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059.赤染衛門 「やすらはで 寝なましものを さ夜更けて かたぶくまでの 月を見しかな」

はーい、じゃあ次は赤染衛門(あかぞめえもん)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

……っていうか、「あかぞめえもん」って(すご)い名前だわね。

なんだか返り血を浴びたドラえもん、みたいな名前じゃないの。

まさか学校帰りに人を()りまくってたりしてないよね?


一番怪しいのはキミのポケットだわ。

なろう系作品にありがちな、無限収納とかになってないわよね?

別名、四次元ポケットとも言われてるみたいだけど。


もしかしてキミのポケットって何かを取り出す時、いちいち取り出す物の名前を大声で言わないと取り出せない、とかいう謎の仕様になってたりするんじゃないの?

え? そんな事はない?

ならいいけど。


とにかく、物騒な物を学校に持ち込んだりしちゃダメよ?

あと、どこでもドアを使って通学したり、しずかちゃんが入ってるお風呂に突撃したりするのも()めてちょうだいね。


……っていうか、キミ、もしかして女だったりする?

えーっ!?

そうなのー?

つーか、すぐ気付けよって話なんだけどさ。


でも、アナタが女って聞くと、また印象が違ってくるわね。

もしかして生理の時に経血量が多くて、いつもナプキンが真っ赤に染まるから赤染衛門(あかぞめえもん)、ってわけじゃないわよね?


え? 違う?

まぁそれなら良かったわね。


あ、一応念のために言っておくけど、人の名前を揶揄(からか)ったり、冗談のネタにする、なんてのは一番やっちゃいけないことだからね。

良い子のみんなは、実生活では絶対にそういうことはしないでね。

あと、女の子の前で生理がどうこうって話もタブーだわ。

リアルとフィクションをごちゃ混ぜにしちゃダメよ?


……って、いっつもリアルとフィクションをごちゃ混ぜにしちゃうアタシが言うのも何だけど。

ところで、赤染衛門(あかぞめえもん)っていうのは本名なの?


えーっ!? 本名なんだー。

自分で聞いたくせに、ビックリしちゃったわよ。


ふーん、アナタのお父さんは赤染時用っていうのね。

赤染(あかぞめ)なんて苗字(みょうじ)、アタシ初めて聞いたわ。


ま、名前はさておき、アナタの歌風について、Wikipediaにはこう書かれているわよ。

「平安時代中期において活躍した女流歌人として、和泉式部と並び称されている。その歌風は、式部の情熱的な歌風と比較し、穏健かつ典雅なる歌風と評価されている」


こんなの見ちゃうとアナタの歌に対するハードルが上がっちゃうけど、大丈夫かしら。

ガッカリ賢子(けんし)ちゃんみたいな歌で、アタシをがっかりさせないで欲しいわね。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


やすらはで ()なましものを さ夜更(よふ)けて

かたぶくまでの (つき)()しかな


なぁに、これ。

まーた朝まで天体観測みたいな歌?


中納言家持(ちゅうなごんやかもち)くんと同じタイプね。

もしかして二人とも天文学部だったりするの?

ふーん、この学校には天文学部は無いのかー。


どうでもいいけど、アナタたちの歌って、やたら月ばっかり出てくるわよね。

星だって見えてるでしょーに。

なんでもっと星を歌に()まないのかしら。


「星見れば」とか「星を見しかな」とか、どうして()まないの?

どいつもこいつも月ばっかりで、見てて退屈しちゃうわよ。

そんなふうだから、どの歌を見ても同じように見えちゃうのよ。

学校の卒業文集に、みんなが「あっという間」って書くようなものだわ。


アタシには2歳上の姉がいるんだけど、その姉が中学を卒業したときに、卒業文集を見せてもらったことがあるのよ。

当時中学一年生のアタシは、「下手くそな文章だなぁ、これで中三かよ」って半分バカにしながらその卒業文集を読んでたんだけど、しばらく読んでるうちに、やたらと「あっという間」っていう表現が出てくることに気付いたのよ。


たぶん、卒業生全体の7割くらいの人が、卒業文集に「あっという間」って書いていたと思うわ。

実に(なげ)かわしいわよね。

アタシはそれを見て、アタシが中学を卒業するときは絶対に卒業文集には「あっという間」って書かないぞって心に決めたのよ。


で、その時アタシはなんで「あっという間」ってみんなが書いちゃうのか、その理由を考察したのよ。

理由はすぐに分かったわ。


現在の視点で過去を振り返って書くから、「あっという間」ってなるわけよ。

そう書かないためには、過去の自分になりきって、過去の視点から書けばいいのよ。

「三年前、僕は期待と不安を胸に、この学校へ通い始めた」とかいう感じね。


そこから視点をちょっとずつ現在までずらしながら書き進めていって、最終的に「そして今、僕はこの学校を卒業する」とか書くの。

あとは最後に決めゼリフをぶちかませば、完成ね。


思惑どおり、そうやってアタシが卒業文集に書いた文章は、誰より異彩を放ってたわよ。

……って、アタシが勝手に思ってるだけなんだけど。

まぁ自己満足ね。


もし卒業文集なんてものを書く機会があるようだったら、ぜひ参考にしてみてちょーだい。

「あっという間」なんて、ありきたりな表現を使ったら、アタシは許さないわよ。

ま、そんな若い読者が、アタシの書いた文章を読むとも思えないんだけどね。


で、何の話だっけ。

そうそう、アナタが()んだ歌の話をしてたんだったわね。


「やすらはで」って何?

一瞬、「安原(やすはら)で」って読んじゃったわよ。


え? 「やすらふ」は「ためらう」とか「ぐずぐずする」って意味なのね。

じゃあ「やすらはで」は「ためらわないで」とか「ぐずぐずしないで」ってことね。


()なましものを」はどういう意味なの?


え? 「まし」は半実仮想(はんじつかそう)の助動詞だから、「寝てしまっただろうに」って意味なの?

ふーん。


いま思い出したけど、ちょっと前に「人をも身をも (うら)みざらまし」って歌を見たことがあったわね。

あれは中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)くんの歌だったかしら。


たしか、「貴方(あなた)も自分も (うら)むことなんかないのに」って意味だったわ。

じゃああれも半実仮想(はんじつかそう)の「まし」だったのね。


そう言えば、「親父(おやじ)にもぶたれたことないのに!」っていう有名なアニメのセリフがあったわね。

一時期、よくテレビで若井おさむがモノマネしていたわ。

機動戦士ガンダムが平安時代のアニメだったら、「親父(おやじ)にもぶたれざらまし!」とか言うのかしらね。


あ、でも「ぶたれたことないのに」の「のに」は、ちょっと意味が違うわね。

つーか、平安時代にアニメなんてあるはずないわよね。


「さ夜更(よふ)けて」は「夜は()けて」の意味ね。

「かたぶくまでの」は「傾くまでの」だわね。


「月を見しかな」は「月を見たなぁ」ってことよね。

「かな」は詠嘆(えいたん)で「だなぁ」の意味だもんね。


じゃあ、アナタが言いたかったことは、

「ためらわないで寝てしまっていただろうに、夜は()けて月が傾くまで月を見たなぁ」

ってことね。


でもやっぱり意味が分からないわね。

ためらわないで、って何をためらわないで、なのかが分からないから、解釈できないでしょ、こんなの。


え? 「あなたが来ないと知っていたら、ためらわずに寝てしまっていただろうに」って意味なの?

そんなこと、この歌のどこにも書いてないじゃないの。

え? 詞書(ことばがき)に書いてある?

なによ、その詞書(ことばがき)って。


ふーん、和歌が()まれた事情を説明する短い文のことで、和歌の前につけられるのね。

じゃあその詞書(ことばがき)を読まないと、意味が通じないじゃないの。


もしかして、他の歌にも詞書(ことばがき)があったんじゃないの?

だったら早く教えてくれよー。

言われないと分からないよー。

アタシ、まともに古文とか和歌の勉強なんてしたこと無いんだからさー。


まぁ、いいわ。

じゃあ、この歌の詞書(ことばがき)に、アナタは何て書いたの?


え? 

うん、うん。

中関白(なかのかんぱく)少将(しょうしょう)(はべ)りける時、はらからなる人に物言(ものい)ひわたり侍りけり、頼めてまうで来ざりけるつとめて、女に代りてよめる」


……あ、ごめん。

途中で寝ちゃったわ。

意味だけ教えてちょうだい。


え? 

「中関白(藤原道隆)が少将でいらしたとき、私の姉妹に(今晩行くと)言い付けました。それを頼りに待っていたのに、道隆が参上してこなかった早朝、女(=姉妹)に代わって()んだ」って書いてあるの?


早い話が、「やくそーくーしてーたのーにー すっぽかさーれーてぇー、朝まーでぇ月をー見てましたー。チックショー!」ってことね。(コウメ太夫の歌で脳内再生してね)


それは腹を立てるのも無理ないわね。

約束を守らない人って、アタシ、絶対ムリだわ。

待ち合わせに毎回遅刻してくる人もダメだし、ウソをつく人もダメね。

お金やモノを借りたがる人も、もちろんダメ。


要するにアタシは、自分に甘いヤツ、何かにつけて「このくらいは許されるだろう」って安易に考えて多少の事は許されて当たり前だと思ってるヤツ、そしてその考えをアタシに押し付けてくるヤツがダメなのよ。


他人はともかく、アタシは貴方(あなた)のそういう態度を許しません。

貴方(あなた)を許すかどうかはアタシが決める事で、貴方(あなた)が決める事ではありません。

「許さないアタシが悪い」みたいに貴方(あなた)は言いますけど、アタシが悪いんじゃなくて、安易に許されようとしている貴方(あなた)が悪いんです。


アタシに甘えないで下さい。

アタシは貴方(あなた)の親でもなければ兄弟でもありません。

もちろん友達なんかじゃありません。

貴方(あなた)がアタシの友達かどうかはアタシが決める事なので、勝手に友達だとか思わないで下さい。


……って、アタシだったら思っちゃうわね。

アタシは心が(せま)い人間だから。

そりゃあ友達も出来ないはずだわ。


でもま、アタシはもう友達なんて出来ないと思ってるし、いなくても今日まで生きてきたし、大した問題じゃないわね。

アタシはエッチ目的のセフレさえ事足(ことた)りていれば、充分楽しく生きていけるわ。

っていうか、もはやそれ以上の人間関係を受け付けない体質になっちゃってるのよね。


……あら、また話が違う方向に逸れちゃったわね。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


やすらはで ()なましものを さ夜更(よふ)けて

かたぶくまでの (つき)()しかな

寝ないで見ている ゲーム実況


勝手に(おの)振らないで!


って、これの元ネタ知ってる人はどのくらいいるのかなぁ。

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