074.源俊頼朝臣 「うかりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを」
はーい、じゃあ次は源俊頼朝臣くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
……って、キミ、若いのに「としより」って名前なのね。
え? 漢字が違う?
そんなの分かってるわよ。
ちょっと揶揄っただけじゃないの。
何そんな事で目くじらを立ててんのよ。
年寄りは怒りっぽいから困るわね。
え? アタシは何も言ってないわよ。
ところで、キミのお父さんの名前を聞いてもいいかしら?
へー、源経信っていうんだー。
どこかで聞いたことあるわね。
……って、このクラスの大納言経信くんじゃないの!
まーた親子かよ。
だからこのクラスには親子が何組いるんだっつーの。
まぁいいわ。
今さら何を言っても無駄よね。
やっぱり百人一首って、家族対抗歌合戦だわ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
うかりける 人を初瀬の 山おろしよ
はげしかれとは 祈らぬものを
なぁに、これ。
まさかのハイキック系!?
アタシ、キック系ってローキック系とミドルキック系しかないと思ってたわー。
ここでまさかのハイキック系かー。
アタシの意識を散々ローキックやミドルキックに向けさせてからのハイキックなんて、シャレてるじゃないの。
その心意気が気に入ったわ。
まぁ、でも意味が分かんないけどね。
「うかりける」って何?
え? 「憂かりける人」で「つれないあの人」って意味なの?
いけず、ってことね。
「初瀬の 山おろし」ってのは何?
初瀬くんの必殺技?
昔、アブドーラ・ザ・ブッチャーっていうプロレスラーがそんな技を使ってたわね。
あれ? もしかすると山嵐っていう技だったかしら。
アタシの記憶もいい加減だわ。
え?「初瀬」は地名なのね。
ふーん、「山おろし」は「山から吹き下ろしてくる激しい風」って意味なんだ。
阪神タイガースの歌に出てくる「六甲おろし」の「おろし」と同じなのね。
次の「はげしかれとは 祈らぬものを」ってのは?
激しく風が吹けなんて祈ってねーよ、って感じ?
ちなみに、さっき話したアブドーラ・ザ・ブッチャーの入場曲のタイトルは「吹けよ風、呼べよ嵐」だったわ。
まったく関係ないわね。
え?「激しくなれとは祈らなかったのに」って意味なのね。
じゃあまとめると、キミが言いたかったことは、
「つれないあの人の事を祈っただけで、初瀬の山から吹き下ろしてくる風が激しくなれとは祈らなかったのに」
って感じかしら?
たぶん、「祈ってたことと全然違うことが起きちゃった、そんなこと祈ってないのに!」って言ってるのね。
これって、そんな事を言ったつもりは無いのに相手が誤解しちゃって、想定外の出来事が起きたってことでしょ?
うわー、まさにアタシが高2の冬に彼女と別れたパターンと同じじゃないのー。
アタシの場合は「今は勉強に専念したいって言っただけで、別れようとは言ってなかったのに」って感じだからね。
以前どこかに書いたけど、彼女はアタシが「距離を置こう」って言った言葉を「別れよう」という意味に捉えたらしいのよ。
この言葉をそう捉えるのが一般的な感覚なのかどうかアタシには分からないけど、当時のアタシは「別れよう」なんて言うつもりは全く無かったのよ。
「距離を置こう」が「別れよう」っていう意味を持つこと自体、アタシは知らなかったからね。
今だってアタシは納得できないわよ。
別れたい時にきっぱりと「別れよう」って言わずに「距離を置こう」なんてセリフで曖昧に誤魔化そうとするヤツが大勢いるから、この言葉を本来の意味でまともに使っているアタシがこんな目に遭うのよ。
別れたい時は正々堂々と「別れよう」って言えよ、このクズ共が。
何か後ろめたい事でもあんのかよ。
オマエらがチャラい恋愛ばっかしてっから言葉の意味が歪んで、アタシが被害を受けたのよ。
オレがこんな目に遭ったのはオマエらのせいだかんなっ!
怒ったかんな! 許さないかんな!
橋本しーんや!
あーまた昔のネタをやっちゃったわ。
思わずアタシも素に戻って「オレ」とか言っちゃったわよ。
あ、ちなみに橋本真也ってのは、昔活躍したプロレスラーね。
闘魂三銃士の「破壊王」だわ。
顔が渡辺徹に似てたから、古舘伊知郎に「戦う渡辺徹」とか訳の分からないことを言われていたわね。
でももう橋本真也も渡辺徹も亡くなっちゃって、寂しい限りだわ。
ていうかアタシ、もうこの高2の彼女の話を何度書いてるか分からないわね。
でも書くわよ。
もう、事あるごとに書いてやるわよ。
だってアタシが女の娘に振られた経験って、この一回だけだからね。
もちろん自慢なんかじゃないわよ?
ただアタシが彼女と別れて以降、誰に対しても本気の恋愛感情を持つことが出来ないっていうだけのことだわ。
それ以降も何人かの女の娘とは付き合う真似事をしたけど、もともと遊びあるいは一時的な関係と割り切って付き合うような相手ばっかりで、アタシが本気で好きになった女の娘はいなかったからね。
ある日を境に突然その娘と会うことが無くなったとしても、アタシは特に何も思うところは無くて「あーそう言えばしばらく会ってないなぁ」っていう状態が何となく続くだけで別れたことにはならないっていうか、そもそも恋人として付き合ってるっていう感覚がアタシに無い訳だから、振ったとか振られたとか付き合ったとか別れたっていう感情が湧き上がってこないのよ。
そういう意味では、アタシは高2の彼女の幻影に悩まされることはあっても、その他の恋愛感情に煩わされたり悩まされたりすることは無かったわね。
アタシの高2の彼女に対する強烈な恋愛感情に比べたら、それ以外の女の娘に対する恋愛感情なんて鼻クソみたいなもんだわ。
アタシが全身全霊を賭けて好きだと言える人は、後にも先にも高2の彼女だけよ。
彼女のことは今までも今もこれからも、ずっと永遠に好きだわ。
好きなものは好きなのよ。
アタシが彼女を嫌いになる事はあり得ないわね。
そりゃあ、実際はとっくの昔に別れてるわよ?
ヨリを戻せる可能性だって0だわ。
でも、だから何なのよ。
アタシが彼女をずっと好きでいる事と、その想いが実を結ぶかどうかという事とは無関係だわ。
人が人を愛するって、究極的にはこういう事なんじゃないの?
いつでもいつも、どんな時も心の中でひっそりと相手を想ってるっていうかさ。
愛って、突き詰めていくと、相手が自分を愛してるかどうかとか、相手が自分を好きか嫌いかとか、その愛が成就する可能性が高いとか低いとか、関係無くなってくるのよ。
だって無条件に愛することが本物の愛だから。
相手に愛されてる時だけ自分も相手を愛して、相手に愛されなくなったら自分も相手を愛さない、ってのはおかしくない?
そんなの条件付きの愛でしょ。
それが本当の愛って言えるかしら?
解散するまでが遠足なんじゃなくて、家に帰るまでが遠足なのよ。
小学校の先生に言われたでしょ?
愛だって同じよ。
解散(破局)するまでが愛なんじゃなくて、土に還る(死ぬ)までが愛なのよ。
……って、これはちょっと強引過ぎたかしら。
まぁ、つまりアタシが言いたいことは、アタシの高2の彼女に対する愛は本物だってことよ。
そう言わせてよ。
じゃなきゃアタシが惨めじゃないの。
え? そんなのは愛じゃないって?
ビッグなお世話だわ。
たとえそうだとしても、別にいいでしょ。
誰にも迷惑はかけてないし、アタシがただ心の中でそう思ってるだけなんだから。
精神的自由権に規定された「思想・良心の自由」だわ。
日本国憲法の第19条にも書いてあるわよ。
「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」
ってね。
日本国憲法って、改めて読むとなかなか興味深いことが書いてあって、いろんな発見があるわよ?
アンタたちも、日本人なら一度は日本国憲法を読んでおくべきだわ。
とか言って、アタシもついさっき読んだばっかりなんだけどさ。
長さとしては原稿用紙8枚くらいだし、「日本国憲法全文」でググればすぐに読めるわよ。
ちなみに第27条には「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」って書いてあるわ。
仮想通貨や株の売買なんかで稼いでるデイトレって、勤労してるうちに入るのかしら。
ニートとか年金暮らしの老人ってどういう扱いなの? なんてね。
つい、興味をそそられちゃうわね。
……って、また百人一首とは関係無いことばっかり書いちゃったわね。
ま、わざとなんだけど。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
うかりける 人を初瀬の 山おろしよ
はげしかれとは 祈らぬものを
激しい彼に また逝かされちゃう!




