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聖女キャロル



 聖女キャロルとの対面の機会は思いの外早く訪れた。サイラスが神殿へと出向き、彼女の魔法の指導を行うことになったため、ラウラとリシャールも一緒にどうかと誘ってくれたのだ。


 ラウラの立場からすれば願ってもない機会だと言える。キャロルの人物像も知ることが出来るだけではなく、彼女が信頼出来得る人間性の持ち主であれば、助力だって願えるかも知れない。


 今のところは平穏な毎日が続くライゼン王国だが、ゲームのストーリーが本当に始まってしまうのならば、その穏やかな毎日が崩れてしまう可能性だってあるのだ。聖女キャロルの協力が得られるのならば心強い。


 ゲームでの設定では、キャロルは明るくて健気で前向き、そして頑張り屋というヒロインであるのだが、実際に会う彼女はどんな人なのだろう?


 良い関係が築けるといいのだけれど……。神官に案内され、神殿内を進みながら、ラウラは心を落ち着けるようと小さく息を吐く。


 期待と不安とが交錯して揺れる心を抑え込みつつ、ラウラはリシャールと共にサイラスの後に続く形で聖女の待つ部屋へと足を踏み入れたのだった。


 最初に視界に飛び込んで来たのは、さらりとした真っ直ぐな銀色の髪。そして驚愕に見開かれた金色の目だった。ゲームで見た通りのヒロインキャロルの容姿だ。


 しかし、彼女は何故かリシャールのほうに視線を向けて、まるで恐ろしいものを目にしているかのように、その顔を青褪めさせていた。


「聖女キャロル、どうしたのですか?」


「い、いえ、すみません。なんだか緊張してしまって」


 訝しげな顔でサイラスがキャロルに声を掛けると、彼女は慌てて言う。キャロルの様子にラウラは心の中で首を傾げずにはいられない。初っ端から違和感だらけだ。


「そうですか。こちらはライゼン王国第二王子リシャール殿下、そして婚約者のご令嬢でマーベリック公爵家のラウラ嬢です。お二人とも私が魔法の指導をさせて頂いているのですよ」


「え!?婚約者?マーベリックってセインの妹?嘘っ!?どうして!?」


「聖女様、失礼ですよ」


 慌てて控えていた神官がキャロルを窘めると、彼女はハッとした様子で手で自分の口を塞いだ。


「あの、私……ごめんなさい」


「聖女様、わたくしは気にしておりませんので、ご心配なさらないで下さいませ」


 ここまでの流れでラウラは十分過ぎるほどに察していた。兄のセインはキャロルとまだ面識はない。そして、リシャールを見て顔を蒼白にし、婚約者と聞いて驚く、その言動の意味するところは……。


 間違いない、彼女はゲームのストーリーを知っている。恐らく彼女はラウラと同じ転生者だ。


「皆様、お願いがございます。聖女様は緊張されているご様子。わたくしと聖女様の二人きりで、少しだけお話をさせて頂けませんか?女性同士ですもの。気易くお話し頂けるかも知れませんわ」


 ラウラの提案はあっさり受け入れられ、キャロルと共に別室へと通される。不安そうな顔でキャロルが椅子に腰掛けるのを見て、ラウラは口を開いた。


「もし違っていたのならごめんなさい。聖女様はもしかして転生者なのですか?」


「え!?」


 キャロルが驚いた様子で金色の目を丸くする。


「レインフォールの乙女という名をご存知なのではありませんか?」


「え!?もしかして、あなたも?」


「ええ。そうは言いましても、わたくしの場合は前世の記憶は朧げなものなのですが」


「それでも嬉しいです!だって私、ずっとこの世界で不安だったから……」


 キャロルは金色の瞳を潤ませた。彼女の可愛らしい姿形はいかにもヒロインらしい。けれど、なんだか彼女はいい意味で普通の女の子のように思える。


「聖女様はいつ前世の記憶が戻られたのですか?」


「二年前です。お父さんが亡くなって、その時に突然思い出して。それまでこの世界で生きて来た記憶はあるはずなのに、思い出した途端、前世の意識のほうが強くなってしまって」


 話しながらキャロルの金色の瞳からはらはらと涙が零れていく。彼女の隣に腰掛けたラウラは、ハンカチで彼女の涙を拭いながら、キャロルの背中を擦る。


「そうだったのですね、不安でしたでしょう」


「ありがとうございます。ずっと誰にも話せなくて辛かった……。聞いてもらえてすごく嬉しいです」


 ラウラの瞳を見つめ、キャロルはそう言って柔らかに微笑んだ。

 

「あなたにはいつから前世の記憶があったんですか?」


「わたくしは三歳の頃でした。ですからきっとわたくしは、ラウラとしての意識のほうが強いのでしょう。けれど、こうして聖女様のお話を聞くことは出来ますわ」


「はい。私、仲間が出来たみたいで嬉しいです!」


 なんだか、キャロルの協力を仰ぎたくて彼女に会いに来たはずが、すっかりラウラのほうが彼女の力になりたいと思い始めている。でも幸いにもキャロルとは仲良くやっていけそうだ。


 

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