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小さな友達



「ラウラ、あっちには何があるのかな?行ってみよう!」


「はい、リシャール様!転ばないように気をつけて下さいませね」


 ラウラとリシャールは、マーベリック公爵家の家族と共に領地のひとつを訪れていた。大きな湖から流れ出る豊富な水源と肥沃な大地、豊かな緑に恵まれた美しいこの領地にラウラが訪れるのは初めてのことだ。


 それどころか王都リベラから離れること自体が初めての経験である二人は、道中も興奮して大はしゃぎであった。自身の感情を自然に表現出来るようになってきたリシャールの姿を、皆が微笑ましく見守る。


 しかし、ラウラのほうは前世で成人していたはずだというのに、どうにも精神年齢が下がっているような気がしてならない。


 恐らく、今世のラウラとして過ごす時間が増えるにつれて、前世のラウラよりも現在のラウラの意識のほうの比重が大きくなって行っているのかも知れない。


 二人はセインと共に長旅の疲れも見せず、早速湖に散策に出掛けた。三人の後には護衛の騎士達もついて来ている。湖へと続く森の小道は整備されていて、野兎やリスの姿を見つけては、三人で大喜びして歩いた。


 そうして辿り着いた湖は壮観の一言であった。太陽の光を反射して、キラキラと輝き、透き通った湖面はずっと遠くに眺めることの出来る雄大な山々の姿を映している。


「わー!すごいねー!」


「本当に。とっても綺麗」


「見てごらん!山も映ってるよ!」


 三人とも瞳を輝かせて、それぞれに感嘆の声を上げる。冷たい水に手を浸してははしゃぎ、水性生物を見つけて驚きの声を上げ、楽しい時間を三人で過ごした。


「クゥーン」


 その帰り道のことだった。風に運ばれて、やっと聞き取れるほどに小さな声が耳に届き、三人は顔を見合わせるとキョロキョロと辺りを見渡して声の主を探した。


「こっちから聞こえたよ!」


 リシャールが駆け出し、ラウラとセインも後を追う。そうして小さな声の主は見つかった。見上げるほどに立派な大きな木の根本で、銀色の毛並みの小さな子犬が震えていたのだ。


「この子弱ってる!」


「苦しそうにしているわ」


「親犬はいないのかな?この子、大丈夫かな?」


 リシャールが真っ先に子犬を抱き上げると、ラウラとセインも心配で堪らず子犬を覗き込む。


「ここに置いておいては、そう長くはもたないかも知れませんね」


 付き添っていた騎士のひとりがそう口にすると、三人は顔を青褪めさせた。


「連れて帰ろう!」


 リシャールが言い、ラウラとセインも真剣な顔で頷く。この小さな命を失わせたくない。三人は足早に邸宅へと戻ると、水や用意してもらった柔らかく煮込んだ食事を少しずつ少しずつ口元へ運び、懸命に看病をした。


 きっとリシャールは、子犬に過去の自身の姿を重ねていたのかも知れない。その灯火が今にも消えそうになっていた小さな命を、誰より必死に守ろうとしていた。


 そうして四日目の朝、三人の思いが届いたのか、看病したまま眠ってしまっていたリシャールの頰を子犬がペロリと舐めたのだ。


 まだ弱々しくはあるものの、子犬の金色の瞳には生気が宿っている。目覚めたリシャールは驚きに目を見開き、碧い瞳を輝かせる。


「今、この子、僕のほっぺた舐めたよ!」


「少し元気になったみたい!」


「良かったね!もっと元気になるんだよ!」


 三人は安堵して、子犬を代わる代わるに撫で、飛び上がって喜び合う。


「この子の名前、何にしよう?」


「そうですわね、何がいいかしら?」


「ベリルの森で見つけたから、ベリルっていうのはどう?」


 セインの提案に二人は目を輝かせて頷く。


「かっこいいね!」


「素敵!」


「キャン」


 二人と共に子犬も小さな鳴き声を上げたのを見て、三人は笑い合う。


「良かった!気に入ってくれたみたいだね」


「フフッ、可愛い」


 リシャールが子犬を優しく抱き上げ、小さな顔を覗き込む。


「君は今日からベリルだよ!」


「キャン」


 その後、一週間もすると、ベリルは邸内を歩き回れるほどに体調が回復した。三人に新しい小さな友達が出来たのである。


 

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