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036.清原深養父 「夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ」

はーい、じゃあ次は清原深養父(きよはらのふかやぶ)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

……って、ちょっとぉー。

キミの名前、これで「きよはらのふかやぶ」って読むの?

アタシはてっきり、清原深くんを養子に迎えたお父さんかと思っちゃったわよ。


でも、さすがに「おぎゃー」って産まれてきた赤ちゃんの名前に、いきなり「父」って字を付けるのはどうかと思うわね。

その子が一生独身だったら、いい笑い者じゃないの。

アタシなら絶対冷やかしちゃうわよ。

「父」って名前に付くわりには、嫁もいなけりゃ子もいねーじゃねーか、ってね。


あれ?

もしかしてキミのお父さん、キミに誰も嫁が来なくて将来キミが養子を取ることを予見して、最初から「養父」って字を付けた可能性もあるわね。

だとすると、キミって産まれてきた時、よっぽど(みにく)い顔だったんでしょうね。

ま、今も(みにく)いっちゃ、(みにく)いけどさ。

……冗談よ。


でも、キミの嫁や子供については安心していいわよ。

キミにも子供が産まれることは、アタシが保証するわ。

つか、Wikipediaが保証するわよ。

……あ、今のはこっちの話だから気にしないでちょうだい。


ちなみに、キミのお父さんの名前はなんていうの?

え? 清原房則(きよはらのふさのり)っていうの?

お父さんの名前は普通っぽいのにね。

それにしても、自分の子供に「深養父」って名付けるなんて、なかなかきわどいセンスしてるわね。


……っていうか、その人、本当にキミの親か確認した方がいいんじゃないの?

最悪、キミのお母さんが浮気して出来た子だけど、キミのお父さんがお母さんに弱みを握られちゃってるもんだから、仕方なく自分たちの子ってことにした可能性もあるわよ?


アタシだったら「チッ、本当は俺の子じゃねーのにな。それにしても何だこいつ、(みにく)い顔したちっとも可愛くねー赤ちゃんだな。赤ちゃんって言うよりはむしろジジイみたいな顔してんじゃねーか。ジジイっぽい変な顔した赤ちゃんだから、ジジイっぽい変な名前でも付けるか。どうせ俺の子じゃねーし」とか思って付けた名前なんじゃないかと疑っちゃうわね。


え? 失礼なことを言うなって?

そうね、ゴメンなさい。

アタシって、デリカシーに欠けてるところがあるのよね。

自覚はあるんだけど、ぜんぜん治る気配が無いわね。


あれ?

でも改めて見てみたら、カッコイイ素敵な名前じゃないの。

名前に負けないように頑張ってちょうだいね。

そんなこと思って無いけど。


え? 最後になんて言ったか聞き取れなかったって?

アタシ、別に何も言ってないわよ。

気のせいじゃないかしら。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


(なつ)()は まだ(よい)ながら ()けぬるを

(くも)のいづこに 月宿(つきやど)るらむ


なぁに、これ。

どうせ「(よい)」を「()い」に掛けてたりするんでしょ?

深養父のくせに小賢(こざか)しいわね。

あと、最後の「らむ」は推量よ、推量。

「だろう」って意味だわ。


もういい加減、「らむ」って聞き飽きた感があるわね。

今日だけで、もう何回聞かされたか分からないわよ。

次に「らむ」って()んだ子がいたら、「ラム太郎」ってあだ名を付けて、バカにしちゃうわよ、アタシ。


でもラム太郎って、何だか「とっとこハム太郎」みたいで愛嬌(あいきょう)があるわね。

それとも、「ラムおじさん」の方がいいかしら?

アンパンマンに出てきそうだけど。

え? 何でもないわ、こっちの話よ。


「夏の夜は」はそのままの意味よね。

「まだ(よい)ながら ()けぬるを」はどういう意味なの?



ふーん、「まだ(よい)だと思っているうちに明けてしまったが」って意味なのね。

じゃあ「ぬる」は完了の意味で、「を」は逆接の「が」に相当するってわけね。

「いろはにほへと ちりぬるを」に出てくる「ぬるを」と同じ形だわ。


結局、「酔い」を掛けていた(わけ)じゃなかったのね。

でもそれなら逆に、なんで「酔い」に掛かって無いって言い切れるのかが分からないわね。

「まだ宵の酒に酔っているうちに夏の夜が明けてしまったが」って解釈も成り立ちそうなもんじゃない?

どうして、そうじゃないって言いきれるのかしらね。


何を見てどんな条件で判定してるのかが分からないわ。

そういうところが理系のアタシとしては()に落ちないわけよ。

明確な判定基準があるようには思えないのよね。

ここでグチっても仕方ないけど。


次の「(くも)のいづこに 月宿(つきやど)るらむ」は、「雲のどこに月があるのだろう」って意味でいい?


え? 惜しい?

「雲のどのあたりに月はとどまっているのだろう」なんだ。

つまり、「宿(やど)る」は「とどまる」の意味だってこと?


えー、なんだよそれー。

じゃあ「宿(やど)る」の意味を伝えたいときは、なんて表現するんだよー。

「ドヤる」とか言うわけ?

ほら、ドヤ街とか言うし。

でもそれだとドヤ顔してる意味になっちゃうわね。


さっきも言ったけど、アタシは理系の人だからさー、「AはBっていう意味だ」って言われると、「じゃあAの意味を表すにはどう書くんだ?」ってツッコミたくなるわけよ。

そうするとさー、「Aの意味を表すにはCって書くんだ」って話になるじゃない?

そうするとまた、「じゃあCの意味を表すにはどう書くんだ?」って疑問が生まれるでしょ?


で、これがずーっと続くわけよ。

でも言葉は有限だから、最終的にはどこかでループが発生するはずよね。

アタシはそのループが出てくるところまで聞かないと納得できない、みたいなところがあるのよ。


これって「有理数は、すべて循環小数で表現できる」っていう数学の証明と似たところがあるのよ。

簡単に言えば、A÷Bの割り算を実行すると、余りは0からB-1の有限パターンしか出てこないから、小数点以下についても割り算をどんどん計算していくと、最終的には同じ余りのパターンが現れて、そこから先は同じ計算の繰り返しになるから循環小数になるってことね。


だから、例えば1÷7だと0.142857142857……ってなって、142857が循環することになるわけ。

え? 1÷2は途中で割り切れて0.5になるから循環小数にならないって?


そうね。

そうやって途中で割り切れる小数のことを有限小数って言うわ。


でも、有限小数はすべて循環小数で表現できるのよ。

だから結局「有理数は、すべて循環小数で表現できる」ってことになるわけ。

例えば、さっきの0.5は0.49999……っていうように、9が無限に循環する循環小数で表現できるわね。


でも、中学生にこういうことを言うと、ほとんどの子が

「0.5と0.4999……はどこまでいっても同じにならないから、違う数だろ」

って言ってくるのよね。

確かに見た目は違っているけど、それが表す数(実数)は同じだってことが理解できないのよ。


数学の世界で「同じ」っていうのはね、「差が無い」ってことなの。

実際、0.5と0.4999……とは差が無いのよ。

もしも0.5と0.4999……が違う数だとしたら、そこに差があるはずなんだけど、その差が示せないってことね。

差が示せないってことは「差が無い」ってことになって、結局「同じ」ってことになるのよ。


っていうか何でアタシ、こんなことを書いてるのかしら。

百人一首を題材にしておいて循環小数の話をするなんて、狂気の沙汰よね。

ただでさえ読む人が少ないってのに、こんなの読まされたら、ますます誰も読まなくなっちゃうわ。


でもいいの。

アタシはそういう人間なのよ。

アタシに付いてこれる人だけ、ついてくればいいのよ。

最終的にどれだけの人がついてこれるのか、かえって楽しみだわ。


……って、深養父(ふかやぶ)くん、アタシを変な目で見ないでちょうだい。

変な名前のくせに。


え? 何でもないわよ。

じゃあキミが言いたかったことは、

「夏の夜は、まだ宵だと思っているうちに明けてしまったが、雲のどのあたりに月はとどまっているのだろう」

ってことでいいかしら。


なぁに、これ。

別に月の位置なんて、どこでもいいんじゃない?

それを知ってどうするのよ。

どっかの雲に隠れてるのは確かなんだから、それ以上気にする必要なんて、無いと思うけど。


やっぱりキミたちとアタシとでは、気にするポイントがズレちゃってるのよね。

月の位置を気にするより、もっと自分のことを気にした方がいいんじゃないかしら。


ひょっとすると、雲隠れしたキミの本当の父親が、どこかにとどまっているかも知れないわよ。

……なんてね。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


(なつ)()は まだ(よい)ながら ()けぬるを

(くも)のいづこに 月宿(つきやど)るらむ

酔いながら寝ると 風邪を引くわよ

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