035.紀貫之 「人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞむかしの 香ににほひける」
はーい、じゃあ次は紀貫之くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
キミがあの有名な紀貫之くんね。
ちょっとした評判になってるから、アタシも名前だけは聞いたことあるのよね。
さっき、従兄弟の紀友則くんが来たときにも、歌を見せてもらったわ。
春に花が散ってどうのこうのっていう歌だったわね。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
人はいさ 心も知らず ふるさとは
花ぞむかしの 香ににほひける
なぁに、これ。
「人はいさ」って何?
「はいさい」だったら沖縄の方言だって知ってるんだけど。
あと、メンソーレとかさ。
え? 「いさ」は後に出てくる打消しの語とセットになって、「さあどうだろうか、〜ない」っていう意味なんだ。
「心も知らず」は「心も分からない」っていう意味よね。
じゃあ「人の心は、さあどうだろうか分からない」って感じね。
え? 「人」っていうのは相手のことを指してるの?
つまり「あなた」ってこと?
だったら「君はいさ」って詠めばいーじゃねーか。
「君がため」とか詠んでた子もいたじゃないの。
じゃあ、「あなたの心は、さあどうだろうか分からない」ってことなのね。
何だか釈然としないわね。
前にもグチったと思うけど、「人」が「あなた」って意味なら、じゃあ「人」って意味に使いたいときはどう書くんだ、って問い詰めたくなっちゃうわ。
でもまぁいいわ。
こんなの、気にした方が負けよね。
「花ぞむかしの 香ににほひける」の「ぞ〜ける」は係り結びね。
「香ににほひける」ってのは?
え?「香ににほひける」は「香りが匂っているなぁ」って意味なの?
あーそうか。
この「ける」も詠嘆なんだー。
……ってよく見たら、この歌もキック系じゃないのー!
まぁ、よく見なくても、すぐ気付けよって感じなんだけどさ。
自分でキック系とか言ってる割には、あんまり気にしてないっていう、ね。
てか、今ごろ気付いたんだけど、キック系の歌って「けり」や「ける」が付くってことだから、だいたいほとんどが詠嘆している歌ってことになっちゃうわね。
じゃあこれを現代語に訳すと「花は昔と同じ香りを匂わせているなぁ」ってことね。
つまりキミが言いたかったことは、
「あなたの心は、さあどうだろうか分からない。ふるさとは昔と同じ花の香りを匂わせているなぁ」
ってことでいいかしら。
簡単に言えば、「花は昔と同じだけど、あなたの心が同じかどうかは分からない」「あなたの心は変わっていくものだ」ってことよね。
まぁでも、人について言うなら、心もそうだけど見た目も変わっていくものよね。
久しぶりに同窓会に出席してみたら、同級生だった男の子がすっかりハゲててポッコリお腹が出てたりするし、女の子も小じわが増えて年齢相応のおばさんに変わっちゃってるからね。
でも、ふるさとだって、どんどん変わっていくものよ。
古い建物は取り壊されて全然違う建物に変わってっちゃうし、個人で出してるお店なんかも昔に比べたらどんどん減ってるものね。
スクラップ&ビルドってやつだわ。
結局、何もかもが全て変わっていっちゃうのよ。
諸行無常とはよく言ったものね。
理系の表現で言えば、エントロピーは増大し続けるってことよ。
ぜんぜん意味が違うけど。
ま、変わることが良いのか悪いのかはともかく、時代はそうやって回っていくんだわ。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
人はいさ 心も知らず ふるさとは
花ぞむかしの 香ににほひける
ふるさと納税 写真と違う




