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滅びた都市



 一行はアルダバード遺跡の街道の跡を辿り進んで行く。ひび割れた石畳が所々剥がれ、覗かせた地面からは雑草が生い茂る。


 かつては家々が建ち並び、住人達がそれぞれの生活を営んでいたであろうその跡は、今はもう根本部分を残して崩れ去り、瓦礫と化していた。


 寂しく、物悲しい気持ちにさせる場所だ。遠い過去の時代にこの都市を襲ったという痛ましい惨劇の名残りは、長い時を経ても尚、この地に影を落としている。


 そしてその悲しみの影は、解き放たれた闇の力に呼応するように、影をより濃くさせ、どこまでも深く暗いものに変えて行く。


 竜巻のように渦を巻いて拡がり、空を黒く染め上げる漆黒の力。そしてその力の源には、まるで雷に打たれ続けているかのように、天を仰いで身体を激しく痙攣させるグレイス妃の姿があった。


 そして、彼女の傍らには灰色の髪の痩せこけた男、ベネディクトが立っていた。狂気をはらんだ黒い瞳が一行を見つけ、にやりと笑う。


「グルルルルル……」


 いつかと同じように、ベリルが牙を剥き出し、低い唸り声を上げた。金色の瞳がベネディクトを鋭く睨みつけ、尻尾がピンと上を向き、銀色の毛は逆立って全身で警戒感を露わにしている。

 

「ハハッ!これはいい!邪魔者達が雁首揃えてやって来てくれるとはね!」


 一行を見渡し、あざ笑いながらベネディクトは言う。


「ベネディクト、何故グレイスを逃した!闇の魔力を解き放つなど、どれだけの危険があるのか分かっているのか!何を考えている!」

 

 碧い瞳に強い怒りを滲ませながら、リシャールがベネディクトに問い質す。


「ハハッ!これはこれは王子様。何故逃したかって?簡単なことですよ。光属性だけでも厄介なのに聖女なんかが現れてしまって、このグレイスの素晴らしい力が失われるようなことがあっては堪りませんからね」


「素晴らしい力ですって?惨劇の爪痕が残るこの地を利用するだなんて、なんという非道なことを!あなたの目的は一体何だというの?」


 悪びれもせず、愉快な話をしているかのように笑いながらその顔を歪ませるベネディクト。そんな姿を見て全身に込み上げて来る怒りに、ラウラは身体を震わせた。


「ああ、正義感を振りかざした鬱陶しいお姫様ですか。あなたが余計なことをしなければ、もっとずっと早く、私の願いとグレイスの願いを叶えるために動き出せたというのに。お陰で力が満ちるまで何年も待たされることになってしまいましたよ」


 痩せこけた青白い顔に忌々し気な表情を浮かべ、ベネディクトはラウラを見やる。


「母上の願いだと?何故お前が叶える必要がある!お前の願いとは何だ!」


「アルフレッド、あなたのためにやってあげているんですよ?そこの邪魔なリシャールを消し去り、あなたをこの国の王にする。そしてグレイスが王太后となるんです。まあ、私にとってはどうでもいいことなんですけどね」


「私はそのようなことを望んでなどいない!母上っ、目を覚まして下さいっ!どうか私の言葉を聞いて下さい!母上っ!」


 アルフレッドはベネディクトを射抜かんばかりに睨みつけた後、黒い力の中心部にいるグレイス妃に向かって必死で叫ぶ。


「……アル……フレッド……」


「母上っ!」


「アルフレッド殿下、駄目だっ!今近づいたら、あの力に飲み込まれてしまう!」


 息子の声に僅かな反応を見せた母の姿を見て、アルフレッドはグレイス妃に駆け寄ろうとする。しかし、そんな彼にセインが縋りつき、必死になってその身体を押し留めた。


「魔導具に溜まり続けた魔力がグレイス妃に向かって逆流しているのに、その膨大な力を扱う技量も器も彼女にはない。暴走した力がこの地に眠っていた負の力を呼び覚まし、膨れ上がらせているのです!」


 サイラスが言う。そうだ、ゲームのストーリーの中のグレイス妃は、犯行を重ねる毎にその力を増して、巧みに操るようになっていく。しかし、二人目の犠牲者となるはずだったラウラは、生きて今この場にいる。


 ゲームの中のグレイス妃と違い、今の彼女にはその力に自らの意志を介在させる余裕も余地もない。その身から膨大な闇の魔力を放出させ、ただひたすらに暴走させてしまっているのだ。


「サイラスか、本当によく来てくれたよ。物知り顔の生意気な若造め。お前なんて、少しばかりいい家柄に生まれただけじゃないか!苦労知らずのまま、大出世の筆頭魔術師とはな!本当にいいご身分だよ。いい気になりやがって!」


「なに言ってるのよ、おじさんっ!サイラス先生は本当に優秀な人なんだからっ!僻んで難癖つけないでよねっ!」


 キャロルが噛み付くようにベネディクトに声を上げる。そんなキャロルにベネディクトは苛立たしげな視線を向け、二人は睨み合った。


「ほう!これが聖女ですか。随分とじゃじゃ馬そうだ。頭の軽そうな小娘なんかには分かりませんよ。いずれにしても、この小娘に力をつけられては面倒だ。グレイス、さあ、力を貸しなさい!」


 ベネディクトはグレイス妃の腕を引き寄せ、腰を抱く。真っ黒な力が二人を包み込み、漆黒の巨大な黒炎となってアルダバードの大地を黒く焦がしていく。


「アハハッ!何という素晴らしい力だ!美しい暗黒の力が漲って来る!私がこの世で最も優れた偉大な魔術師だということを証明してやるんだよ!そして私こそが、この世を統べる王となる!」


 ベネディクトの灰色の髪が漆黒に染まり、長く伸びていき、その力の波動で広がり揺れる。狂気に満ちた瞳は瞳孔までもを真っ黒に染め上げて弧を描いた。


 そして、グレイス妃の力を取り込み終えたベネディクトは、力が抜け意識を失った彼女の身体をもう不要だと言わんばかりに地面に打ち捨てる。


「母上っ!母上っ!」


 アルフレッドは力なく倒れ込んだグレイス妃に駆け寄り、抱き寄せると何度も呼び掛ける。碧い瞳からは涙が溢れ、グレイス妃の青白い頬を濡らしていった。


 

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