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032.春道列樹 「山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ もみぢなりけり」

はーい、じゃあ次は春道列樹(はるみちのつらき)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

……ってキミ、「はるみちのつらき」って読むのね。

アタシ、出席簿にふりがなが振ってなければ読めないところだったわ。

つか、もはやこのくだりはテンプレになりつつあるわね。


ところでキミの名前ってなかなかインパクトがあるわね。

一瞬、村上春樹みたいに見えちゃったわ。

疲れてるのかしら、アタシ。


それにしても名前が「つらき」って珍しいわよね。

紀貫之の「つらゆき」なら聞いたことがあるけど。

「つらき」じゃ、何だか生きているのがツラい感じに思えちゃうわ。

ツラいことがあっても、くじけちゃダメよ。


村上春樹だって、何度もノーベル文学賞の候補に挙がってるけど、結局まだ受賞できてないんだから。

もうただのお約束っていうか、アテ馬みたいになっちゃってるわね。

一体いつになったらノーベル文学賞を受賞できるのかしら。

……なんて、そんなこと大きなお世話よね。


あ、そうだ。

キミもいっそのこと春樹って名前に変えてみたらどうかしら。

「つらき」よりはいいんじゃないかと思うわ。

春道春樹なんて、いかにも脳天気そうで悪くないと思うけど。

今度、キミのお父さんに相談してみてちょうだい。


で、いつもならここでお父さんの名前を聞くところなんだけど、春道の誰それ、なんて名前はアタシの脳内のどこを探したって無いから、きっと聞くだけムダだわね。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


山川(やまがわ)に (かぜ)のかけたる しがらみは

(なが)れもあへぬ もみぢなりけり


うわ。

何なの、キミ。


リバー系とウインド系とキック系が複合してるキャラなんて、居るとは思わなかったわよ。

こんなの、ある意味チートにしか見えないわね。

何だかダビスタでいう「考えた配合」とか「見事な配合」みたいになっちゃってるじゃない。

ちょっと欲張り過ぎっていうか、詰め込み過ぎなんじゃないの?

まぁ、そう()んじゃったものは仕方がないけどさ。


「山川に」は「山の中を流れる川に」ってことでいいわよね。


「風のかけたる」は何?

どうせ「かけ」は、「欠け」だの「駆け」だの「架け」の意味がごちゃ混ぜになってる、とか言うんでしょ。

え? ここでは「掛けた」って意味なの?

ふーん。


「しがらみ」は今でも使う言葉よね。

え? 「しがらみ」って漢字で書くと「柵」なんだ。

つまり柵を掛けたってことね。


じゃあ「風のかけたる しがらみは」は「風が掛けた柵は」ってことなのね。


「流れもあへぬ」って何?

「流れても会えない」ってこと?


え? 「流れようとしても流れきれない」ってことなの?

「あへぬ」で「〜しきれない」の意味になるんだ。


たまに、トイレで流そうとしてもきれいに流れないウンチがあったりするわよね。

便器の底にこびりついちゃう、みたいな感じのやつ。

イメージとしてはそんな感じなのかしら?

え? 全然違う?

まぁそりゃそうよね。


「もみぢなりけり」は?

「なり」は断定、「けり」は詠嘆(えいたん)ね。


詠嘆ってあえぎ声みたいなものだったわよね。

じゃあ、「紅葉だ。あふぅ」みたいな感じね。

そういえばアタシは昨日の夜も詠嘆してたわね。


じゃあまとめると、

「山の中を流れる川に風が掛けた(しがらみ)は、流れようとしても流れきれない紅葉だわ、あふぅ」

って感じね。


でもこれだとしっくりこないわね。

むしろ順序をひっくり返して、「流れようとしても流れきれない紅葉って、山の中を流れる川に風が掛けた(しがらみ)のようだわ、あはぁん」みたいに理解した方がアタシには分かりやすいわ。


じゃあアタシもマネして歌を()んじゃおうかしら。


(まな)()の 便器にかけた しがらみは

流れもあへぬ ウンチなりけり


え? 汚い?

うるさいわね。

汚い歌を()んじゃいけないって、誰が決めたのよ。

どんなに可愛い顔をした女の子でも、トイレじゃ汚いウンチをしてるのよ。

下手すりゃ、おパンティにも汚れがくっついてたりするわ。


アタシ、大学時代にバイトで高校のトイレ清掃とかしてたからね。……って言っても、トイレ清掃ばっかりしてた(わけ)じゃないわよ。


そのバイト先の会社は、県内にある高校の雑用みたいな仕事を引き受ける小っちゃなビルメンテナンス会社でね、グラウンド周りの草刈りとかストーブ清掃、ペンキ塗装、防球ネット張り、側溝の清掃とか、まぁいろいろとやらされたわね。


中には壊れた便器を新しい便器に交換する、なんて作業もあったわよ。

いろんな高校を雑用して回るんだけど、俗に言う底辺の高校だと便所は荒れ放題だし落書きは多いし、タバコの吸い殻も落ちてるし、っていう状況なのよ。


で、そこの壊れた便器をハンマーで叩き割って破片を回収して新しい便器を設置して、コンクリートで固めたりしてね。まぁそこは個人経営の会社だからね、頼まれれば何でもやるって感じだったわね。


キツイ作業も多かったけど、それなりに得難(えがた)い経験もさせてもらったわ。

さっき挙げたストーブ清掃って、具体的には春になって暖かくなった頃に教室のストーブやアルミ製のダクトを清掃しながら回収して倉庫に片づけるって作業なんだけど、あるとき自分が担当した教室がたまたま女子が合宿中の教室でね。


たぶんその日にストーブを回収する作業で人が入るとは思ってなかったんだと思うけど、なんか布団が()きっぱなしで下着が干してあって、着替えた服も散乱してるような状況だったことがあったわ。


今でも思い出せるけど、その教室に一歩踏み込んだ途端(とたん)、何ていうか甘酸っぱい、年頃の女子に特有の(にお)いっていうのかしらね、窓が閉め切られていたせいでそんな匂いが充満しててね、当時若かったアタシは思わず理性がぶっ飛びそうになったわよ。


もちろんアタシは黙々と作業しただけなんだけど、あの匂いはちょっと病みつきになりそうなくらいヤバかったわね。どう例えればいいか分からないけど、女子高生のスカートの奥に顔を突っ込んで鼻から深呼吸したら、多分あんな匂いがするんじゃないかしら?

そんな事、アタシはしたこと無いけどさ。


まぁ単なるイメージよ、イメージ。

それはともかく、着替えが散乱した合宿中の女子の教室に堂々と入るなんて、男としては普通あり得ない経験でしょ?

時々はそういう役得な作業もあったってことよ。

あ、言っとくけど、リアルじゃアタシは男だからね?

もう分かってると思うけどさ。


で、話を底辺高校の女子トイレに戻すと、さすがに男子トイレに比べたら(はる)かに女子トイレの方がキレイなんだけどさ、それでも便器が汚物にまみれてたり使用済みナプキンが散乱してたりしてて、アタシは軽いショックを受けたわ。

まぁでもこれだって、そういうバイトをしてない限り、男としては得難い経験の一つよね。


つまり何が言いたいかっていうと、世の中はキレイなものばかりじゃないし、キレイごとだけじゃないってことよ。

こんな雑なまとめ方で終わらせるのもどうかと思うけど。


まぁでも、かれこれ30年近く前の昔話だから、今じゃ教室にアルミダクト付きのストーブなんて置いてないわよね。きっとエアコンに切り替わっているはずだわ。


女子トイレの便器もさすがに今は洋式で統一されてるんじゃないかしらね。当時は和式の便器がまだ残ってたんだけど。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


山川(やまがわ)に (かぜ)のかけたる しがらみは

(なが)れもあへぬ もみぢなりけり

もみぢの葉っぱで ()のケツを拭く

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