072.祐子内親王家紀伊 「音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の ぬれもこそすれ」
はーい、じゃあ次は祐子内親王家紀伊さーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
……って、呼び名が長ぇーよ。
一体どうなってんのよ。
え? アナタは後朱雀天皇の皇女の祐子内親王の女官なの?
やっぱり長ぇーよ!
アナタのお父さんの名前はなんていうの?
え? よく分からない?
平経方かも知れないし、平経重かも知れない?
何なの? その「かも知れない」ってのは。
お母さんが同じ時期に両方と関係を持っちゃって、父親がどっちか分からない、みたいな感じ?
最近はDNA鑑定が出来るけど、ちょっと前まではそんな技術は無かったからね。
産んではみたものの、正直、誰の子か分からない、なんてこともよくあったらしいわよ。
かつての有名人で言えば、大沢樹生と喜多嶋舞の長男が実は大沢樹生の子じゃなかった、とか、ダルビッシュ有と紗栄子との間にできた子の顔が何故かベビーシッターの男の顔にそっくり、なんて笑えない話もあったわね。
やっぱり女って怖いわよね。
好きになった女が実はあっちこっちでお股を開いてた、なんて、男としてはやりきれないわよ。
たぶん、普通に失恋するよりショックだと思うわ、これ。
まぁそれに腹を立てて、すぐに別れようっていう気持ちになれるような相手ならまだマシだけど、もう本気で好きになっちゃってて別れるのがツラい、っていう状況だと、かなり悩むことになるわね。
……って、こういうことを言うと「男だって浮気するでしょ。お互い様よ」みたいな事を言う女が必ず出てくるのよね。
「男の浮気は何となく許されるのに、女の浮気は許されないなんておかしい」とか言い出したりしてね。
そう言いたくなる気持ちは分からなくもないけど、やっぱりその考えには無理があるわね。
だって男の浮気と女の浮気とでは、質が全然違うし、意味も全然違うんだもの。
両者を同列に扱うことはできないわ。
こういった事は、別に浮気に限った話じゃないわよ?
これは一般論あるいは常識として理解していて欲しいんだけど、たとえ同じ行為でも、男がそれをするのと女がそれをするのとでは、自ずと意味が違ってくるのよ。
そこが理解できてないと、さっきみたいに「男に許されることは女にも許されるべきだ」的な無謀な意見を平気で言うようになっちゃうから注意が必要ね。
誤解の無いように言っておくけど、これは差別とは違うわよ?
これを男女差別だと捉える人は考え方を改めた方がいいわ。
こんなのは、べつに差別でも何でもないからね。
例えば、男が人前で服を脱ぐのと、女が人前で服を脱ぐのとでは、もうそれだけで意味が違うのよ。
これは分かるでしょ?
ましてや、男が性行為をするのと女が性行為をするのとでは、もうその意味が全然違ってくるの。
違って当然なのよ。
これが差別だなんて、的ハズレもいいところだわ。
男の行動は男の行動で、女の行動は女の行動なのよ。
当たり前よね。
男の行動は男の行動として認識され、女の行動は女の行動として認識されるの。
これも当たり前ね。
だから男の行動は男の行動として評価されて、女の行動は女の行動として評価されるのよ。
これも当たり前だわね。
何が言いたいかというと「男の浮気は男の浮気として評価され、女の浮気は女の浮気として評価される」ってことよ。
当たり前よね。
男の行動に対する評価基準と女の行動に対する評価基準が違うのは当然のことで、こんなのは差別でもなければ不公平でもないし、どこもおかしく無いわ。
男女の行動を同じ評価基準で評価しろとか、評価基準が男女で違うのはおかしい、なんて言う方がおかしいのよ。
議論の余地があるとすれば、男の行動に対する評価基準と女の行動に対する評価基準が、それぞれ妥当な基準になっているかどうかということね。
具体的に浮気のケースで言えば、男の浮気と女の浮気を比較した場合、女の浮気の方が罪が重い(許されない)とする評価基準が妥当なのかってことよ。
さっき言ったみたいに、世の中には女の浮気の方が男の浮気より罪が重いのはおかしいと主張する女もいるからね。
でもアタシはこの評価基準はそれほど間違ってなくて、妥当なものだと考えているわ。
アタシがそう考える理由の一つ目は、一般的に男の方が女よりも収入が多いってことね。
「少々浮気しても家計に貢献しているんだから大目に見てあげないと」っていうバイアスがかかるのよ。
もしも女の方が男よりも収入が多いことが一般的になって、女が家計を支えるのが当たり前の時代が来たらこの評価基準は男女逆転すると思うけど、男が家計を支えているケースが一般的になっている現状ではこの評価基準は妥当だと思うわね。
もちろん「家計を支えていれば浮気をしてもいい」なんて言うつもりは無いけど、家計の支えにもなってない人が浮気をするのと家計を支えている人が浮気をするのとでは、その扱いに差が出るのは仕方が無いことだわ。
家計を支えていることが、男にとっては罪滅ぼしになるってことね。
ちなみに日本の法律って、たいていの罪はお金で償えるように出来てるのよ。
実際、法律上の罰則はそのほとんどが「〇〇年以下の懲役又は〇〇円以下の罰金」ってなってるからね。
ある法律に違反した罰則が「〇〇年以下の懲役又は〇〇円以下の罰金」ってことは、裏返しに見れば「〇〇円払えばその法律に違反しても罪に問われない」って言っているのと同じなのよ。
簡単に言えば「お金で罪が許される」システムね。
そりゃ、みんな金持ちになりたいはずだわ。
二つ目の理由は、男と女では子供との結び付きの強さが違うってことね。
あ、これは浮気をした人に子供がいる場合の話ね。
子供との結び付きを一般的な家庭の父親と母親とで比較した場合、母親の方が圧倒的に強いのよ。
父親よりも母親の方が、不貞を働いたときに子供に与える衝撃や損害が圧倒的に大きいってことね。
父親が子供を放ったらかしたケースと母親が子供を放ったらかしたケースとを比べてみても、後者の方が明らかに子供に与える衝撃や損害が大きいわ。
子供に与える被害が大きい分、男より女の浮気の方が罪深いってことになるのよ。
浮気って「自分の快楽のために子供をほったらかして、よく平気でいられるわね」っていう感じで世間から見られるからね。
どうしたって女に対する風当たりが強くなるわね。
三つ目の理由は、間違いが起きた時に女の方が事態が深刻化しやすいってことかしら。
女には常に妊娠する危険性があるから、最悪なケースにおけるリスクが男よりも大きいの。
男よりも大きなリスクが伴う分、男より女の浮気の方が罪深いってことになるのよ。
まぁ他にもいろいろと理由はあるんだろうけど、そういった諸々の理由を全部ひっくるめて、男の浮気より女の浮気の方が罪が重いとする現状の評価基準が出来上がっているんだとアタシは思うわね。
つまり浮気について言えば、男女の評価基準の違いには合理的な理由があって不当な男女差別には当たらない、っていうのがアタシの考え方なのよ。
一般的に言えば、男女平等だからって単純に「男がしてるから女もしていい」ってことにはならないってことね。
……あら、また話が脱線しちゃったわね。
アナタにこんな話をしてもしょうがないのにね。
何でこんな話になったのかしら……。
あーそうそう、アナタのお父さんが平経方かも知れないし、平経重かも知れない、なんて言ったからだわ。
まぁとにかく、親がどうあれ、産まれてきた子に罪はないわ。
アナタには、これからもたくましく生きていって欲しいわね。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
……って、全然さっそくじゃないけどさ。
音に聞く 高師の浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ
なぁに、これ。
海の波で袖が濡れました、チックショー、って歌?
よく分からないわね。
「音に聞く」は音が聞こえる、って意味でいいの?
え? 「音」は「評判」のことで、「噂に名高い」ってことなのね。
「高師の浜の」っていうのは、そういう名前の浜があるってことね。
「あだ波」ってのは何?
親切が仇となる、なんて言うわよね。
え? 「いたずらに立つ波」の意味なのね。
「かけじや袖の」は?
え? 「じ」は、打消意志の助動詞で「かけじ」で「かけまい」ってことなのね。
なるほど、「袖に波をかけまい」ってことね。
「ぬれもこそすれ」ってのは何?
ふーん、「濡れるといけないから」ってことなのね。
つまり、アナタが言っているのは、
「噂に聞いた高師の浜のいたずらに立つ波は、袖にかけまい、濡れるといけないから」って感じだわね。
袖に波がかかるって、結構な波しぶきだわね。
普通の海岸じゃ、考えられないわよ。
きっと、岩場の海岸で、岩に波が当たってしぶきが上がってるようなイメージね。
何だか東映映画のオープニングみたいね。
あの、映画の最初に東映のロゴが出て、バックで海の波が岩に当たってしぶきを上げてるやつよ。
邦画を観ない人には分からないかも知れないけど。
まぁでも、波しぶきが袖にかかるとか以前に、岩場の海には近づかない方がいいわね。
意外に滑りやすくて危ないのよ。
そんなところで転んで怪我をしたらバカバカしいでしょ。
転ばなくても、岩や石で足の裏を切る可能性もあるわ。
やっぱり海は遠くから眺めている方が安全ね。
どうしても海に入るなら砂浜からにするべきね。
え? この歌はそんな歌じゃない?
浮き名を馳せている男からの誘いを断ってる歌なの?
下手に関わると後で自分が泣くはめになるからお断りってこと?
相変わらず面倒臭いことをしてるわね。
断るならもっとストレートに断りゃいいじゃないの。
まぁいいわ。
アナタ達の謎かけ合戦に付き合う気は無いわ。
あと、袖で涙を拭くのは汚いから止めてちょうだい。
オマエらには、何かハンカチ的なものを用意して涙を拭くっていう発想は無いのかよ!
あら、ゴメンなさい。
ちょっと取り乱しちゃったわ。
もしかしたらアナタ達は袖で鼻水なんかも平気で拭いてるんじゃないの?
袖はよく洗っておいてちょうだいね。
あとでカピカピになるから。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
音に聞く 高師の浜の あだ波は
かけじや袖の ぬれもこそすれ
かぜに効く! コフト顆粒




