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筆頭魔術師サイラス



「ラウラー!セインー!サイラスの所へ行くの?僕も一緒に行くよ」


「ワゥン!」


 ラウラが王宮に到着した途端、ベリルを連れたリシャールが、お揃いで身につけているペンダントを揺らしながら、いつものように迎えにやって来る。今日はラウラに付き添うため、セインも一緒だ。


「まあ!では、リシャール様、ベリル、エスコートをお願い致しますね」


「お手をどうぞ、お姫様」


「フフッ、ありがとうございます。王子様」


「ベリル、いい子にしてた?また大きくなったんじゃない?」


「ワォン!」


 十歳となったリシャールは溌剌とした少年に成長していた。昔は時折垣間見せていた寂しさの面影は、今はもう見当たらない。小さかったベリルは銀色の毛も艶を増し、すっかり大きくなって、貫禄さえ感じてしまう程だ。


 今もまだラウラは王宮通いを続け、リシャールと共に授業を受ける毎日を送っている。週末には相変わらずベリルを連れてマーベリック公爵邸へ泊まりにやって来るが、流石に近頃は以前のように一緒の部屋で眠るのは禁止されてしまい、膨れっ面をしていたリシャールである。


「ラウラは昨日の洗礼の儀で、光の魔力持ちだって判定を受けたんでしょう?」


「ええ、そうなのです。我が家の書庫も一通り確認してみたのですが、光の魔力に関する文献は見当たらなくて」


「二人で頑張って探してみたんだけどね」


「そっか。サイラスなら何か知っているのかも知れないね」


「ええ、リシャール様」


 三人とベリルは筆頭魔術師サイラスに会うため、王宮の一角にある魔術師塔を訪ねる。するとちょうどエントランスに彼の姿があった。彼は灰色の髪をした痩身の男性と立ち話をしているようだ。


 サイラスは長いコバルトブルーの髪に群青色の瞳をした才気溢れる若き魔術師で、水と風の魔力を同時に持つという極めて稀な二属性所持者だ。クラーク侯爵家の次男で、二十代前半にして、二年前に代替わりした王宮筆頭魔術師の座を引き継ぎ、務めている。


「サイラス殿と一緒にいるのは、魔術師団の副官、ベネディクトじゃないかな?」


 セインがラウラとリシャールに向き直ると、声を潜めて二人に言う。すると、突然ベリルが低い唸り声を上げ始めた。


「……グルルル」


「ベリル、どうしたの?」


「このようなベリル、珍しいですわね。どうしてしまったのかしら……?」


 普段見せたことのないベリルの姿に三人は困惑顔だ。撫でて宥めてみてもまるで効果がない。


「困ったな、僕がベリルのことを見てるから、リシャール様とラウラはサイラス殿と話をしておいで?さあ、ベリル、行こうか」


 セインがベリルを何とか抱えて外に出る。ベリルは一体どうしたというのだろう?


「ああ、これはリシャール殿下、ラウラ嬢、ご足労頂いて申し訳ありません。どうぞこちらへ」


 リシャールとラウラに気づいたサイラスが恭しく頭を下げて、二人をいざなう。既に灰色の髪の男性の姿はない。二人は顔を見合わせて頷くと、サイラスの後へと続いた。


「ラウラ嬢、洗礼の儀でのことは聞いております。私が直接鑑定させて頂いても?」


「ええ、勿論ですわ。お願い致します」


 サイラスに通された客室で、二人は並んで長椅子に腰掛け、彼を見つめる。サイラスは身を屈ませラウラの手を取り、目を閉じた。繋がれた手の平からじんわりとした熱が伝わり、ラウラの体内を巡る。そして、そっとサイラスの手が離れた。


「ありがとうございました。光属性の魔力で間違いないでしょう」


「サイラス様、光属性の魔力とはどのようなものなのでしょうか?」


「闇属性の魔力保持者と同様、光属性の魔力保持者もまた長い歴史の中で、数人しか存在が確認されていない存在です。私の私見ではありますが……」


 そう前置きしてから、椅子に腰掛け、サイラスは静かに語りだす。


 この世界の魔力は四大元素、火・水・風・土で構築されているものだとされて来たが、古の時代では、光・闇も加えた六大元素であると考えられていた。


 しかし、四大元素を力とする四大属性の魔力と違い、光・闇の属性の魔力を扱える人間があまりにも稀であったために、時代と共に忘れ去られてしまったのではないか、そうサイラスは考えている。


 四大属性にそれぞれ属性相性があるように、光と闇は相反する属性の魔力であると考えられる、というのがサイラスが出した結論だった。


「でも、そう考えた時、聖女が持つと言われる聖属性の魔力とは一体何であるのか?という疑問が湧いてくるのです」


 思案するようにサイラスの群青色の瞳が宙を彷徨う。


「実際にこの目で見てみないことには分かりませんが、聖属性はこの世の元素に基づいた魔力ではないのではないか?私はそう考えています。そしてもし、聖属性にも相反する力があったとしたら……?いえ、邪推し過ぎでしょうか」


 深刻そうな表情で話していたサイラスは、その秀麗な顔に微笑を浮かべる。


「光属性の魔力でどんな魔法が使えるのか、これから色々試して行きましょう。週にニ度、魔術師塔へお通い下さい」


「ありがとうございます。サイラス様」


 筆頭魔術師であるサイラスの指導を直接受けられるなんて、願ってもないことだ。それに彼はゲームの登場人物の一人で、主人公達に力を貸す側の人物でもあったと思う。


「サイラス、僕も一緒に来てもいい?」


「勿論でございます。リシャール殿下の魔法も、私で良ければ見させて頂きますよ」


 こうしてラウラとリシャールに魔法の師が出来たのである。


 

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