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066.前大僧正行尊 「もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし」

はーい、じゃあ次は前大僧正(さきのだいそうじょう)行尊(ぎょうそん)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

何だか坊主が来るのも久しぶりな気がするわね。


ところで、キミの本名はなんていうの?

え? よくわからない?

なるほどね、坊主にありがちなパターンね。

まぁ俗世を捨てて坊主になるんだから、その時に本当の名前も捨てちゃうのかも知れないわね。


じゃあキミのお父さんの名前はなんていうの?

ふーん、源基平(みなもとのもとひら)なのね。

って、アタシは聞いたことないけど。


何度も言ってると思うけど、アタシは理系の人間なのよ。

日本史なんて、力を入れて勉強したこともないし、世界史に至っては一度も学校で教わった事がないわ。

そんなアタシが、源基平(みなもとのもとひら)なんて聞いても分かる(わけ)ないでしょ!


その代わり、数学の公式なんかはせっせと覚えてたけどね。

ついでだから、アタシが当時覚えて、今でも覚えてる高校数学の公式の一つを教えてあげるわね。

ここで取り上げるのは「sin(サイン)関数とcos(コサイン)関数の3倍角の公式」よ。

数学の参考書を見ると、こんな感じで載ってるはずだわ。


sin3θ = 3sinθ - 4sin^θ

cos3θ = 4cos^θ - 3cosθ


あ、上に書いた「^」は、3乗の意味だと思ってちょうだいね。

本当は「^」の箇所には小さく「3」って書きたいんだけど、そう書けないから「^」って書いたってことね。


この公式を覚える場合は、このままの形で覚えちゃダメなのよ。

右辺で、4はどっちに付くんだっけ?とか、3乗の位置って前だっけ後ろだっけ?っていうのが頭の中でごっちゃになるからね。

覚えやすくするためには、cos3θの式の全体にマイナスを掛けるのよ。

それから、cos3θの式を上に、sin3θの式を下に書くといいわ。

つまりこんな感じ。


-cos3θ = 3cosθ - 4cos^θ

sin3θ = 3sinθ - 4sin^θ

こうするとsin(サイン)cos(コサイン)の両方の式の形が(そろ)って覚えやすいのよ。

ただし、cos3θの頭にマイナスが付いてることだけは要注意ね。


じゃあ、いよいよこの公式の覚え方を伝授するわよ。

あ、言っとくけど、この覚え方は完全にアタシのオリジナルだからね。

こんな覚え方を教える人は、世界にたった一人、アタシだけだから。


この式は、こんなふうに語呂合わせで覚えるのよ。

舞妓(まいこ)さん、神輿(みこし)引いて参上(さんじょう)


舞妓(まいこ)さん」は「-cos3」。

神輿(みこし)」は「3cos 4」。

「引いて参上(さんじょう)」は「- ^」ね。(^は3乗の意味)


「=」が出てこないけど、そこは「、」の()の時に「=」って書くのよ。

これを覚えておけば、「舞妓(まいこ)さん、神輿(みこし)引いて参上(さんじょう)」って言いながら、

-cos3 = 3cos - 4 ^

って書けるでしょ。


あとは、「cosの式にはcosしか出てこないんだよなぁ」とか気を利かして空白を埋めれば、

-cos3θ = 3cosθ - 4cos^θ になるのよ。

これが書ければ、sin3θの式も頭にマイナスが付かないだけで同じ形だから、

sin3θ = 3sinθ - 4sin^θ って分かるわ。


じゃあ今ここで、アタシと一緒に「舞妓(まいこ)さん、神輿(みこし)引いて参上(さんじょう)」って、3回繰り返して言ってみてくれない?

せーのっ!


舞妓(まいこ)さん、神輿(みこし)引いて参上(さんじょう)

舞妓(まいこ)さん、神輿(みこし)引いて参上(さんじょう)

舞妓(まいこ)さん、神輿(みこし)引いて参上(さんじょう)


ほら、これでもう「sinとcosの3倍角の公式」が忘れられなくなったでしょ?

ちゃんとアタシに感謝しなきゃダメよ?


……ちゃんと感謝してくれたかしら?

あ、そうそう。

大事なことを言い忘れてたわ。

感謝してもらったついでに、言わせてもらうわね。


こんな公式、人生で何の役にも立たないから!


理系の人でも、せいぜい役に立つのはsinの3乗を積分するときか、cosの3乗を積分するときぐらいじゃないかしら。


あ、でも、cosθ=tと置けばsinθdθ = -dtだから

∫sin^θdθ = - ∫(1- t・t)dt = -t+ t^/3 + Cで、

∫sin^θdθ = -cosθ +cos^θ/3 + C

って簡単に計算できるし(Cは積分定数ね)、

∫cos^θdθ も、sinθ=tと置けば同様に出来るしなぁ。


それに最悪、忘れても加法定理と倍角の公式から導けるし。

ま、覚えていても大した得は無いけど、その代わり、覚えていて損ってことも無いわね。


……さて、と。

ここまでブラウザバックせず、忍耐強く読んでこれた人って何人いるかしらね。(笑)

アタシもまさか、ここで積分をするはめになるとは思ってなかったわよ。

成り行きって怖いわね。


数学の公式を教えたりしてると、時々こんな質問をしてくる人がいるのよ。

「数学の公式なんか覚えて、何の役に立つんですか?」ってね。


そんな事はアンタが人の役に立つ人間になってから聞いてこいっての。

つか、そういうこと言ってると、円周率を1000桁以上も覚えてる人から逆恨(さかうら)みされるわよ?

ま、アタシは、少なくともテストの問題に出たら役に立つし、最悪、脳トレの役には立ってるんじゃないかと思ってるけどね。


あと、会社に入ってきた新卒に作業を教えてるときも、たまに「こんなこと、する意味あるんですか?」とか「なんでこんな事してるんですか?」とか、いちいち聞いてくる人がいるわ。

アタシ、そうやってしつこく聞いてくるような面倒なヤツは、冷たく突き放すことにしてるの。

「そういう質問は、仕事を覚えてからにしてくんないかな?」ってね。


もちろん、これが女の()だったら、そんな言い方はしないわよ?

でも、そもそも女の()の場合は最初から「なんでこんな事してるんですか?」っていう面倒な質問はしてこないわね。

やっぱり女の()は素直が一番よ。


……って、また話が()れたわね。

何の話をしてたんだっけ?


えーと、たしかキミのお父さんの名前が源基平(みなもとのもとひら)って聞いたんだったわね。

で、そんな名前を聞いてもアタシが知るかよ、みたいに言ったんだったわ。

まぁ実際、知らないからね。


え? じゃあ何でお父さんの名前を聞いてんだ、って?

それは、まぁ一種の社交辞令みたいなものだわ。

挨拶(あいさつ)のついでに「今日はいいお天気ですね」って言うようなものかしら。


天気がいいことぐらい、見りゃ分かるっつーの。

「今日は暑いですね」とかもそうね。

暑いからTシャツ一枚の格好してんだろ、みたいな。


昔はアタシも社交辞令なんて()らねーだろ、って思ってたんだけどさ、いざ大人になってみると、社交辞令を言う側の気持ちもよく分かるのよね。


アタシは子供の頃、親戚の家に行くのが苦手だったのよ。

同じ年齢(とし)の子がいる親戚ならまだいいんだけど、叔父(おじ)さんや叔母(おば)さんしかいない親戚だと、退屈するじゃない?

そりゃ、家でゲームをしたり友達と遊んでたりする方が楽しいに決まってるわよ。


それもそうなんだけど、久しぶりに親戚に会った時の子供って、最初に必ずと言っていいほど、「大きくなったなぁ」とか「大きくなったわねぇ」って言われるのよ。

これがアタシにとっては返事に困るわけ。

まぁアタシにとっては、っていうか、子供なら大抵(たいてい)そうだと思うけど。


だって、こんなの独り言みたいなものでしょ。

それこそ、ただ詠嘆(えいたん)してるだけだわ。

「大きくなりにけり」って言ってるようなものよ。

まったく、独り言なら一人の時に言ってもらいたいわよね。


でも、言葉を掛けられた以上、ずっと黙ってるのも変じゃない?

それじゃあ何だか無視してるみたいになっちゃって印象悪くなるし、向こうは向こうでこっちを見ながらアタシが何か言うのを待ってる感を出してくるしさ。

だからって、目上の人にツッコミを入れる(わけ)にもいかないでしょーよ。


「大きくなったねぇ」って親戚に言われるたびに、毎回アタシは「小さくなるかよ」って心の中で舌打ちしながら(つぶや)いてたけど、さすがにそれを口に出して言う勇気は無かったわ。

で、結局は何も言い返せずに愛想笑いでゴマかしたりするんだけど、それはそれでやっぱり釈然としないのよ。

何かこう、モヤモヤするわけ。


自分が愛想笑いをしてるっていうより、相手から愛想笑いを強制させられてる感じの方が強いっていうか、ちょっとした屈辱感みたいなものがアタシの中に生まれるっていうかさ。

それがねー、苦手だったわー。

子供の時に、こんな風に思ってたのって、もしかしてアタシだけなのかしら。

他の人に聞いたことが無いから分からないけど。


で、こんだけ自分で「モヤモヤする」とか言っておきながら、いざアタシが大人になって(おい)っ子と顔を合わせると、「大きくなったなぁ」って言っちゃう自分がいるのよね。

今度は子供の頃と逆で、久しぶりに親戚の子に会ったときに、大人としては何も声を掛けないわけにはいかないじゃない?

子供から話しかけてくるまで黙ってるなんて大人げ無いし、もともと子供ってのは人見知りをして当然なんだから、そこは大人が声を掛けるべきでしょ。

むしろ、妙に世間慣れした子供なんていたら、かえって(やみ)を感じるっていうか、不気味に思うわね。


何だか一時期の寺田心くんを見てるような気持ちにさせられちゃうじゃない?

「転生したら寺田心でした」なんて、ラノベにもなりゃしないわよ。

何だか最初から最後まで、卑屈(ひくつ)な人生を送って終わりそうじゃないの。

スライムに転生してる方が、数倍マシだわ。

ま、アタシの偏見だけど。


……ってことで、自然と大人の自分から話し掛ける形になるんだけどさー。

はっきり言って興味無いじゃん、他人の子なんて。

まぁそこは個人差があるのかも知れないけど、アタシはそういうタイプなのよ。

そうするとね、やっぱり「大きくなったなぁ」としか言いようが無いのよ。


だって、その子の中身なんて知るわけ無いんだからさ、見た目の感想を言うぐらいしか無くね?

他に何を言え、と?


だからさー、アタシが子供の頃に「大きくなったなぁ」って言ってた親戚の叔父(おじ)さんも、もしかすると今のアタシと同じ気持ちだったのかなぁって思っちゃうのよね。

そして、アタシに「大きくなったなぁ」って言われた(おい)っ子は、きっと心の中で舌打ちしながら「小さくなるかよ」って(つぶや)いてたと思うわ。

因果は巡るのね。


……って、また話が脱線してるわね。

さすがにアタシも、そろそろ本題に入らないとマズいだろ、って思うわ。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


もろともに あはれと(おも)へ 山桜(やまざくら)

(はな)よりほかに ()(ひと)もなし


なぁに、これ。

「もろともに」ってのは?

え? 「一緒に」って意味なのね。


「あはれと思へ 山桜」は「哀れと思ってくれ 山桜よ」ってこと?

え? そうじゃないの? 


ふーん、愛しいと思っておくれ、山桜よ、ってことなんだ。

「あはれ」って、「愛しい」っていう意味もあるのね。

何だかよく分からないけど、まぁいいわ。


「花よりほかに 知る人もなし」は、「花以外に誰も知らない」ってことでいいのかしら。

え? だいたい合ってるの?

なら、良かったわ。

誰も知らないっていうのは、私の存在を知らないって意味なのね。


じゃあ、キミが言いたかったことは、

「一緒に愛しいと思っておくれ、山桜よ。花以外に私のことなど誰も知らないのだから」

って感じかしら。


なるほどねー。

キミの周りには、知ってる人が誰もいない状態ってことかぁ。

つまりボッチ状態ってことね。

花以外に私のことなど誰も知らない、なんて言ってるけど、本当は花だってキミを知ってるわけが無いものね。


こういう経験はアタシにもあるわ。

みんなが友達と仲良さそうにしている中で、自分だけが独りぼっちでいる状況って、確かにツラいわよね。

ただ単に独りでいるだけの状況なら、別にどうってことは無いんだけどね。

むしろ気楽で助かっちゃうくらいだわ。


本当にツラいのは、自分の周りにいる人達がみんな誰かとツルんでいる状況で、自分だけが独りっていうか仲間外れの状態ね。

こういう時って本当に困るわ。


一言で言えば、孤独は平気だけど、孤立は困るのよ。


引きこもったりボッチになったりする人っていうのは、きっと孤独になりたいんじゃなくて、孤立したくないのよ。

もし孤立しても平気なんだったら、周りがどんなにツルんでいようが自分が独りでいようが、それを苦にする必要は無いものね。

まぁでも、自分の周りに知ってる人が誰もいないっていう状況は、キャラ変のチャンスとも言えるわね。


だって自分の周りには自分の過去を知ってる人が誰も居ないってことでしょ?

過去の自分に区切りをつけて、新しい自分に生まれ変わるには好都合じゃないの。

そこからまたスタートすりゃいいのよ。

孟母三遷(もうぼさんせん)の教え」なんて(ことわざ)もあるでしょ。

環境が自分に合わないと感じたら、場所を変えてまたやり直せばいいんだわ。


とはいえ、コロコロと場所を変え過ぎるのも、考えものだけどね。

転石(てんせき)(こけ)(しょう)ぜず」とも言うからね。

英語で言えば、A rolling stone gathers no moss. だわ。


ちなみにリアルのアタシは、会社の倒産や家庭の事情で何度も転職を強いられて、ついこの間まで契約社員だったわ。

契約社員って、マジで悲惨だからね。

どこまで行っても給与は()え置き、賞与は無し、退職金も出ないわ。

一度そうなったら、なかなか抜け出せないわよ。


結局アタシは契約が切れて、別の会社に就職するしかなくなったんだどさ。

さして取り柄のないこんなジジイじゃ、新入社員程度の安い給料でしか雇ってもらえないわよ。

まぁそれでも雇ってもらえるだけありがたいんだけど。


これを読んでる人は、アタシみたいにならないように、若いうちにちゃんとした会社に就職して、しっかりと人生の足場を作っておくのよ?

分かった?


つか、もうこれ、百人一首と全然関係ないわよね。

自由気ままに書きすぎて、もはや何のジャンルかアタシにも分からないわ。


……ま、いっか。

じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


もろともに あはれと(おも)へ 山桜(やまざくら)

(はな)よりほかに ()(ひと)もなし

昇給もなし ボーナスもなし

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