055.大納言公任 「滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ」
はーい、じゃあ次は大納言公任くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
……って、キミは大納言なのね。
今まで中納言くんは何人か居たけれど、たしか大納言くんは初めてよね。
アタシは大納言って聞くと甘納豆を連想しちゃうのよね。
少し濃い目の熱い緑茶を飲みながら甘納豆をつまむ、なんて至福の時間だわ。
え? ジジ臭いって?
うるさいわね。
ところで、キミの本名はなんていうの?
え? 藤原公任っていうんだ。
じゃあアンタもハム太郎ってことね。
……って、名前に「公」が付いたら、もれなくハム太郎ってのもどうかと思うわね。
発想が貧弱な証拠だわ。
ちなみに、キミのお父さんの名前はなんていうの?
え? 藤原頼忠っていうのね。
だぁれ、それ。
無知って怖いわね。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ
えーと、これもキック系になるのかしら?
キック系って歌の中に「けり」とか「ける」が出てきて、もれなく詠嘆で「だなぁ」っていう意味だったけど、「けれ」っつてのはどうなの?
え? やっぱり詠嘆なんだ。
ふーん、係り結びの関係で、「ぞ・なむ・や・か」は連体形結び、「こそ」は已然形結びなんだ。
この歌には「こそ」が出てきてるから「けり」とか「ける」じゃなくて、已然形の「けれ」が出てきたってわけね。
ぜんぜん関係無いけど、昔、「やめてけれ やめてけれ やめてけーれゲバゲバー」って歌を聞いたことがあるわ。
いつの記憶だか思い出せないけど。
「滝の音は 絶えて久しく なりぬれど」は分かりそうだわ。
「滝の音がしなくなって長い時間が経ったけど」って意味じゃない?これ。
え? その通り?
アタシもなかなかやるじゃないの。
でも「なりぬれど」って「なにぬねの」みたいに聞こえて面白いわね。
え? アタシだけ?
まあいいけどさ。
「名こそ流れて なほ聞こえけれ」は係り結びを解くと「名は流れて なほ聞こえけり」ってことよね。
「名は流れて」ってどういうこと?
え?「名」は名声や評判のことなのね。
で、「流れて」は「流れ伝わって」っての意味なんだ。
なるほどー。
たぶん、滝の水が流れるっていう意味と掛けているのね。
「なほ聞こえけれ」は「今もなお聞こえているんだなぁ」ってことでいいの?
え?「なほ」は、「それでもやはり」って意味なんだ。
ちょっと違ったわね。
じゃあ、キミが言いたかったことは、
「滝の音がしなくなって長い時間が経ったけど、その名声はそれでもやはり聞こえているんだなぁ」
って感じね?
ついでにアタシも一句浮かんだわよ。
「水の音は絶えて久しくなりぬれど ウンコ流れてなほ臭いけれ」
ってのはどうかしら?
え? ダメ?
そりゃあそうよね。
よく見たら係り結びもおかしいし。
まぁちょっと言ってみたくなっただけよ。
アタシ、他人の歌には文句ばかり言ってるクセに、自分が思い付く歌はウンチとかウンコばっかりだわ。
前に詠んだ歌も「学び舎の 便器にかけた しがらみは 流れもあへぬ ウンチなりけり」だったし。
キミたちの歌が中学2年生なら、アタシの歌は小学2年生だわね。
もちろん、わざとフザけてるんだけど。
でもキミの歌のテーマは素晴らしいと思うわ。
このクラスの子たちって、愛だの恋だのフナだの、色呆けし過ぎなところがあるけど、キミの歌は恋の歌じゃないものね。
もうアタシ、恋の歌を見せられるとそれだけで「ごちそうさま」って言いながら爪楊枝を咥えて立ち去りたくなるわ。
やっぱり大納言は一味違うわね。
それに「名こそ流れて なほ聞こえけれ」っていうのも、いいリズム感だわ。
さりげなく「なこそ ながれて なおきこえけれ」って「な」を続けてる感じが心地いいわね。
ついでに言えば「たきのおとは たえてひさしく なりぬれど」も含めて、全体的に言葉の最初の音をア行で統一してるあたりが玄人好みよね。
そういうアタシは素人なんだけど。
それにしても「あしひきの山どりの尾のしだり尾の」なんて露骨に「の」を繰り返す歌よりは数段まともだわ。
でもまぁ柿本人麿くんは「の」って言ってないと死んじゃうくらいの「のフェチ」だから、きっと例外なんだと思うわ。
ちょっと比べる相手を間違えちゃったわね。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ
生麦 生米 生卵!
さらに「な」を続けてみたけど、どうかしらね。




