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新たなるストーリー



「聖女様、祈りを」


「私の邪魔はさせないっ!」


 サイラスが口を開くと、ベネディクトが祈り始めようとしていたキャロルに注意を向け、漆黒の炎を放った。


 咄嗟にリシャールとサイラスが水の攻撃魔法を放って炎を打ち消す。しかし、その水は真っ黒に染まって大地に染み渡り、またそこから暗黒の力が呼び覚まされていく。


「アハハッ!どうです?私の力は?さあ、次は外しませんよ!」


 ベネディクトが再びキャロルにむかって漆黒の炎を放とうとし、全員が身構えた、その時だった。


「ウォォォン!」


 ベリルが大きな遠吠えの声を上げると、リシャール、ラウラ、セインが幼い頃からお揃いでずっと身に着けている魔導具のペンダントが輝きを放ち、その光がベリルが首から下げているペンダントへと吸い寄せられるように集まっていく。


「ベリルッ!」


「何が起こっているの!?」


 その瞳色と同じ金色の光をその身体から放ったベリルは、暗黒の炎をもろともせず、疾風のように駆け抜け高く跳躍すると、ベネディクトに飛び掛かった。


「うわっ!なんだ、この犬はっ!やめろっ、放せっ!」


 ベネディクトは必死で手を振り身を捩って、身体にのし掛かって牙を剥くベリルを退かそうとする。暗黒の力に果敢に立ち向かうベリルが放つ神々しくも清廉な輝き。その力はキャロルが神に貸し与えられた聖女の力と同じものではないだろうか?


「ベリルが、キャロル様と同じ力を……?どうして……?」


「もしかしたら彼は、古の時代に存在したと伝わる聖獣なのかも知れませんね。あなた方がずっと彼を守り、愛し、慈しんで来たから。あなた方を守るために彼は今、戦っているんです」


「ベリルが俺達を……」


 サイラスの言葉に、リシャールとラウラ、セインはベネディクトに立ち向かうベリルの姿を見つめる。


 三人で行った湖の帰り道、木の下で小さな身体を震わせていたベリル。ずっとリシャールの傍にいて、彼の孤独を癒してくれながら、皆で一緒に育って来たのだ。そのベリルがリシャールやラウラ達を守るために戦ってくれている。


「さあ、我々は我々のやるべきことを!聖女様は祈りを、ラウラ嬢は浄化の魔法を。全員の魔力をひとつにするのです!」


 六人が手を繋ぎ、輪を作ると、リシャールとアルフレッドは水の魔力を、セインは風の魔力を、サイラスは水と風の魔力をそれぞれに解き放っていく。キャロルは神に祈りを捧げ、その清らかな力が集まった魔力に神聖な輝きを与えた。


 そしてラウラは全員の力をその身に感じながら、ひとつとなった魔力に何度も何度も繰り返し練習して来た浄化の魔法を願いを込めて乗せる。


 悲し過ぎる結末を知りながら、それに立ち向かうことを決めたリシャール。ヒロインとして転生したことに怯え、でも一緒に頑張るのだと危険を顧みずにここまで共に来てくれたキャロル。


 師として皆を導いてくれるサイラス。母を何としても止めるのだという必死の思いでここまでやって来たアルフレッド。いつもラウラやリシャールを優しく見守ってくれたセイン。そして今、皆のために暗黒の力に立ち向かってくれているベリル。


 皆の力で悲劇の未来を塗り変えてみせる。全員の力で運命を切り拓くのだ。そして悲しい結末なんかじゃない、皆の、この国の新たな未来を掴み取る!


 ラウラの瞳がベネディクトを真っ直ぐに見据える。そして更に大きく膨れ上がった力を、ラウラは全ての神経を集中させ放った。


 放たれた浄化の魔法の力は、強大な威力となって分厚い漆黒の空を一気に突き抜け、切り裂いた。そしてその力は雨となり、風が雨の範囲を更に広げていく。


 聖なる力と浄化の力がその雨に宿り、眩く光り煌めく金色の雫となってライゼン王国に降り注いだ。優しい雨はアルダバードの地に深くこびり着いていた悲しみを少しずつ癒していく。


「うわぁぁ!やめろ、この雨を止めろ!力がっ!私の偉大な力が消えていってしまう!……そんな……折角手に入れた力が……私の願いが……」


 大声で叫んでいたベネディクトの声は力の消失と共に消沈していき、やがては沈黙して、彼はぴくりともせずにその身を地に這いつくばらせていた。髪色も元の灰色へと戻っている。


 漆黒に染まっていた空は、真っ青に晴れ渡り、太陽が燦々と輝いて大地を照らす。そして雨上がりの空には、六人と一匹のそれぞれの想いを乗せたような、七色の大きな虹が架かっていた。


「「ベリルッ!」」


 リシャールとラウラ、セインの三人がベリルへと駆け寄る。


「ベリル、大丈夫だったか?」


「とっても勇敢でしたわ!ベリル!」


「ベリル、守ってくれてありがとう!格好良かったぞ!」


「ウォンッ!」


 三人に囲まれ抱き着かれたベリルは、誇らしげな顔で声を上げたのであった。


「良かったですね!サイラス先生!」


「ええ、本当に」


 そんな三人とベリルの姿を眺めながら、キャロルとサイラスは微笑み合う。


「さあ、ベネディクトを拘束するとしましょうか。ベネディクトもグレイス妃も、魔力自体を失っているようですし、もう大それたことは出来ないでしょう。アルフレッド殿下はグレイス妃をお願いします」


「ああ。すまない、ありがとう」


 アルフレッドは力なく横たわるグレイス妃の身体を抱き、サイラスは縄できつくベネディクトを縛り上げて拘束する。魔力を失ったベネディクトは、失意のあまりに抵抗する様子を一切見せなかった。


 暫くして、アルダバード遺跡の異変を感じ、一行を探しにやって来た騎士達にベネディクトを引き渡す。この先、非常に厳しい処罰が彼を待ち受けているだろう。そうして一行はグレイス妃を連れ、馬車を預けたままになっている北の塔へと一旦戻ることになった。


 意識が未だはっきりとしないグレイス妃を再び北の塔に預けた後、一行は家族達の待つ王都リベラへの帰路につく。王国の危機を救い、事件を無事に解決して戻って来た六人とベリルを、国王陛下とマーベリック公爵夫妻、神殿の神官達、魔術塔の魔術師達が出迎えた。


「セイン、ラウラちゃん!よく無事でっ!本当に心配したのよ!」


「セイン、ラウラ。二人共とても立派だったよ。でも、ちゃんと私達に相談してから行きなさい!」


「はい、すみません」


「ごめんなさい……」


「でも、本当によく頑張ったわね」


 母フローリアが笑顔で言い、家族四人で抱き合う。


「アルフレッド!リシャール!二人とも辛かっただろう?不甲斐ない父親ですまなかった。ベリルも大活躍だったそうだね。二人もベリルもありがとう」


「父上っ!」


「父上、リシャール、母が仕出かしたこと、本当に申し訳ありません」


「兄上に何の責任もないよ」


「そうだよ、アルフレッド、私こそすまなかった」


「ウォン!」


 国王陛下が、王子二人の肩を抱き、ベリルを中心にして三人は抱きしめ合う。


「聖女様っ!こんな大事件を解決してしまうなんて!修行の成果、素晴らしいですね!」


「えへへっ!皆さんの力があってこそですよ!ラウラ様とサイラス先生も一緒にいてくれましたし!」


「おお!流石は筆頭魔術師殿!男前なのにとんでもなく有能!羨ましい……」


「いえ、そんなことは……」


 キャロルとサイラスはにこにこ顔の神官達や魔術師達に取り囲まれている。


 こうして、ゲームの「レインフォールの乙女」とは全く別の新たなるストーリーはその幕を閉じたのであった。


 

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