006.中納言家持 「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける」
はーい、じゃあ次は中納言家持くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
キミ、中納言っていうのは苗字じゃないわよね。
本名は何ていうの?
え? 大伴家持?
あー、その名前、聞いたことあるわー。
たしか「万葉集」で有名な人よね。
お父さんの名前は何ていうの?
ふーん、大伴旅人って言うんだ。
え? お父さんは大納言まで出世したんだ、凄いわね。
でも何だか、年中旅に出てそうな名前ね。
まるで寅さんみたいだわ。
キミのお父さん、顔が四角くて眉のところにイボがあったりしない?
え? 無いんだ。
まぁそりゃそうだわね。
……っていうか、キミの本名は大伴家持なんでしょ?
だったらそう名乗りなさいよ。
中納言だからって、威張らないでちょうだいね。
ここではアタシが先生で、キミは生徒の一人に過ぎないの。
そこんとこ分かってる?
それにしてもキミ、嫌味たっぷりな名前だわね。
どうせアタシはボロい賃貸アパートの住人ですよ。
悪かったわね。
何なの?
その「俺、家持ってまーす。うぃーっす。」みたいな名前。
さっさと地盤沈下で傾きゃいいのに。
え? これはただの独り言だわ。
女は独身が長いと独り言が増えるのよ。
ま、家持ちのボンボンには分からないでしょうけどね。
え? キミも三十六歌仙の一人なの?
……って、何だかもう、どうでも良い情報に思えるわね、これ。
だいたい36人って多すぎなのよ。
有難みが薄いっていうかさ。
それに、こんなの知ってたって何の役にも立たないわよ。
これは前もって今からクラスのみんなに周知しておかないと、今後もいちいち三十六歌仙の話題を持ち出さなきゃならなくなって、面倒臭いわね。
「はーい、クラスのみんなに言っておきまーす! これからアタシに歌を見せに来る人は、自分が三十六歌仙の一人だとか絶対に言わないようにして下さーい! 時間の無駄でーす!」
……っと、これでいいかしらね。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
かささぎの 渡せる橋に おく霜の
白きを見れば 夜ぞ更けにける
出たー。
今度はキック系かよ。
え? キック系って何ですかって?
まぁアタシが勝手にそう呼んでるだけなんだけどね。
ほら、歌の中に「ける」って言葉が入ってるでしょ?
こんな風に、歌の中に「ける」とか「けり」が入っている歌がキック系。
なんだか「蹴る」とか「蹴り」みたいに聞こえるじゃない?
だからキック系。
ただそれだけの理由よ。
深い意味は無いわ。
ところでキミ、「かささぎの渡せる橋」なんて、ロマンチックな事を書くじゃない。
これはあれよね、天の川のことを言っているんでしょ?
で、その天の川を構成する星の白い瞬きを霜に見立てたわけね。
なかなかやるじゃない。
いつもそうやってロマンチックなことを言って、女を家にお持ち帰りしてるんじゃないでしょうね?
まさかひょっとして、「家持」って、女を家に持ち帰るって意味じゃないわよね。
え? そんな事は無い?
だったらいいけど。
上流階級だからって、女遊びはほどほどにしてちょうだいね。
あー、でも最後の「白きを見れば 夜ぞ更けにける」ってのが良くないわー。
何なの、これ。
「ずっと白い星を眺めていたら、すっかり夜が更けちゃいました」
ってことでしょ?
どんだけ星を眺めてれば気が済むのよー。
天文学者かよー。
え? あ、こっちの話だから。
気にしないでちょうだい。
とにかく、モノには限度ってものがあるのよ。
女遊びも星を眺めるのも、ほどほどにしなさいよ?
あと、名前が「やかもち」だからって、女にヤキモチを焼いたらダメよ。
せっかくお金持ちで家持ちなんだから、いつも堂々としてなさいね。
それはそうと、なんでも持ち過ぎってのは良くないわ。
キミもお金持ってんなら、アタシにお中元やお歳暮の一つや二つ送りなさいよ。
お世話になった人にちょっとくらい還元したって罰は当たらないでしょ!
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
かささぎの 渡せる橋に おく霜の
白きを見れば 夜ぞ更けにける
夜が更ける前に 気付けよワロス