054.儀同三司母 「忘れじの 行末までは 難ければ 今日をかぎりの 命ともがな」
はーい、じゃあ次は儀同三司母さーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
……って、まーた母親が出てきちゃったわよ。
なんでこのクラスには普通に母親が通ってきちゃうのかしらね。
お料理教室か何かと間違えてるんじゃないの?
困ったものだわ。
ところで、アナタの本名は何ていうの?
え? 高階貴子っていうの?
ゴメンなさいね、聞いたことないわ。
リボンの騎士なら聞いたことあるけど。
ちなみにアタナのお父さんの名前は……聞かないでおくわね。
高階なんて苗字、アタシの辞書には無いのよ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
忘れじの 行末までは 難ければ
今日をかぎりの 命ともがな
なぁに、これ。
意味が分からないわね。
「忘れじの」は忘れられないってことでいいのかしら。
え?「忘れじ」は「いつまでもあなたを忘れない」って意味なのね?
ふーん、この「じ」ってのは、打消しの意志の表す助動詞なんだ。
そういえば、許さねーぞって意味で「許すまじ」とか言ったりするわね。
え? ここで言う「忘れじ」っていうのは、相手のセリフなの?
つまり、アナタが彼氏に「いつまでもキミを忘れない」って言われたってことね。
でもそんなセリフは別れ際でしか言われないわよね。
だって、これからもずっと一緒にいるなら、忘れようが無いでしょ。
つまりアナタは彼氏と別れたことになるのね。
実はこの歌は、アナタにとってツラい歌だったってことね。
「行末までは 難ければ」ってのは?
え? 「行末」は「将来」ってことなのね。
じゃあ「行末までは」っていうのは「将来ずっとというまでは」って感じかしら。
でもこれ、文章を書いてる身としては、行末って読みたくなっちゃうわね。
「難ければ」は「難しいので」っていう意味のはずよ。
「ば」は「〜なので」の意味だって、NTR元良親王くんの「わびぬれば〜」って歌で知ったわ。
「今日をかぎりの 命ともがな」ってどういう意味なの?
「今日をかぎりの 命」は「今日限りの命」ってことでのいいかしら。
え? だいたい合ってる?
あ、そう。
だいたいでいいのよ、こんなもの。
アタシは完璧なんて求めてないの。
最後の「ともがな」ってのは何?
アタシ一瞬、「ともなが」に見えちゃったわ。
え? 「と もがな」ってことなの?
「もがな」だったら知ってるわ。
「〜であればいいなぁ」って意味よ。
藤原義孝くんが教えてくれたわ。
じゃあ、アナタが言いたかったことは、
「いつまでもあなたを忘れないといっても、将来もずっと忘れないなんて難しいから、今日限りの命だったらいいなぁ」
って感じね?
「いつまでも忘れないなんて言って貴方が去っていくくらいなら、今日で私の命が終わりになればいいのに」ってことかしら。
アナタ、本当にそんなこと思ってんの?
ジト目で疑っちゃうわよ。
アタシがよく引き合いに出してる、高2の冬に別れた彼女も「ずっと一緒に居ようね」なんて、よく言ってたわ。
でもその言葉を信じてアタシが必死になって勉強してたら、当の彼女はアタシの知らないところで新しい彼氏を作ってラブラブになってたわよ。
アタシが疑り深くなったのは、このとき彼女に裏切られたショックが大きすぎたせいね。
もうアタシは女なんて信用してないわよ。
女を信じるくらいなら、犬を信じた方がまだマシってもんだわ。
女の言うことなんて、いつも半信半疑で聞いてるくらいが丁度いいのよ。
間違っても100%の信用なんて置いたらダメね。
女なんて頭の中は損得勘定ばっかりだわ。
打算で気持ちがフラフラ揺れるのよ。
特に血液型がB型の女はヤバいわね。
B型女の言うことを信じるなんて、悪魔に魂を売り渡すようなものだわ。
でもアタシ、B型の女を見ると、不思議と可愛いなって思っちゃうことが多いのよ。
さっき言った高2の冬に別れた彼女もB型だったわ。
よく「母性本能をくすぐられる」なんて言うけど、アタシの場合はB型の女を見ると、逆に父性本能がくすぐられちゃうのよね。
なんていうか、危なっかしいのよ。
男に対して基本ノーガードっていうか、隙だらけっていうか、誰にでも愛嬌を振りまいて警戒心が無いっていうか、そんなふうに見えるのよね。
で、アタシが守ってやらなきゃとか思っちゃうわけよ。
でもそう思わせるだけ思わせといて、当の本人は意外とスイスイ男から男へと渡って行っちゃうもんだから、気が付いたらアタシの方が置き去りにされちゃってるのよ。
アタシがB型女と付き合うと、いっつもこんな感じで振り回されてロクなことにならないわ。
小悪魔なんていう言葉があるけど、可愛い顔をしたB型の娘って、本当にその表現がぴったりだと思うわね。
B型女はアタシにとって、文字通りサタンの誘惑なのよ。
屈したら負けだわ。
……って、何の話をしてるのかしらね、アタシ。
話を戻すわ。
もうこれまでに何度もグチってるから分かる人には分かってもらえると思うけど、結局ね、百人一首の歌ってのは基本、チャラいのよ。
なんだかんだでもう54首も百人一首の歌を見てきたけどさ、表現は大げさだし、技巧に走って中身がいい加減な歌ばっかり、っていうのがアタシの正直な感想ね。
「今日をかぎりの 命ともがな」なんてウソくさい歌を詠むくらいなら、さっさと辞世の句でも詠んで死んでみせろっての。
アタシは百人一首の歌なんかよりも、辞世の句の方が好きだわ。
歌の中で一番儚く、そして美しいのは辞世の句なのよ。
だってその人が、自分の生きた証として、この世に残していった句だもの。
中でもアタシが一番心を打たれた辞世の句は、細川ガラシャが詠んだ句だわ。
散りぬべき 時知りてこそ 世の中の
花も花なれ 人も人なれ
「女なんて信用してない」とか言った矢先に、女が詠んだ歌に感銘を受けてるのも変な話だけど、それでも良いものは良いのよ。
この歌は、細川ガラシャが石田三成に人質として連れていかれそうになった時に詠んだ辞世の句なの。
人質にされる事を拒んで、
「花も散るべき時に散る。死ぬべきときに死んでこそ人だ」
なんて句を残して潔く死んでいくっていう、この態度がアタシの心を打つのよ。
実に見事な句だわ。
もしもタイムマシンがあったら、20歳の頃のこの人に会ってみたいわね。
こんなふうに芯が強くてしっかりした女性には憧れない訳にいかないじゃないの。
学校で言えば、部活の主将を任されるようなタイプね。
この歌の気高い品格、凛とした毅然さに比べたら、アナタが詠んだ「忘れじの〜」なんて見掛け倒しのバッタもんだわ。
顔を洗って出直してきてちょうだい。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
忘れじの 行末までは 難ければ
今日をかぎりの 命ともがな
朝長美桜は 可愛かったな
って、また昔話をしちゃったわ。




