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083.皇太后宮大夫俊成 「世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる」

はーい、じゃあ次は皇太后宮(こうたいごうぐうの)大夫俊成(だいぶとしなり)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

……って、まーた長い名前の子が来ちゃったわよ。


何なの? 大夫俊成(だいぶとしなり)って。

もう、だいぶ年なの?

実は中年?

なんちゃって。


え? 区切り方がおかしいの?

ふーん、「皇太后宮(こうたいごうぐうの)大夫(だいぶ)」っていう官職に就いてる俊成(としなり)ってことなのか。

なら、ふつうに俊成(としなり)でよくね?

そんな長い肩書き、要る?


つか何なの、その「皇太后宮(こうたいごうぐうの)大夫(だいぶ)」ってのは。

え? 皇太后(こうたいごう)の家政機関で一番偉いってことなの?

皇太后(こうたいごう)の親衛隊長みたいなものかしら。

全然違うわね。

まぁいいわ。


じゃあキミの名前はなんていうの?

え? 藤原俊成(ふじわらのとしなり)っていうのね。

ゲフッ。

やっぱりゲップが出るわね。

アタシの藤原アレルギーは完治してないのよ。


じゃあキミのお父さんはなんていうの?

ふーん、藤原俊忠(ふじわらのとしただ)なんだ。

ゲフッ、ゲフッ。

まぁでもやっぱり知らないわね。

え? なぁに? よく聞こえなかったわ。


えーっ!? そうなのー!?

キミはこの学校の校長先生のお父さんなのーっ!?


この学校の校長先生の名前だったら、アタシ、知ってるわよ。

今朝、挨拶(あいさつ)しに行ったとき名刺をもらったわ。


えーっと、どこへやったかしら、確かポケットの中に……あ、これよこれ。

そうそう、藤原定家(ふじわらのていか)だわー。


このクラスの生徒は全員、校長先生が自分で集めてきたってドヤ顔で言ってたわ。

そっかー。

校長先生のお父さんかー。


……って、なんでそんな人が生徒に(まぎ)れてんのよー。

もー、いったい何なのよ。

もしかして、モニタリング? ドッキリGP?

教室に隠しカメラとか仕込んであって、実は校長先生と一緒に校長室でモニター画面を見ながら楽しんじゃってる感じ?

最後に校長先生が「大成功」って書いたプラカードを持って、教室に入ってくるとか?

まぁいいけどさ。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


()(なか)(みち)こそなけれ (おも)()

(やま)(おく)にも 鹿(しか)()くなる


あら?

これは変則ハイミドルキック系の歌だわね。

アタシの中では「けり」と「ける」がキック系、「けれ」は変則キック系なのよ。


「世の中よ」はそのままの意味ね。

「道こそなけれ」は「こそ〜けれ」が係り結びよね。

だから無視して「道なし」ってことだわ。


「思ひ入る」は「思って入る」だわ。

「山の奥にも」はそのままの意味ね。


「鹿ぞ鳴くなる」が分からないわ。

「鹿ぞ鳴く」じゃダメなのかしら。

古文って、やっぱりアタシにはよく分からないわね。


ふーん、意味としては「鹿が鳴いている」でいいわけね。

じゃあキミが言いたかったことは、

「世の中よ、道は無いと思って入る山の奥にも鹿が鳴いている」

みたいな感じ?


なんだか意味がよく分からないわね。

ぼっちになりたくて人から逃げて山の奥に入ったら、鹿がそこに居て鳴いてたってこと?


キミは皇太后の家政機関で一番偉いんでしょ?

それなのに「世の中よ 道こそなけれ」ってどういうことよ。

キミみたいに順調に出世してきた人が辿(たど)ってきた道のことを「出世街道」って言うのよ。


なーにが「道こそなけれ」よ。

見かけより、だいぶ年のくせに。

そんだけ出世して、何が不満なのよ。

そのくらいの地位なら皇太后の信頼だって厚いはずでしょーに。


もしかして、フケ顔のせいで皇太后に毎日イビられてるとか?

女が男を嫌う理由って、けっこう理不尽だったりするからね。

じゃあそれに耐えきれなくなって、一人になりたくて山に入ったら先客の鹿がいたってこと?

「なんで鹿が山に居んだよー。鹿せんべいでもムシャりながら奈良公園でお辞儀の練習でもしてろよー」みたいな感じ?

でもそれって鹿から見れば、やっぱり理不尽だわ。


だって鹿は本来、山の奥に居るものでしょ。

逆に奈良公園でお辞儀をしてる鹿の方がどうかしてんのよ。

あんな姿を見て「可愛い〜」なんて言ってる女の気が知れないわね。

その辺に転がってる鹿のフンでも投げつけてやろうかしら。


あんなふうに観光客にペコペコ頭を下げて鹿せんべいを恵んでもらっている鹿なんて、アタシに言わせれば哀れとしか言いようが無いし、むしろ残念だわ。

サーカスでライオンが(むち)の音に()かされて火の輪くぐりをしたり、イルカやアシカが(えさ)の魚欲しさにジャンプをしたり手を叩いたりしても、アタシは(あわ)れみの方が先に立っちゃって純粋に楽しめない性質(たち)なのよ。


え? なぁに?

山に鹿が多すぎるの?

じゃあもう鹿を捕って食べちゃいなさいよ。


アタシはちょっと前まで「Banished」っていうゲームにハマってたけど、このゲームで狩人小屋なんて建てたら「お前らの主食は鹿肉かよ」っていうぐらいの鹿肉と鹿皮がガンガン手に入るわよ。

あと、採集小屋を建てたらキノコが採れるわ。

アタシが作った「Banished」の村の住人は、毎日鹿肉とキノコで鹿鍋(しかなべ)パーティーだわ。


そうねぇ、キミのこの歌の下の句は「山の奥にて 鹿食いまくる」とか「山で毎日 鹿鍋(しかなべ)パーティー」に変えた方がいいわね。

そしたらキミもパリピの仲間入りだわ。

老け顔だけど。


ほら、最近はジビエとか言ってさ、あえて鹿肉を食べたり猪肉(いのししにく)を食べたりとかしてるじゃない?

どんどん捕まえて鹿鍋にしちゃえば、お(なか)(ふく)れるし鹿は居なくなるし、一石二鳥じゃないの。

まさに鹿三昧(しかざんまい)だわ。

お店を開いて皇太后を招待して、店の前で鹿の解体ショーとかやってみたらどうかしら。


両手を大きく開いたポーズなんかとると、みんな喜ぶと思うわよ。

ぜひ検討してみてちょうだい。

すしざんまいのパクリって言われてもアタシは責任取らないけどね。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


()(なか)(みち)こそなけれ (おも)()

(やま)(おく)にも 鹿(しか)()くなる

鹿捕りすぎると 鹿いなくなる


……って、近頃は鹿が増えすぎてヤバいらしいけど。

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