い踊り始めた。


 幼い頃からずっと一緒に練習して来たダンスである。当然、息もぴったりで、二人は会場中の人々の心を魅了しながら、ホールを鮮やかに彩り、華々しく廻っていく。


 まるで周囲から切り離された空間の中で、二人きりの時間を過ごしているかのように、リシャールのサファイアのような碧い瞳とラウラのラベンダー色の瞳が見つめ合い、二人はお互いへの想いを込めて微笑み合う。


 軽やかにステップを踏みながら、二人は実に優美に、時に情熱的に、そして気品高く踊る。二人の華麗で甘やかなダンスを会場の人々は魅入られるようにうっとりと見つめた。


 そして踊り終えた二人を、会場中から歓声と盛大な拍手が湧き起こる。そしてその興奮がさめやらぬ中、リシャールはその場で片膝をついた。人々は一斉に口を噤み、波を打ったような静けさが会場を包み込むと、誰もが息を呑んで成り行きを見守る。


 リシャールはその碧い瞳に真摯な光りを湛え、片手を差し出すとラウラを見つめた。


「ラウラ、君が私を見つけてくれたあの日、私の世界の全てが変わった。君の勇気が、優しさが、いつだって私を救ってくれた。ずっと一緒にいてくれてありがとう」


「リシャール殿下……わたくしのほうこそ、あなたが一緒にいて下さるから、ずっと頑張って来られたのです」


 そう、ずっとリシャールを守りたいと思う気持ちが、いつだってラウラを動かして来た。共に笑って、泣いて、一緒に乗り越えて来たその人は、ラウラにとって、たったひとりの愛する人になっていたのだ。


「嬉しいことがあった日も、悲しいことがあった日も、どんな時だって、私は君と共にありたいと願う。君と歩む未来以外、私には考えられないんだ。ラウラ、結婚して欲しい。君だけを愛している」


「リシャール殿下……わたくしもずっとあなたと一緒に生きて行きたい。わたくしの幸せはいつだってあなたと共にあります。心から、あなたをお慕いしております」


 感極まって、全身に込み上げる感情を堪えきれずにその瞳から涙を零しながら、ラウラはリシャールの手を取る。ラウラの指にロンググローブの上から大粒のダイヤモンドの指輪を嵌めると、そのままリシャールの腕がラウラを引き寄せ抱きしめる。


 その瞬間、大歓声と割れんばかりの拍手で会場中が揺れた。興奮の渦の中、感涙に咽ぶ人の姿も多く見られ、令嬢達も例外ではなかった。この日の出来事はその後も長く語り継がれ、若者達の憧れる伝説のデビュタントとなったのである。


 その後、リシャールとラウラは令嬢達をホールの中央へと招き、楽団の演奏が再開した。今日の主役である彼女達のダンスが始まる。晴れやかな笑顔でダンスを披露した令嬢達の頬には涙の跡が残っていたという。


 想い合う二人の姿に感化され、ライゼン王国の社交界では現在、急増した恋人達がそれぞれの恋物語を繰り広げている。


 

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