037.文屋朝康 「白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける」
はーい、じゃあ次は文屋朝康くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
キミは「ふんやのあさやす」くんなのね。
「ふんやのともやす」かと思ったわ。
「ふんや」って言ったら、少し前に文屋康秀くんが来たけど、キミとはどういう関係になるのかしら?
え? 文屋康秀くんがキミのお父さんなんだー。
……って、まーた親子で同じクラスに居んのかよー。
いったいキミのお父さんは何年留年してんだって話よね。
そういえば、孫と同じクラスって人もいたわね。
お前の人生、ひたすら留年で終わってんじゃねーかって言いたくもなるわ。
ま、そんな設定にしたのはアタシなんだけどさ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
白露に 風の吹きしく 秋の野は
つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
あーこれ、キック系だわー。
キック系ってことは、詠嘆だわー。
「だなぁ」てヤツだわー。
え? キック系って何ですかって?
説明するの面倒いわー。
中納言家持くんあたりに聞いてちょうだい。
あれ? よく見たらウインド系も混ざってるじゃないの。
つーかハッキリ言って、こんなのどうでもいいわよね。
「白露に」はそのまんまね。
露が白く光った状態よ。
「風の吹きしく」は何?
え? 「風の吹きしく」は、「風がしきりに吹く」ってことなのね。
「秋の野は」もそのままの意味ね。
「つらぬきとめぬ」って何?
「貫き止めぬ」ってこと?
え? 当たってるんだー。
珍しいわね、どうせまた違うのかと思ったけど。
じゃあ「貫いてるけど固定してない」ってことね。
例えばビーズにヒモを通しただけで、ビーズがプラプラしている状態のことかしらね。
「玉ぞ散りける」は「玉が散るんだなぁ」でしょ?
「ぞ〜ける」が係り結びで、「ける」が詠嘆だからねー。
え? 玉は真珠のことなの?
ふーん、なるほどねー。
じゃあ真珠のネックレスが千切れて、ヒモから真珠が外れて外に飛び散るようなイメージね。
風が白露を吹き飛ばす様子が、そういうイメージを連想させるってことかー。
確かにそう言われると、そういうビジュアルが目に浮かぶわね。
じゃあキミが言いたかったことは、
「白露に風がしきりに吹く秋の野は、白露が風飛ばされて、まるでヒモを通した真珠のヒモが切れて、真珠が飛び散るようだなぁ」
ってことでいいかしら。
アタシ、こういう歌はキライじゃないわね。
こうやって、何かに譬える感じの歌が好きなのかも知れないわ。
何だか、見たまんま系の歌よりも気が利いてるじゃない?
キミのお父さんの文屋康秀くんが詠んだ「山風と書いて嵐というんだなぁ」なんてショボイ歌より、よっぽどいいわね。
アタシ、昔は出張の仕事で新幹線を使うこともあったのよ。
雨が降る中を走る新幹線に乗って窓から外を見ていると、窓ガラスに張り付いた雨粒が風を受けて斜め横に流れて見えるのよね。
アタシ的にはそっちのビジュアルの方が、分かりみが深いわね。
そうそう、この歌を見て思い出したことがあるわ。
アタシがまだ高校生の頃の話なんだけど、当時のアタシのクラスでは、先生が授業中に黒板に書いた文字を、授業が終わった休み時間にその日の日直が消すことになってたのよ。
で、その時にチョークの粉が黒板を、つつーっとゆっくり流れるように落ちていくことがあるの。
アタシはその様子を見てるのが好きで、よく休み時間中にぼーっと眺めてたんだけど、あるとき同じクラスで一番前の席に座ってた女の娘が、それまで一緒にしゃべってた友達に向かって不意に「私、チョークの粉がつつーって落ちていくのを見るのが好きなのよね……」って友達に話してる声が聞こえてきたのよ。
思わず「うわー、アタシと同じだわー」って思っちゃって、自分の中でその娘に対する好感度が一気に上がったわ。
恋に落ちた、とまではいかないけど、それまでは何とも思ってなかったのに、その日を境に変に意識するようになっちゃったわね。
……って、何でそんなことを思い出したのかしら。
でも、最近のホワイトボードや電子黒板なんかじゃそういう光景は見れないから、何だか味気ない気がするわよね。
そういえば、「日直」なんて言葉も久々に使った気がするわ。
懐かしい昔の記憶ね。
なーんて、おセンチな感情に浸ってる場合じゃないわよね。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
白露に 風の吹きしく 秋の野は
つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
玉が散るって 特攻隊かよ




