洗礼の儀
十歳になったラウラは、神殿で行われる洗礼の儀の日を迎えていた。ライゼン王国では十歳を迎えた全ての子供達に対して、その貴賤に関わらず、各地の神殿で執り行われるこの儀式において、持って生まれた属性と魔力量が判定されることになっている。
古の時代は神々が地上に降り立ち、人との関わりを持つ中で、その大いなる力を人々は分け与えられていたのだという。しかし、神々が地上を離れて久しく、千年余りの時が流れた今の時代では、人間達の間からその力は徐々に失われつつあった。
今も強い魔法を持ち、自在に操れる人間は存在するものの、それはほんの一握りの人々にしか過ぎず、魔力を持たずに生を受ける者も珍しくもない。また、魔力を持って生まれた人々の大半も、保有する力は僅かばかりのもので、人生を劇的に左右するようなものではなかった。
故に、今の時代の人々にとって魔法とは、個人が持つ才能の一種として考えられており、さほど重要視はされていない。少しだけ生活を豊かにし、職探しの指針になるという程度の存在となっている。
だからこそ、グレイス妃の引き起こした事件の衝撃は、ライゼン王国にとって計り知れない程に大きなものだった。闇の魔力は元来、魔の者が有するものであると考えられており、人間の保持者自体、ライゼン王国はおろか、他国を見渡してみても、長い歴史の中でたった数人しか確認されて来なかったからだ。
洗礼の儀においても、火・風・水・土の四大属性の魔力の判定のみが行われて来ており、その他の属性は考慮されては来なかった。しかし、グレイス妃が闇の魔力の保持者だと判明して以降、調査する属性が増やされ、全ての国民に対して追判定が行われている。
国王陛下の命により、リアーヌ王妃の死の真相を追うため、ライゼン王国では国内のみならず国外からも歴史書や魔法書、様々な文献などがかき集められ、それらを紐解きながら研究が進められて来た。
現時点で四大属性と闇属性以外の属性は、かつて世界に存在したとされる光属性、そして聖女が有すると伝えられている聖属性のニ属性なのではないかと考えられている。
ラウラの生まれたマーベリック公爵家は王家の縁戚ということもあり、王族と同じように水の魔力の保持者が生まれることが多い一族とされる。国王陛下のいとこである父カイルも水の魔力の保持者だ。
一方、母フローリアの生家は風の魔力を持つ一族で、自身も風の魔力の持ち主である。兄セインは十歳の時に受けた洗礼の儀で、母の力を受け継いだ風の魔力の持ち主であることが判明した。ゲームの設定でも、セインは風の魔力の持ち主だったと記憶している。
しかし、ラウラはゲームのストーリー上ではこの洗礼の儀の日を迎えることなく、既に故人となっていたはずだったのだ。この時点でゲームとは違う展開を迎えていることは間違いないだろう。もしかしたら、リアーヌ王妃はリシャールだけではなく、ラウラの命をも救ってくれたのかも知れない。
ラウラより誕生日が早いリシャールも既に洗礼の儀を済ませている。ゲームのストーリーでは、リシャールの本来の所持魔力に対して言及はなかったはずだが、ゲーム上での結末を知るラウラは一抹の不安を感じずにはいられなかった。
しかし、その心配をよそに、リシャールは儀式において水の魔力の保持者だとの判定を受け、ラウラは安堵してホッと胸を撫で下ろしたのだった。
「ラウラ、そろそろ行こうか?」
「はい!お父様」
ラウラは父に連れられ、神官達の待つ儀式の間へと進む。神聖さに満ちた厳かな空気に身が引き締まる思いだ。透き通るように美しい水晶に、ラウラはそっとその手を触れた。
その瞬間、水晶が淡い金色の光を放つ。
「……おお!これは!」
魔力を持っていない場合、水晶は光ることはないと聞いているので、魔力を有していることは間違いないはずだ。少しでも魔力を持っていれば、リシャール守るための力となれるかも知れない。ラウラは一体何の属性なのだろう?
「まさかこれは光の魔力では?」
「急ぎ、王宮へ報告を」
「筆頭魔術師サイラス様に詳しい鑑定を行なって頂きましょう」
神官達がにわかにざわめき始め、ラウラ自身も困惑の色を隠せない。「レインフォールの乙女」の中に光の魔力の持ち主なんていただろうか?そもそも光魔法自体、ストーリーには出て来ていないはずだ。
やはりゲームのストーリーとは大きな隔たりが起こり、何かが変わり始めているのだと、ラウラは感じていた。




