077.崇徳院 「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」
はーい、じゃあ次は崇徳院くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
キミも院がつくから元天皇ね。
キミのお父さんの名前は何ていうの?
え? 鳥羽天皇?
アタシの知識に無いから「ふーん」としか言いようが無いわね。
まぁいいわ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ
あ、この歌アタシ知ってるわ。
「千早振る」と同様に、落語にこの歌を題材にした一席があるのよ。
細かいストーリーは忘れちゃったけど、最後に「割れても末に買わんとぞ思う」っていうオチが付くのよね。
「瀬をはやみ」は「瀬が早いので」ってことね。
たしか理由を表す表現よね。
庶民派アピール天智天皇くんの歌の「苫をあらみ」と同じだわ。
「瀬」は、たしか「浅瀬」の意味で、川の浅いところのことよね。
反対に「水が深くなってるところ」を指すのが「淵」だったわ。
ツッパリ陽成院くんが教えてくれたのよ。
「岩にせかるる」ってのは?
え? 「せかる」は「堰き止められる」って意味なんだ。
「滝川の」は滝から流れる川ってことでいいの?
へー、「滝川」は、急流・激流を意味するのね。
じゃあ滝のように激しく流れてるってことね。
「われても末に」は、「割れても最後は」でいいのかしら。
ふーん、「われても」は「分かれても」なのね。
「逢はむとぞ思ふ」は前にも同じ形を見たことがあるわ。
NTR元良親王くんが詠んだ、「みをつくしても 逢はむとぞ思ふ」と全く同じだわね。
意味は「逢おうと思う」ってことよ。
間男の元良親王くんが、おどおどしながら教えてくれたわ。
つまり、キミが言ってることは、
「浅瀬が早いので岩に堰き止められる急流は、分かれても最後は会おうとする」
ってことかしら。
あー、何となく分かるわね。
「貴方とはやむを得ず別れることになったけど、いつかまた逢おうと思う」ってことでしょ、これ。
そんなこと言われたら、まーたアタシは高2で別れた彼女の話をしなきゃならないじゃないのー。
ちょっとぉー。
え? 誰もそんな話聞きたくない?
知らないわよ、そんなの。
アタシも、そうねぇ、高2で別れた彼女といつかまた逢おうと思って生きてきたわ。
でもその話の前に、以前、サガミオリジナルを財布に入れて持ち歩いている相模さんのところで触れた、Yとの因縁の続きを書いておこうかしらね。
Yって誰だ?ってなっちゃう人は、話が通じないと思うから先にそっちを読んでちょうだいね。
ていうか、アタシとしては第一話から順番に読んで欲しいわね。
……ってことで、まぁ、そんなこんなで高校入学後、アタシはYと同じバレー部に入部することになったのよ。
だけど、しばらく活動してるうちに、アタシと周りの部員達との部活に対する熱意の違いがハッキリ分かってきたの。
アタシ以外の部員達は、ただ何となく部活をやってるっていうか、暇潰しの延長っていう感じなのよ。
覇気が無いって言えばいいのかな。
でもアタシは中学時代のこともあるし、絶対最後まで部活を続けようって、やる気になってたのよ。
実際、アタシは新設バレー部のキャプテンになってたからね。
本来はロクにバレーボールの経験も無いアタシがキャプテンなんておかしな話なのよ。
けど、周りも似たようなレベルばっかりだったし、何よりアタシ以外の人たちの部活に対する態度がいい加減だったからね。
部活に出たり出なかったりしてさ。
部活ってのは少々体調が悪くたって出続けるものでしょ?
ずっと出続けて当たり前なのよ。
時々部活を休むとか、マジあり得ないから。
そういう感覚がアイツらには無いのよね。
……って、勢い余ってアイツらとか言っちゃったけどさ、そう言いたくなるくらい、いい加減な連中ばっかりだったのよ。
そんな状態だったから、毎日欠かさず部活に出て誰より必死に頑張ってるアタシがキャプテンになったのは必然の成り行きだったのよ。
だって時々部活を休む人がキャプテンとか、聞いた事ないでしょ?
アタシ以外まともな部員が居ないんだから、アタシがやるしか無いじゃないの。
もちろんアタシは、いわゆるキャプテンシーと言われるような、人をグイグイ引っ張る力だとか人から頼られるような人望だとか面倒見の良さだとか、そんなものは一切持ち合わせて無いわよ。
アタシは人に頼られるなんてまっぴらゴメンだし、人の面倒を見るなんてそれこそ面倒だわ。
もしも相手が女の娘だったら、女に優しくするのは男の義務だからそれなりの対応はするけどさ、後輩ならまだしも同学年の男の面倒なんかイチイチ見てらんないわよ。
アタシはそういう人間なのよ。
そりゃあ、纏まるものも纏まらなくなる訳だわ。
そうこうするうちに、部員の一人が練習に来なくなり、しばらくしてまた一人練習に来なくなり……っていう事が繰り返されるようになってね。
中には別の部活に乗り替えた人もいたみたい。
最終的に高1の冬頃には、もうアタシ以外誰も練習に来なくなったわ。
でもアタシは意地でも部活を続けようと思ってたから、一人になっても部活に出続けたのよ。
練習相手がいないから一人でずっと校舎の周りを走って、空いた時間に女子バレー部の顧問に付き合ってもらってレシーブの練習をしたりしてね。
あまりにも一人で走ってる時間が長いから、アタシはよく陸上部だと揶揄われたわ。
そうやって一人で部活に出るようになってからも、アタシは毎日、部活に出る前は必ずメンバー全員に「一緒に部活出ようぜ」「最初の一時間だけでもいいから練習に付き合ってくれ」って、声を掛けたわ。
でもみんなに「塾があるから」とか「バイトがあるから」とか「つまんねー」とか言われて、断られ続けたのよ。
たった一人だけでよかったの。
たった一人でも、「分かった、じゃあ一緒に練習しようぜ」って言ってくれる人がいたら、アタシはその人とたとえ二人だけでもずっと卒業まで部活を続けたと思うわ。
(それをバレー部と呼べるかどうかは別問題だけど)
それから1ヶ月間、アタシは毎日メンバー全員に声を掛け続けたわ。
とりあえず期限を切って、1ヶ月間は一人だけでも頑張ろうって思ってね。
だからその間は、たとえ全員に断られても毎日メンバーを誘ったし、毎日一人で部活に出続けたわ。
こうやって一人で頑張っていれば、その熱意に打たれて「アイツがそんなに部活を続けたいなら俺も付き合ってやるか」っていう人が現れるかも知れないっていう思いを込めてね。
当時アタシが読んでいた本の中に、「自分の心が燃えていなければ、他人の心に火は点けられない」っていう言葉が書いてあったのよ。
「なるほどなぁ」って思ったわ。
だからアタシ一人でも燃えていれば、そのうち他の誰かの心に火が点けられるんじゃないかと思ったの。
でも、最後までそんな人は現れなかった。
1ヶ月間声を掛け続けて、ずっと一人で練習してる間に、ただの一人も、ね。
「一緒に部活出ようぜ」って誘ったメンバーの中には「一人なのによくやるねー」なんて、半笑いで馬鹿にするような態度を示す人もいたわ。
Yもその中の一人ね。
要するに、アタシはYも含めたいい加減なバレー部のメンバー全員に見殺しにされたのよ。
たった一人だけでも練習に付き合ってくれる人がいたら、アタシは救われたのに。
この怨み、晴らさでおくべきか……
……なんてね。
ま、怨みというよりは、失望と軽蔑と憤慨ね。
Yも含めて、全員クズだと思ったわ。
塾があるとか言って練習をサボってる割には、定期テストの結果なんてアタシより遥かに悪いしさ。
「そんな成績、授業で寝てても取れんだろ」とか、「塾に行っててその程度の成績かよ、このクズ野郎」なんて思ってたわね。
あれ? やっぱり相当怨んでるかも。(笑)
そうして自分で決めた1ヶ月間という期限内に誰にも付いてきて貰えなかったアタシは、バレー部の顧問に退部を申し出たの。
顧問の先生は、アタシが一人だけで頑張っていたのをずっと見てきているから、「そうか。分かった」とだけ言って了承してくれたわ。
色々と目を掛けて貰っていたから、先生には申し訳ない気持ちで一杯だったけど、もうアタシにはどうする事も出来無かったからね。
その後、他の部員がどうしたかなんて知らないわ。
どうせロクに退部の挨拶もして無いんじゃないかと思うわね。
当然、その後の男子バレー部は活動することなく廃部になってたけどね。
とまぁ、こんな感じで「高校では最後まで部活を続ける」っていうアタシの目標はいきなり断たれてしまったの。
アタシは猛烈に腹が立ったわ。
「こんな中途半端でチャラいクズ共に負けてたまるか」ってね。
「オマエらが塾に行ってどんなに勉強しようが、俺は絶対負けねー。つか元々負けるはずもねーし、完膚なきまでにレベルの違いを見せつけて徹底的に見下してやる」って心に決めたのよ。
あらアタシ、いつの間にか俺とか言っちゃってるわね。
ま、気にしないでちょうだい。
この時点でアタシは、自分なりに精一杯部活動を続けようとして頑張った結果がこれだから自分の中では納得出来ていたし、こんなクズ共と一緒に部活動なんてこっちから願い下げだと思ってたから、もはやバレー部を辞めたことには何の未練もなかったわ。
ただ、アタシが部活を辞めたことで必然的に、彼女と一緒に学校から帰る機会が失われる事にもなったのよ。
これもアタシと彼女とを疎遠にさせたきっかけの一つと言えるわね。
だって男子バレー部が続いていれば、二人は毎日、部活終わりに待ち合わせて一緒に帰っていたはずだからね。
あ、また話が前後するけど、まだアタシが部活をしてた頃は、部活帰りに彼女と待ち合わせて二人で一緒に学校から帰ったりしてたのよ。
彼女は女子バスケ部で頑張っていたからね。
……というわけで、Yとアタシとの関係性について話を戻すと、アタシは高校の部活動で一度Yに見殺しにされてるのよ。
ま、こういう表現が適当かどうかは分からないけど。
アタシが「Yとの因縁」って前に書いたのは、ざっくり言えばこういう経緯ね。
それでアタシは、高校では部活を最後まで続けるっていう目標が絶たれて、他にする事も無いし、元バレー部でアタシを見殺しにした連中にもムカついたから、今度は必死になって勉強するようになるわけよ。
ま、そこから先については、また書きたくなったら書くわね。
つーか、百人一首と関係無さ過ぎだろ、この話。
ま、いっか。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ
滝川といえば 滝川クリステル




