048.源重之 「風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな」
はーい、じゃあ次は源重之くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
源氏の子も久しぶりに感じるわね。
参議等くんこと、源等くん以来じゃないかしら。
ところで、キミのお父さんの名前はなんていうの?
え? 源兼信って書いて「みなもとのかねのぶ」っていうのね。
ゴメン、聞いたことないわー。
お約束みたいに一応キミのお父さんの名前を聞いちゃったけど、理系のアタシがキミのお父さんの名前を聞いたところで、知ってるはずが無いのよね。
分かってて、ダメ元で聞いたのよ。
みなもとのダメ元だわ。
誰?それ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
砕けてものを 思ふころかな
なるほどー。
忘れた頃にやってくるウインド系の歌ね。
あ、ウインド系ってのは、上級エロ坊主の僧正遍昭くんに聞いてね。
もうキミに聞かれる前に言っとくわ。
……っていうか、こんなの普通に答えた方が早いわね。
歌に「風」が入ってればウインド系なのよ。
ただそれだけ。
「風をいたみ」は天智天皇くんが詠んだ「苫をあらみ」と同じ形よね。
「○○を〜み」で、「○○が〜なので」の意味だって、最初に天智天皇くんが教えてくれたわ。
じゃあ「風が痛いので」って意味でいいの?
え? 「いたみ」は「甚み」で甚だしいとか激しいって意味なのね。
つまり、「風が激しいので」ってことね。
「岩うつ波の おのれのみ」ってのは何?
「おのれ」は「己」で自分ってことかしら。
「岩を打つ波が 自分だけ」ってこと?
え? 「おのれのみ」は「砕けて」に続いて、「自分だけ砕けて」って意味になるのね。
なるほどー。
「ものを 思ふころかな」は「物思いに耽る頃だなぁ」っていいの?
だって「かな」は詠嘆でしょ?
え? 「物事を思い悩んでいるこの頃だなあ」っていう意味なのね。
まぁ似たようなものだわ。
じゃあキミが言いたかったことは、
「風が激しいので岩を打つ波が自分だけ砕けて、自分だけが物事を思い悩んでいるこの頃だなあ」
ってことなのね。
たぶん、「風が激しく、岩に打ちつける波が自分だけ砕けるのを見ると、自分だけが心を砕いて思い悩んでいるこの頃のようだなぁ」って感じね。
向こうはまるで平気なのに、アタシだけ思い悩んでバカみたいってことが言いたいのね、きっと。
分かるわー、その気持ち。
向こうはとっくに新しい彼氏を作って幸せそうなのに、自分はまだ相手を想って思い悩んでる、なんて、昔のアタシとだだ被りだわ。
え? 違うの?
あ、そっか。
たぶんキミの場合はアタシと違って、「向こうは何とも思ってないのに、自分だけがヤキモキしてるなぁ」っていう片想いの気持ちを歌にして詠んだのね。
まぁでも、アタシにもその気持ちは分かるわね。
アタシにだって、ピュアな片想いを胸に秘めてた時期ぐらいあったわよ。
そうねぇ、たしかエレベーターの原理とか言われてた気がするんだけど、恋愛って、相手を想う気持ちが強くなればなるほど、自分が想うほどには相手から想われなくなるものなのよ。
つまり、お互いの恋愛感情の強さをエレベーターの高さで表したとすると、自分のエレベーターが高いところにあればあるほど、相手のエレベーターは自分より低いところにある可能性が高いってことね。
結局のところ、自分が相手を好きになるだけじゃ不十分なのよ。
相手にも自分を好きになってもらう必要があるってことね。
もちろん、相手が自分を好きになるかどうかは相手が決める事だから、キミが直接そこに介入することはできないわ。
でも、相手が自分を好きになる可能性を上げる事は出来るのよ。
そしてそれは、キミにしかできない事だわ。
じゃあそのためにキミがすべき事って何だと思う?
アタシに言われなくても分かってると思うけど、それは自分を高めることなのよ。
RPGでいうと、地道なレベル上げってことになるかしら。
一般的には、自分を磨く、とか言ったりするわね。
これって本当に地道な作業で、RPGみたいに自分の現在のステータスは数値で見れないし、1日で上がるステータスなんて微々たるものだから、実感が伴わないのよ。
毎日頑張っても手応えが薄いから、そのうち挫折しちゃったりするわ。
でも、そうやって地道なレベル上げを続けるか続けないかで、2年後、3年後が大きく違ってくるのよ。
「涓滴岩を穿つ」っていう言葉があってね、ちょっとずつでも諦めないでぶつかっていけば、岩にも穴が開くものなのよ。
決して自分だけが砕けたりなんかしないわ。
アタシの言うことは信じられなくても、このクラスのみんなには是非この言葉を信じて、頑張って自分自身のレベル上げを続けて欲しいと願ってるわ。
キミも頑張ってちょうだいね。
え? 説教臭い?
何言ってんのよ、アタシはキミの先生だっつーの。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ
砕けてものを 思ふころかな
痛い風なら それは痛風




