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聖女の登場



 それから四年の時が過ぎ、ラウラとリシャールは十四歳となっていた。二ヶ月には、兄セインとアルフレッド王子が王立学園への入学を迎える。そんな時、その報せは届いた。


 聖女と思われる少女が現れたというのだ。名前はキャロル。「レインフォールの乙女」のヒロインのデフォルト名と同じだ。彼女は間もなく十五歳を迎えるという。セインやアルフレッド王子と同い年ということになり、やはりそれもゲームの設定と同じである。


 キャロルは母と二人で隣国からやって来た移民で、他国から渡って来た移住者に対しても魔力判定を義務付けている現在のライゼン王国の法に従い、地方の神殿で魔力判定を受けることになった。


 その際に四大属性以外の力を持っている可能性があると判断され、キャロルは神官に連れられて彼女の母と共に王都リベラへとやって来ることになったのだ。現在は母と二人、神殿内に部屋を与えられて過ごしているという。


 今日、王宮筆頭魔術師であるサイラスが神殿へと赴き、キャロルの鑑定を行なっている。ラウラはリシャールと二人、魔術師塔の敷地内の庭で魔法の訓練をしながら、サイラスの帰りを待っていた。


 魔術師塔の敷地には防護結界が張られているため、物を壊す心配もなく、思いっきり魔法の練習に打ち込めるのだ。ここ四年の頑張りで、ラウラもリシャールも魔法を数種類使いこなせるようになっていた。


 そんな二人の脇では、腰の丈程に大きく成長したベリルが芝生に寝そべり、クゥクゥと寝息を立てながらパタパタと尻尾を振っている。


「サイラス先生の鑑定、どうだったのでしょうね?」


「うん、そうだね」


「サイラス先生、そろそろ戻って来られるかしら?」


「……うん。……ねぇ、ラウラ?そんなにサイラスのことが気になるの?」


 少し不機嫌そうにリシャールに言われ、ラウラは我に返った。思い返してみれば、聖女のことが気になるあまり、先程から同じ発言を繰り返していた気がする。


「いえ、聖女様のことが気になってしまって」


「なんだ、聖女のほうか。良かった」


 そう言うと、リシャールはラウラの顔に片手を伸ばし、そっと頰に触れる。


「駄目だよ?よそ見をしては」


 リシャールのサラサラの黒髪が風に揺れ、サファイアのような碧い瞳がじっとラウラを見つめる。その真剣な眼差しに、トクンと心臓が音を立てた。なんだか急に顔に熱が集まり、頬が赤くなってしまっている気がする。


「頬が染まってる。少しは意識してくれてるのかな?」


 リシャールは少し掠れた声でそう言うと、頬に掛かっていたラウラの髪を指で掬って耳にそっと掛ける。彼の長い睫毛が瞬くのを、目を逸らせずにラウラはただ見つめていた。


「そうして俺だけを見ていて?」


 リシャールの整った綺麗な顔が近づいたと思うと、そっと唇同士が触れる。そしてゆっくりと離れていった。呼吸をするのも忘れ、ラウラはラベンダー色の目を見開く。


 一体今、何が起こったのだろう?リシャールがラウラにキスをした?全身が脈を打っているかのように熱くて、心臓の鼓動がやけに大きく響いている。リシャールにまで聞こえてしまいそうな程だ。


 お、落ち着こう……。ラウラは前世では成人していたのだ。もう思い出すことは出来ないけれど、きっと恋愛経験だってあったのだと思う。なのにどうして今、こんなにも心が揺れてしまっているのだろう?


 ラウラにとってリシャールはずっと守るべき存在であり、家族のような存在だった。姉のように思ってずっと彼に接してきたはずだ。けれど、もうリシャールはラウラよりも拳ひとつ分背も高い。


 リシャールの端正な顔にはもう昔のようなあどけなさはない。少しずつ、大人に近づいて行っているのだ。王子としての自覚も生まれ、二年ほど前からは週末も王宮で過ごしている。ラウラはそんな彼にどんな風に接したらいいのだろう……?


「リシャール殿下、ラウラ嬢。今日もこちらにおいででしたか」


 サイラスの声がして、ラウラはハッと我に返った。いつの間にか、サイラスが戻って来ていたらしい。


「ああ。サイラス、お疲れ様。で、鑑定のほうはどうだった?」


「聖女、なのでしょうね。とても不思議な、しかし、とても清らかな力でした。やはり私の考えていた通り、この世の元素を基とする六大属性の魔法とは成り立ちが異なる力のようです」


「ではサイラス先生、聖属性とは元素ではない何を基にしているのでしょう?」


「そうですね、祈りの力、とでも言うのでしょうか。神に乞い願い、直接神が聖女に貸し与える力なのではないかと、私はそう考えます」


「祈りの力……」


「お二人もそのうち彼女に会う機会がおありになるでしょう。その時に何かしら感じるものがあるかも知れませんね」


 主人公である聖女の登場で「レインフォールの乙女」の舞台が完全に整ったと言える。ここから、一体どうなって行くのだろう?ラウラの指は微かに震えていた。


 

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