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079.左京大夫顕輔 「秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ」

はーい、じゃあ次は左京大夫(さきょうのだいぶ)顕輔(あきすけ)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

左京大夫(さきょうのだいぶ)っていうのは役職でいいのかしら。

え? 京内東側を左京っていうの?

で、左京職の長官を左京大夫(さきょうのだいぶ)っていうのね。


ふーん。

京職っていうのは何?

え? 京職っていうのは京内の司法・行政・警察を行った行政機関のことなんだ。

なるほどねー。

つまり、京内東側の行政のトップってことかしらね。


ところで、キミの本名は何ていうの?

え? 藤原顕輔(ふじわらのあきすけ)っていうの?

あら、今日はゲップが出ないわね。

どうしてかしら。


じゃあキミのお父さんの名前は?

え? 藤原顕季(ふじわらのあきすえ)

ゴメン、聞いたことないわ。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


秋風(あきかぜ)に たなびく(くも)()()より

もれ()づる(つき)(かげ)のさやけさ


ふーん、なかなかいい感じの歌だわね。

特に「さやけさ」っていう語感がいいわね。

意味は知らないけど。


「さやか」とか「さゆり」とか、何かそういう「さ」で始まるひらがな系の名前って個人的に好きね。

特にアタシ達の世代は「〜子」って名前が多かったからね。

そうすると、どうしても語感が固い感じになるでしょ?


その中で「さゆり」とか、ふわっとした名前の娘がいると、なんかそれだけで気になったりするのよ。

そういえばアタシ、中学の頃に「さゆり」って名前の同級生がいたわ。

アタシはその娘のことが気に入ってたわね。


こんなふうに、名前に()かれるっていうのは、珍しいことなのかしら。

アタシにはよく分からないわ。


え?

「さやけさ」は「()みわたってくっきりしていること」なのね。

4Kテレビみたいなものかしらね。


意味も分かり(やす)そうな歌よね。

「秋風にたなびく雲の合間から顔を(のぞ)かせている月の影が、澄みわたっている」って感じじゃないの?

ほとんど読んだままよね。

アタシ的には、こんな歌が一番いいわ。

シンプル・イズ・ベストだわ。


でもやっぱりキミたちって、星の歌は()まないのよね。

どっちかって言うと月より星の方が、キラキラ輝いてる分、ロマンチックだと思うんだけど。


それに、星座やそれに含まれる星を見つける楽しみ、みたいなのもあるじゃない?

こぐま座の北極星、オリオン座のベテルギウスとリゲル、おおいぬ座のシリウス、さそり座のアンタレス……とかさ。

たしか学校でも習ってるはずよね。


アタシの場合は、子供の頃にアタシの部屋の本棚に星座の本があってね、親がそれとなく買ってくれてたのよ。

べつに星座になんて特別な興味は沸かなかったから、アタシは(ひま)なときに何気なくパラパラとその本のページをめくるくらいの読み方しかしてないんだけど、そんな適当な読み方でも有名な星座や星の名前なんかは自然と覚えちゃってたりするから面白いわね。


まぁでも、星がロマンチックっていうのは、ただ「キラキラ輝いているから」っていうビジュアル的な要素だけじゃなくて、「星の光が(はる)か遠くから時間を掛けて地球に届いているから」っていう物理的な要素も含めたところにロマンがあるわけよ。

月なんかじゃ、近すぎてそのロマンが無いでしょ。

月の光が地球に届くまでの時間は、たったの1.3秒だからね。


でも星って月なんかより、ずっとずっと遠くにあるのよ。

例えば、さっき例として挙げたオリオン座のリゲルの場合、リゲルからの光が地球に届くまでの時間って、どのくらいだと思う?


850年よ?

つまり、いま見えているリゲルは850年前のリゲルなわけよ。

もしかしたら、いま見えているリゲルは、本当はもうすでに存在していないのかも知れないわ。

でもそれは850年後にならないと確認できないのよ。


よく過去は過ぎた話って言うけどさ、遠い場所の過去って、実は現在だったり未来だったりするのよ。


もしも超絶高性能な望遠鏡が建造されて、その望遠鏡でリゲルを見たら、850年前の姿が現在リアルタイムで見られることになるし、反対にリゲル星人が超絶高性能な望遠鏡で地球を見た場合、いま空を見上げているアタシと目が合うのは850年後になるわけよ。


……まぁさすがに850年後じゃ、時間がかかり過ぎてて現実味が薄くなっちゃうけどね。


じゃあ例えば、いま太陽が爆発したとするじゃない?

でもそれを地球人が知るのは、だいたい8分後(8分19秒後)なのよ。

それって、言い換えれば、8分後に太陽が無くなるっていう確定した未来があるのに、それを今の地球人が知らないだけっていう事になるわけよ。


つまり一口に「未来」と言っても、別に不確定な未来ばかりじゃなくて、中には確定した未来もあるってことよ。

さっきのリゲルの話じゃないけど、見えてない過去や現在も未来の一部なの。

それはアタシ達が知らないから不確定な事のように思えるだけで、実は確定した未来なのよ。


そんな未来はアタシたちの日常にもゴロゴロ転がっているわ。

例えばA子が、もうアタシと別れようって強く心に決めたとするじゃない?

もちろん、A子がそんなふうに強く心に決めた事をアタシは知らないわ。


けど、もうその時点で二人が破局する未来は確定しちゃった事になるのよ。アタシにとってはまだ知らない未来でも、彼女にとっては確定した現在になってるの。


見えてない過去や現在が未来の一部だっていうのは、そういうことね。

自分だけじゃ、どうにもならない未来だってあるのよ。


星を眺めてるとね、ついアタシはそんな事を考えちゃうわ。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


秋風(あきかぜ)に たなびく(くも)()()より

もれ()づる(つき)(かげ)のさやけさ

(りき)んだ拍子に ()()づる尿

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