ゲームのストーリー
ダークなエピソードになりますので、苦手な方は飛ばして下さい。ラウラとキャロルの会話部分だけで、本編と内容は繋がると思います。
「レインフォールの乙女のストーリーですか?」
「ええ、わたくしは五歳の頃にゲームのことを思い出したのですけれど、前世のわたくしは一度しか遊んでいないのです。ですから、あやふやな点も多くて」
ラウラはあの五歳の時以降、新たにゲームの内容を思い出すことはなかった。ラウラの記憶は主人公側よりも、リシャールにフォーカスされ過ぎている。だから、主人公視点で見た本来のストーリーを知りたかった。
「わたくしは、リシャール様をお守りしたいのです。ラスボスになんて絶対にしたくはないの。キャロル様、教えては頂けませんか?」
「分かりました。じゃあお話ししますね」
頷いて、キャロルは静かに語り始めた。
ヒロインであるキャロルは隣国に生まれ、両親と共に慎ましやかな生活を送っていた。しかし、父親を病気で亡くし、その治療費を抱えて生活に困窮することになった母子は、母方の親戚を頼って、このライゼン王国へとやって来た。
ライゼン王国では国の要人やその家族、王宮の使用人達などの不審死が相次いでおり、王都へやって来たキャロル母子は偶然、とある神官の暗殺未遂直後の現場に遭遇してしまう。
瀕死の神官に駆け寄り、必死で介抱しようとしたキャロルは、そこで初めて聖魔力を発現させる。神官は一命を取り留め、彼の命を救ったキャロルは聖女として神殿に迎えられることになった。
そして、キャロルは神殿で暮らしながら、王侯貴族も多く通う王立学園への入学を果たすことになる。そこから「レインフォールの乙女」のストーリーは幕を開けるのだ。
攻略対象のキャラクターは、ライゼン王国第一王子アルフレッド、マーベリック公爵家の嫡男セイン、騎士団長の息子オーウェン、大神官の息子ジュリアスの四人。
キャロルの王立学園での生活は衝撃的な事件で幕を開けることになる。クラスメイトである伯爵令息が学園内で襲われたのだ。駆けつけたキャロルが彼の治癒を行い、なんとか最悪の事態は回避することが出来た。
しかし、この状況に強い危機感を抱いた攻略対象キャラクター達に助力を求められ、聖女であるキャロルは彼らと共に事件の首謀者を追い始めることとなる。
王宮、騎士団、魔術師団、魔術師塔、神殿、学園内などを巡り、それぞれの場所で証言や情報を集めていくうちに、王国内で頻繁する不審な事件との関連が浮かび上がっていく。
明るく、前向きな性格であるキャロルは、季節イベントを挟みつつ、彼らを時には励まし、勇気づけ、心を癒しつつ、事件の真相を追いながら、彼らとの絆を深めていくのだ。
そして、彼らと同じように事件を追う若手魔術師サイラスと出会い、彼の口から闇の魔力が使用されている可能性が告げられると、彼の協力を仰いで、彼らは闇の魔力の追跡を始める。
闇の魔力の痕跡を追い掛け、彼らが辿り着いたのは、グレイス妃が幽閉された離宮だった。息子であるアルフレッドと対峙することになったグレイス妃は、王子の追求を受けるうちにその心の内と犯した罪を吐露していき、回想シーンが始まる。
グレイスは密かに思い続けた国王フレドリックと結婚し、王妃となったリアーヌを強く憎んでいた。五年の間、二人の間に子供が生まれず、側妃として名乗りを上げても受け入れてもらえない。リアーヌに対する憎悪が益々募っていく。
そんな時、彼女は自らの力に気づくことになる。トレント伯爵邸で侍女を相手に苛立ちをぶつけていた時だった。自身の中に込み上げる力を感じたと思うと、その侍女は突然意識を失った。
気のせいかと思い、他の使用人で試してみても同じことが起こる。試すうちに、この力が人間の意志や意識を奪い、精神に影響を及ぼすことに気づく。この力を使えば、望みを叶えられるのではないだろうか?
まずは国王フレドリックの意志を奪い、媚薬を僅かに混ぜた香を焚いて床を共にし、子を身籠って側妃の座に納まることに成功する。
そして次に狙ったのは、リアーヌだった。表面上は親しげに振る舞いながらも、王子を産んだ王妃リアーヌの意志と意識を少しずつ奪い、心身ともにゆっくりと弱らせて行き、やがて死に至らしめる。
その子供リシャールの後見と教育を名乗り出て、虐待を行うも露見することになり、グレイス妃は幽閉されることとなった。しかし、それにより、グレイス妃の欲望は更に歪んだものとなって行く。
リシャールの婚約者となった公爵令嬢も王妃と同じ方法でその命を奪う。より多くの苦しみを味わわせるためだけにリシャールは生かした。
グレイス妃が罪を犯す度にその闇の力は増し、より巧みに操れるようになって行く。やがて相性が良い者の精神をも操れるようになっていた。
自身は離宮に幽閉された身だが、息子であるアルフレッドが将来の国王となれば、いずれは王太后となる日がやって来る。政敵となり得る者達に精神を操った刺客を送り込み、次々に排除して行く……それがライゼン王国に起こった悲劇の真相だったのだ。
全ての罪を吐き出したグレイス妃は自ら命を絶ち、死の間際、その全ての力をリシャール王子へと解き放つ。過酷な環境で育ち、国を強く憎む王子は、その闇の力を浴びて、暗黒の存在である魔王の眷属と化してしまう。
そして、キャロル達は彼を憐れみながらも、悲しみの中でラスボスとなったリシャールを討ち果たし、ライゼン王国には雨が降りしきる。雨に打たれながら、聖女は一連の事件で失われた多くの命に哀悼の祈りを捧げるのだ。
その後、ヒロインは最も好感度の高い攻略対象キャラクターとの個別ルートに入り、結ばれてエンディングを迎える。
「キャロル様、ありがとうございました。サイラス先生が事件を追う上でのキーマンとなるのですね」
「そうなんですよ!でもセリフだけのシーンが多くて、攻略対象キャラでもないんですよねー!」
どこか少し残念そうにキャロルが言う。
「グレイス妃に操られていたのは一体誰なのかしら?」
「そこは名前とか出て来ないんですよ。チラッと姿が映るんですけど、灰色っぽい髪の男の人だったような気がします」
「灰色の髪の男性……」
ライゼン王国における灰色の髪の人間の割合は多いとは言えないが、少ないとも言えない。王宮に出入りしている中にも灰色の髪の人間はそれなりの数がいて、そこから特定するのは難しそうだ。それにゲームとは違い、現時点で事件を起こした訳でもない。
でも灰色の髪の男性と聞いて最初に脳裏に思い浮かんだのは、初めて魔術師塔に行った時に見掛けた、魔術師団の副官ベネディクトの姿だった。




