005.猿丸大夫 「奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき」
はーい、じゃあ次は猿丸大夫くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
げっ。
レッドの次はモンキーかよ。
何なんだよ、このクラスは。
え? ただの独り言よ。地獄耳ね。
猿は見ざる言わざる聞かざるでいいのよ。
おとなしく耳を塞いでなさい。
え? もう耳は塞いでる?
じゃあ何でアタシの声が聞こえてるのよ。
もしかして、これが噂のモンキーマジック?
キミのあだ名、マチャアキだったりしないよね?
え? べつにいいわよ。
どうせアタシが言ってることなんて、ネタが古すぎて誰にも分かりゃしないわ。
それにしても、猿丸って凄い名前ね。
何だかプロゴルファーみたいじゃない。
え? 僕も三十六歌仙の一人です?
ふーん、そうなの。
よかったわね、人として見られて。
……だから、こっちの話だってば。
この地獄耳の猿が。
耳を塞いで地獄谷温泉にでも浸かってろっての。
じゃあ一応、お父さんの名前を聞いておこうかしら。
え? よく分からない?
まぁそんな事だろうと思ったわ。
たぶん、花果山の頂上の大きな岩を割って生まれてきたんじゃないかしらね。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
声きく時ぞ 秋は悲しき
ダサいわー。
何なの、これ。
紅葉っていったら秋に決まってるでしょ?
そういう時はもう「秋」って言葉は使わなくていいのよ。
あと、悲しいことを「悲しき」って表現するのもダサくない?
悲しいことを悲しいって書かないところに奥ゆかしさがあるんだけどなー。
「秋は悲しき」なんて、どストレートなティーショットをかまされてもねぇ……。
プロゴルファーならちょっとぐらいヒネりなさいよ。
え? プロゴルファーじゃないの?
紛らわしいわね。
ほんっと、野暮な男だわー。
つーか、オス猿だわー。
やっぱ猿知恵だけじゃ、歌は詠めないのよ。
え? 全部聞こえてます?
それじゃあ仕方無いわね。
だいたい、猿に情緒は分からないでしょ。
鹿の鳴き声を聞いて悲しくなるなんて、そんな事ある?
つか、鹿の鳴き声なんて、アタシ聞いたこと無いわよ。
まぁ鹿鳴館とかいう建物があったくらいだから、鳴くには鳴くんでしょうけど。
ともかく、キミはもうウソを書いちゃダメよ?
本当は別の事を考えてたんでしょ。
あ、それからアタシがキミに向かってオス猿とか猿知恵とか言ってたなんて、誰にもしゃべっちゃダメよ。
見ざる言わざる聞かざる、だからね。
分かった?
分かったら、すぐにこの場を立ち去るのよ?
猿だけにね。
なんちゃって。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
声きく時ぞ 秋は悲しき
などと言いつつ 鹿鍋にする