082.道因法師 「思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり」
はーい、じゃあ次は道因法師くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
……って、キミは法師っていうくらいだからまともな坊主よね。
やっとまともな坊主が来たわー。
なんかこのクラスって、ニセ坊主的な子が混じってるらしいのよね。
ほら、ちょっと前に法性寺入道前関白太政大臣なんて子が来たのよ。
そりゃあ入道っていうくらいだから出家して坊主になったってことは分かるけど、太政大臣にまで上り詰めて贅沢三昧な生活をしてさ、さんざんおいしい思いをした後で死ぬ前にちょこっと出家して、それで坊主を名乗るなんて、おかしいと思わない?
お寺の人もさ、そんなに簡単に入門させちゃっていいのかよ、ってアタシは思うのよ。
小さい頃から坊主一筋でずっと修業に励んできた子とさ、人生の最後に興味本位でちょこっと入門しちゃいましたテヘペロ的な年寄坊主とを一括りにしちゃっていいわけ?
アタシはおかしいと思うわ。
キミもそう思うでしょ?
若いうちから私利私欲を捨てて、性欲とか物欲なんかと戦いながら自分を厳しく律して、ひたすら修行を積み重ねてきた坊主っていうなら分かるわよ?
けどさ、若い頃からさんざん遊びまくって美味いモン食って女もガンガン抱いておきながら、ジジイになってもうアソコが立たなくなって「どうせシたくても出来ないし、脂っこい食べ物も受け付けなくなって食欲も減ってきたし、おまけにアタマも禿げてるし、いい頃合だから出家しちゃおっか」なんてノリで出家されてもさ、そんなの修行で欲に打ち勝った訳じゃなくて、ただそうしたくても出来ないっていうだけな訳でしょ?
それで坊主って名乗るのもどうかと思うわよ。
「できるけど我慢してしない」って事と、「できないからしない(できない)」っていう事とは全く意味合いが違うでしょーよ。
クリスチャンでもそうだけど、昔、M.C.ハマーが牧師になったニュースを知った時とか、笑っちゃったわよ。
長続きはしなかったみたいだけどさ。
あ、今の子はM.C.ハマーなんて知らないわね。
昔、そういうラッパーがいたのよ。
そういえば、牧師で思い出したけど、ポール牧なんかもたしか出家してたわね。
あ、今の子はポール牧も知らないか。
指パッチンで有名だった人なのよ。
指パッチンてのは、中指と親指を擦り合わせるような動きでパチッと指を鳴らすやつね。
それのどこが面白いのかは未だにアタシには謎なんだけどさ。
ちなみに、ウクレレ漫談で有名だった人は牧伸二ね。
今なら「ぴろき」の方が有名かもしれないわね。
つか、多分どっちも知らないわよね。
知らない箇所は、読み飛ばすかググってちょうだい。
とにかく、人生の晩年にちょろっと坊主になるなんてのはさ、売れなくなった女性歌手がTVドラマにちょこっと出て、女優とか言っちゃってるようなもんじゃない?
ずっと女優一筋の人から見たら「お前が女優とかふざけんな!」って絶対思うでしょーよ。
中には「坊主バンド」なんてのも出てきたりして、坊主がライブで歌を歌ったりしてるらしいわよ?
いったい仏教って何なのかしらね。
キミも坊主の一人として、そう思うでしょ?
え? 僕も80歳を過ぎてから坊主になりましたって?
何だよー、お前もニセ坊主かよー。
紛らわしいんだよー。
法師っていうから、てっきり小さい頃からバッチリ修行を積んできてるのかと思っちゃったじゃないの。
80歳を過ぎて出家?
そんなの、放っといたってそのうち仏になるわよー。
もう、何なのよ、まったく。
じゃあキミの本名は何なの?
え? 藤原敦頼?
ゲフッ、ゲフッ。
もうゲップが止まらないわよ。
じゃあキミのお父さんの名前は?
え? 藤原清孝?
誰、それ。
オメガトライブ?
……って、それは杉山清貴だわ。
全然違うわね。
つーかアタシ、さっきからいつの時代の話をしてるのかしらね。
まぁいいわ。
よくないけど。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
思ひわび さても命は あるものを
憂きに堪へぬは 涙なりけり
なぁに、これ。
ありがちなローキック系の歌ね。
「思ひわび」ってのは何?
え? 「思い悩んで」ってことなのね?
「さても命は あるものを」っていうのは何なの?
さては南京玉すだれ、的な感じ?
いま気付いたけど、南京玉すだれって、思いっきり「きんたま」って言っちゃってるわよね。
そういえば昔、「金太の大冒険」っていう歌があったのを思い出したわ。
たしか、きんたま蹴るな、とか、きんたま毛が多いとか、歌ってた気がするわ。
さすが昭和は違うわね。
ふーん、「さても命は あるものを」っていうのは、「それでも命はあるものなのに」ってことなんだ。
そりゃあ思い悩んでるって事は、命はあるでしょーよ。
命が無きゃ、思い悩むことなんて出来ないんだからさ。
そんなことも分からないの?
修業が足りてねーんじゃねーの?
このニセ坊主。
え? 何でもないわよ。
「憂きに堪へぬは 涙なりけり」ってのは何?
え? 「憂き」は「辛さ」ってことなの?
「うきうき」だったら楽しい感じなのにね。
「堪へぬは」は「堪えきれずに」ってことね。
「涙なりけり」は分かるわ。
涙だったんだなぁ、よ。
詠嘆の「けり」ね。
じゃあキミが言いたかったことは、
「思い悩んでそれでも命はあるものなのに、ツラさに堪えきれずに溢れた涙だったんだなぁ」
みたいな感じ?
ちょっと何言ってるかよく分かんないわ。
一言で言えば、ツラくて泣いちゃったってこと?
やっぱりキミ、修行が足りてないだけなんじゃないの?
涙くらい我慢しなさいよ。
逆にキミは何なら我慢できるのよー。
むしろそっちを聞いた方が早いんじゃないかと思うわね。
下手すりゃ、坊主のキミよりアタシの方が、よっぽどツラくて厳しい日々を送ってきてるわよ。
ま、アタシの場合は修行してたわけじゃないけどさ。
でも、そんなんで坊主になれるなら、アタシなんか今すぐにでも坊主になれるわよ。
自分を差し置いて人に説教するのとか、大好きだし。
もう好きすぎて、小説を書いてても、気付いたら読者に説教を始めちゃってるくらいだわ。
アタシも出家して坊主になって、ご近所一帯を説教して回っちゃおうかしら。
あ、もちろん今じゃないわよ?
だって、まだまだアタシは焼肉を食べたり、モツ鍋を突いたり、たまにはエッチなお店に行って遊んだりしたいからね。
そうねー、アタシも80歳を過ぎたら考えてみることにするわ。
それまでアタシが生きていればの話だけど。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
思ひわび さても命は あるものを
憂きに堪へぬは 涙なりけり
ウキで釣るのは ウキ釣りなりけり




