065.相模 「恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ」
はーい、じゃあ次は相模さーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
あら、男が来だしたと思ったら、また女が来たわね。
どうせなら、清少納言さんの後に並んで8人連続にしちゃえばよかったのに。
アタシは8人連続って言ったら、オールスターゲームでの江川卓の8連続奪三振を思い出しちゃうわね。
江川の浮き上がってくるようなストレートは絶品だったわよ。
ああいうストレートを投げるピッチャーは最近見ないわね。
古き良き時代だったわ。
しかも持ち球はストレートとカーブのたった2種類だけだからね。
今どき、高校生でもそんなピッチャーはいないっつーの。
ところで、アナタの本名はなんていうの?
え? よく分からない?
ミステリアスな女ってことね。
アナタのお父さんの名前は分かる?
ふーん、それも分からないのかー。
え? そうなの?
アナタって、源頼光の養女だったんだ。
じゃあきっと、源頼光に拾われたってことなのね。
まぁでも、昔はそういうことも珍しくなかったそうだから、気にする必要は無いと思うわ。
源頼光の養女なら、かえって立派なくらいだわ。
ところで、どうしてアナタは相模って呼ばれてるの?
もしかして、いっつも財布の中に薄いゴムを持ち歩いてるから?
サガミオリジナルにはアタシもお世話になってるわよ。
あ、これはググらなくていいから。
え? 夫の大江公資が相模守だったからそう呼ばれてるの?
なるほどねー。
じゃあ今で言えば、神奈川県知事の奥さんが神奈川って呼ばれるようなものなのね。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
恨みわび ほさぬ袖だに あるものを
恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ
あら、変則ローキック系の歌だわね。
でもなぁに、これ。
いきなり「恨み」とか言うから、ビックリしちゃったじゃないの。
ところで「恨みわび」って何?
え?「恨む気力も失って」って意味なの?
なによー、それー。
昔のアタシみたいじゃないのよー。
そういう事を言われちゃうと、またアタシの高2の冬の失恋話の続きをしちゃうわよ?
ってか最近は、むしろこっちがメインになりつつあるわね。
もう最初の設定なんか、ガン無視よ、ガン無視。
以前、「アタシが彼女のために頑張って勉強してたら、彼女が高2の冬に、知らないうちに同じクラスのYと付き合い始めていてショックを受けた」みたいな事を書いたのを覚えてるかしら?
今回は、そのYとの因縁の始まりについて書くことにするわね。
話は高校入学から少し遡るんだけど、アタシが通ってた中学には球技大会ってのがあってね。
まぁ文字通り学年ごとに球技の大会をやるってだけのことなんだけど、その時に自分が参加したい球技を選べるのよ。
例えばバスケとかソフトボールとかね。
そんな中で、アタシが中学3年の最後の球技大会で選んだ球技はバレーボールだったの。
それまでアタシはまともにバレーボールなんてやったことが無かったんだけど、それなりに身長はあるし運動神経も良かったから、まぁ何とかなるだろう、くらいの軽い気持ちで参加することにしたのよ。
そしたらこれが結構楽しくて、スパイクなんかも適当に打ってる割には決まったりなんかして、意外とアタシも活躍できたのよ。
そうやって試合にどんどん勝ち進んでいって、決勝戦を迎える頃には自然とチームにも一体感が出てきてたりしてね。
どう言ったらいいのかよく分かんないけど、「これ、すげー青春っぽい」って思えたの。
アタシはそれまでスポーツは野球をやってたんだけどさ、バレーボールって野球とは違って、こじんまりしたスペースに6人が固まってやるじゃない?
お互いの距離が近い分、野球よりも一緒に戦ってるっていう一体感が凄いのよ。
この時がまさにそうね。
アタシはこの一体感に気持ちを揺さぶられたの。
あとは、試合で得点を決めると同じクラスの女子からキャーキャー言われたりとか、試合後にアタシの声が枯れてるのを気にして「声、大丈夫?」なんて心配そうに話し掛けられたりとかしてね。
ついでにモテ男の気分も味わえたのよ。
そういう事もひっくるめて、とってもいい気持ちだったわ。
他の誰かが女子からキャーキャー言われてるのを見ると腹が立つけどさ、いざ自分が女子からキャーキャー言われてみると、何だか自分がヒーローにでもなったような気分で、最高に気持ちいいのよね。
まぁ、そういう事があったから、高校で部活をするならバレー部も悪くないかなって漠然と思ってたわけ。
アタシ、伊勢大輔さんのところでもちょっと書いたけど、中学では中途半端な形で野球部を辞めちゃってるのよ。
それがずーっとアタシの中では心残りだったの。
だから、高校で部活に入ったら絶対最後まで頑張って続けようって心に決めてたのよ。
でも、アタシが入学した高校って、女子バレー部はあったけど、なぜか男子バレー部が無いっていう意味不明な状態だったのよね。
「まぁ無いなら仕方ないかー」とか思ってたら、Yを含めた同じクラスの何人かが「だったら新しく男子バレー部を作ろうぜ」って言い始めてね、最終的に希望者が7、8人くらい集まったのよ。
結果的には、ここで止めておけば良かったってことになるんだけど、その時はつい、アタシも面白そうだと思って新設のバレー部に入部することに決めちゃったのよ。
やっぱり、いつだって何も無いところから何かを立ち上げるのってワクワクするし、それに自分達をシゴく先輩もいない訳だから、伸び伸びとできるじゃない?
で、そんな感じでバレー部を立ち上げて、部としての活動を始めることになったの。
つまり、もともとアタシとYとは同級生でもあり、同じバレー部の部員でもあったってことね。
そしてこのバレー部の活動が、後々アタシとYとの因縁を生む下地になってくるんだけど、じゃあそこでどんな因縁が生まれたのかって話は、また今度にするわね。
ここに全部書くと、長くなり過ぎちゃうのよ。
……って、何でアタシこんな話をしてるんだったっけ?
あーそうそう、「恨みわび」って聞いたところからだわね。
次の「ほさぬ袖だに」ってのは何?
干さない服の袖にダニが湧いたってこと?
そんなわけ無いわよね。
え? 「ほさぬ袖」は、いつも泣いて涙を拭いているので「乾くひまもない袖」って意味なの?
まーた、大げさだわね。
犬の鼻みたいに、いっつも湿ってるってこと?
そりゃあダニも湧くでしょうよ。
それにしても、アナタ達ってどうしてそんなに大げさなのかしらね。
何でもかんでも、オーマイガー、とか言って大げさに驚く外人みたいじゃないの。
思わずライオンのTシャツを着て「欧米か!」とかツッコミたくなっちゃうわ。
って、このネタもだいぶ昔の話になっちゃったわね。
時間の流れは残酷だわ。
え? 「ほさぬ袖だに」の「だに」は、「〜でさえも」の意味なの?
ふーん、じゃあ「ダニでさえも」って言うときは「ダニだに」ってなるわね。
ま、別にそれでいいならいいけど。
そう言えば、「かくとだに〜」なんてのもあったわね。
藤原実方朝臣くんの歌だったかしら。
それと同じ使い方ってことね。
「あるものを」はそのままの意味かしらね。
「恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ」の「なむ〜けれ」は係り結びよね。
あれ? 「こそ〜けれ」で係り結びだっけ?
ふーん、「恋に朽ちなむ」で「恋のせいで朽ちてしまうだろう」って意味なんだ。
「名こそ惜しけれ」の「名」は、たしか名声とか評判って意味ね。
つまり、「恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ」で「恋のせいで朽ちてしまうだろう評判が惜しい」ってことね。
じゃあ、アナタが言いたいことは、
「恨む気力も失い、袖が乾くひまもないほど泣き続けて悲しいっていうのに、その上、恋のせいで私の評判が落ちていくなんて口惜しい」って感じかしら。
まぁ、こういう状況を「泣きっ面に蜂」とか「踏んだり蹴ったり」とか言うわよね。
やっぱりアタシの失恋と被るわ。
アタシの場合は、大好きな彼女と別れただけでも悲しいっていうのに、その上、彼女が同じクラスのYと付き合い始めてエッチな事もいっぱいしてる、みたいな状況だったわね。
言っとくけど、これ、本当にツラいわよ?
アタシの高3の一年間は、ただひたすら精神を削られていく日々だったわ。
他の人に聞くと、たいていは「高3の一年間って凄く短かった」っていう感想が返ってくるんだけど、アタシにとっては高3の一年間は死ぬほど長く感じたわ。
この時に受けた心の傷は一生消えないわね。
アタシの人格やモノの見方が決定的に歪んだのは、まさにこの時期だわ。
ところでアナタ、このクラスの権中納言定頼くんのことが好きだっていう噂が、クラス内で広まっているみたいよ?
恨む気力も袖が乾く暇も、無かったんじゃねーのかよー。
乾く暇が無いのは袖じゃなくて、アンタのお股の付け根にあるアワビの方なんじゃないの?
さすがにいっつも薄いゴムを持ち歩いているだけのことはあるわね。
そりゃあ相模って言われるはずだわ。
どうして女の人って、こうも切り替えが早いのかしらね。
アタシ、普段から女の話は聞き流す事にしてるのよ。
だって女の話って、結局どこまで行ってもゴムみたいに薄っぺらいんだから。
ま、簡単に言えばムダ話ばかりってことね。
まともに聞くだけ時間のムダよ。
それに女って、どうせ後になって平気で態度を変えてくるからね。
うっかり相手が話し始めた愚痴に同意なんてしようもんなら、後で手のひら返されて、最初から全部こっちから言い始めたことにされちゃうわよ?
どうせムダ話と割り切って、表面だけ話を合わせて冗談を言って笑わせて、自分も一緒に笑っときゃ、それでいいのよ。
女の娘の可愛い笑顔さえ見れれば、アタシは満足だわ。
それ以上を求めたら泥沼だからね。
ま、泥沼に落ちる覚悟があるって言うなら、もうアタシは止めないけど。
女の娘との付き合いの楽しみ方って、たぶんこういう表面的な付き合い方をいかに楽しめるか、ってところなんだと思うわ。
北京ダックだって、美味しいのは表面の皮だけよ?
そうやって表面だけを味わうのが、きっと正解なのよ。
なーんてアタシ、北京ダックなんか食べたこと無いけどさ。
ていうかよくよく考えたら、これってホストクラブのホストが女性客を扱う態度とほぼほぼ一緒だわね。
裏を返せば、ホストクラブが繁盛してるってことは、女の娘に対してはそういう扱いをするのが正解、あるいは完全な正解じゃなくとも部分的には正解だという事の証明になってるんじゃないかとアタシは思うわね。
え? 先生も女でしょって?
あぁ、そういえばそうだったわね。
リアルが前に出過ぎたせいで、アタシ、もう自分の立ち位置をすっかり忘れちゃってるわ。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
恨みわび ほさぬ袖だに あるものを
恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ
ダニに噛まれると ちょー痒い




