045.謙徳公 「あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな」
はーい、じゃあ次は謙徳公くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
……って謙徳公って何だか凄そうね。
謙徳ハムの間違いじゃないわよね。
ハムならお歳暮のシーズンに送ってきてちょうだい。
ベーコンなんかでゴマかそうとしてもダメよ。
ところで「公」ってなに?
偉そうだってことは分かるんだけど。
え? 大臣の尊称なの?
じゃあキミは大臣ってこと?
うわー、太政大臣なのかー。
河原左大臣くんに聞いたわよ、太政大臣が一番偉いって。
まさに官僚のトップってことね。
大したものだわー。
ところで、キミの本名を聞いてもいい?
え? 「ふじわらのこれただ」っていうの?
「これただ」って、どんな字を書くのかしら。
敦忠くんと朝忠くんが続いてるから、もしかして「是忠」かしら?
え? 「藤原伊尹」って書くの?
どこをどう読めば「これただ」になるのよ、これ。
「尹」なんて字、昔セレッソ大阪にいたユン・ジョンファンの漢字表記でしか見たこと無いわよ。
たぶん今はどこかの監督になってるわね。
……ていうか、謙徳ってのはどっから出てきたのよ。
キミの名前とは、一文字だって掠りもしないじゃないの。
まぁ、いいわ。
じゃあキミのお父さんの名前は何ていうの?
え? 「藤原師輔」っていうのね。
「もろすけ」って名前を聞くと、「もろスケベ」って感じだわね。
え? キミのお父さん、19人も子供を作ったの?
子作りマシーンかよ。
19人兄弟なんて、聞いたこと無いわよ。
だんごだって三兄弟だわ。
もろスケベ、なんてレベルじゃないわね。
いつの時代も、金と権力さえあれば女には困らないってことかしらね。
ま、アタシみたいな一般庶民には、チート能力を持って異世界転生でもしない限り、そういう状況にはならないわね。
だからこそ、異世界転生ものの小説に人気が集中するわけね。
でもアタシは、意地でもトレンドには乗らないわよ。
……っていうか、まともな小説が書けないだけなんだけど。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
あはれとも いふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな
なぁに、これ。
ちっとも意味が分からないわね。
「あはれとも いふべき人」ってのは、「哀れと言うべき人」ってことでいいの?
え? 「私のことを可哀そうだと言ってくれそうな人」ってことなのね。
ふーん、「べき」は、当然の助動詞「べし」の連体形で、「…はずの」ってことなんだ。
「べき」は、shouldの意味とは違うのね。
「思ほえで」はどういう意味なの?
え? 「思い浮かばない」ってことなのね。
じゃあアタシは、「べき」は「…はずの」とは思ほえで、って感じね。
「身のいたづらに なりぬべきかな」ってのは何?
「身」はたぶん、自分自身のことよね。
あと、たしか「いたづらに」は「むだに」とか「むなしく」って意味だったわ。
「花の色は うつりにけりな いたづらに」って詠んだ、あのガバガバの雌ガキ…じゃなくて、小野小町さんが教えてくれたのよ。
え? 「身のいたづらになり」で「死ぬ」って意味なんだ。
ふーん、やっぱりアタシには、思ほえでって感じね。
「なりぬべきかな」がいまいち分からないわ。
最後の「かな」が詠嘆ってことなら分かるけど。
これは「だなぁ」ってやつよ。
「人の命の 惜しくもあるかな」って詠んだウンコちゃん…じゃなかった、右近さんが教えてくれたわ。
え? 「ぬべき」で「きっと…に違いない」って意味なの?
あれ? 「べき」は、当然の助動詞「べし」の連体形で、「…はずの」って意味じゃないの?
え? この「べき」は、推量の助動詞「べし」の連体形なの?
へー、そうなんだー。
……って、教えてくれるのはいいけどさ、何でそんなに偉そうなのよ。
ハム公のくせに。
この、謙徳ハム太郎が。
ひまわりの種でも食って、回し車の中でカラカラ音立てて走ってろっつーの。
え? 何でもないわ、こっちの話よ。
じゃあ、キミが言いたかったことは、
「私のことを可哀そうだと言ってくれそうな人は思い浮かばない。きっと私はこのまま死ぬに違いないなぁ」
ってことね?
そうねー、官僚のトップにまで登り詰めた人に向かって「可哀そうだ」なんて言う人がいるとは思えないわね。
つーか、金も権力も手に入れて裕福な暮らしをしておきながら、人から可哀そうだと言われたいなんて、自分で言ってて図々しいと思わない?
イヤミなの? それ。
官僚のトップで裕福なキミに比べたら、アタシの方がよっぽど可哀そうよ。
アタシなんて大臣どころか、無能な底辺社員だわ。
……って、またリアルな話をしちゃったわね。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
あはれとも いふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな
不倫で話題に なりぬベッキーかな
って何年前のネタだよ、これ。




