094.参議雅経 「み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなり」
はーい、じゃあ次は参議雅経くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
キミの本名はなんていうの?
ふーん、飛鳥井雅経っていうんだ。
飛鳥井って名前はアタシ、聞いたこと無いわね。
え? 今日じゃないのかい?
明日かい?
なんつって。
じゃあキミのお父さんの名前はなんていうの?
え? 難波頼経?
やっぱり知らないわね。
名前自体は、頼朝と義経をくっつけたような大物感があるけどね。
まぁでも考えようによっちゃ、有名人の息子より気楽でいいのかも知れないわよ?
さっき来た、鎌倉右大臣くんなんて大変だと思うわ。
いつの時代も偉大すぎる親を持った子はツラいわね。
プロ野球選手の息子で言えば、長嶋一茂とか野村克則とか落合福嗣なんかも似たようなプレッシャーを感じてきたんじゃないかしら。
一般人で言うと、親が医者や弁護士だったり兄貴が東大生だったりするようなものかしら。
そんなのと比べられちゃうと、なかなかツラいものがあるわね。
ま、アタシの場合は、伸び伸びと育った結果が、こんな体たらくなんだけど。(笑)
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
み吉野の 山の秋風 小夜ふけて
ふるさと寒く 衣打つなり
なぁに、これ。
「み吉野の」は「吉野の」ってことね。
「み」は字数合わせのお飾りなのよね、たぶん。
「山の秋風」はそのままの意味ね。
「小夜ふけて」は「夜が更けて」でいいかしら。
「小」っていうのも、お飾りよね。
前に、「きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに」ってのが出てきたけど、その「さむしろ」と同じだわ。
「ふるさと寒く 衣打つなり」ってのは何?
「ふるさと寒く」は「故郷は寒く」ってことよね。
え? 「衣打つなり」は「衣を打つ音が聞こえてくる」って意味なんだー。
ところで、なんで衣を打つわけ?
埃を叩いて落としてるの?
布団叩きみたいなものかしら。
え? 衣を打って布を柔らかくしたり、光沢を出したりするってことなんだ。
なるほどねー。
たぶん、昔の衣は今と違って、もともとゴワゴワしてて固いのよ。
で、寒くなってくると、さらにそれが固くなる。
だから寒くなってくると、あちこちで衣を棒か何かで打って柔らかくしてたってことね。
近くのスーパーなんかで買ってきた安物の固い豚肉でトンカツを揚げるときなんかに、肉をバンバン叩いて無理やり柔らかくするみたいなもんだわ。
じゃあまとめると、キミが言ってることは、
「吉野の山の秋風が吹く夜が更けて、故郷は寒く衣を打つ音が聞こえてくる」
って感じかしら。
昔の吉野では、秋の夜になるとあちこちの家から衣をトントン叩く音が聞こえてきたんでしょうね。
「お、隣の家で衣を叩いてるな。じゃあ負けずにウチも叩くか」ってな感じだったりして。
そんな風にご近所同士で変に張り合って、あっちからもこっちからも衣をトントン叩く音が聞こえていたんだとしたら、何だかちょっと微笑ましいわね。
それで思い出したんだけどさ、昔、アタシの実家で犬を飼っていたのよ。
犬って何故か知らないけど、救急車とか消防車のサイレンが聞こえると、ウォゥーッって遠吠えするのよね。
で、近所の家で飼ってる犬も、やっぱりサイレンが聞こえると、ウォゥーッって遠吠えするの。
アタシの実家の近所って、わりと犬を飼ってる家が多くてさ。
そうすると、たまに近所を救急車が通ったりするとさ、もうあっちこっちでウォゥーッ、ウォゥーッ、って犬が遠吠えしまくることになるのよ。
犬が合唱でもしてんのか、って感じで面白かったわね。
サイレンって、たぶん犬にとってはどこか感情を揺さぶられるような特殊な周波数の音なんだろうね。
でもさー、やっぱりアタシはねー、こういうシンプルな歌が好きだわ。
一つの言葉に色々な意味を持たせちゃうと、「お、上手いこと言ってんなコイツ」っていう感じにはなるけど、その分、解釈が分かれるっていうか、意味がぼやけるっていうか、むしろ言葉遊びがメインで意味とかどうせ後付けだろ、みたいに思えてきちゃうのよね。
べつに上手いことなんて言わなくていいのよ。
詠み人の心の琴線に触れた情景が、混じりっけの無い言葉の響きと共に、自然にスッとアタシの心の中に溶け込んでくるような、そんな歌がいいわね。
ちょっと自分でも何言ってんのか、よく分かんないけどさ。
人には上手いことなんて言わなくていい、とか言っておいて、自分は上手いこと言おうとしてるっていう、ね。
嫌な性格だわ。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
み吉野の 山の秋風 小夜ふけて
ふるさと寒く 衣打つなり
懐寒く アタシは鬱なり
お金が無いって、本当に大変なのよね。




