031.坂上是則 「朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪」
はーい、じゃあ次は坂上是則くーん。
こっちに来て作った歌を見せてくださーい。
お、来た来た。
へー、キミの名前は「さかのうえのこれのり」って読むんだね。
「さかがみ」って読むのかと思っちゃったわ。
アタシ、坂上っていえば坂上忍を思い浮かべちゃうのよね。
長いこと「バイキングMORE」を見てきたからかしら。
当時のアタシは夜勤が多くて、昼に職場から家に帰ってきてから、よくパスタを茹でながらこの番組を見てたのよ。
あ、これってリアルの話ね。
え? リアルって何ですか、って?
リアルはリアルよ、うるさいわね。
いちいちツッコミを入れないでちょうだい。
ちなみに、キミのお父さんの名前は何ていうの?
ふーん、坂上好蔭っていうんだ。
ゴメン、知らないわ。
名前の感じからして、ずっと家に引き込もってるのが好きな陰キャなんじゃないの?
もしくは人の陰口が好きなタイプね。
え? 何でもないわ。
こっちの話よ。
じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。
朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪
なぁに、これ。
まず「朝ぼらけ」が分からないわ。
何なのよ、「ぼらけ」ってのは。
え? 夜が明けてきて、ほのかにあたりが明るくなってくる頃のことを言うの?
何となく朝がぼやけて見える感じから「ぼらけ」って言うようになったのかしらね。
「ぼやけ」がだんだん変化して「ぼらけ」になった的な感じかしら。
「有明の月と みるまでに」っていうのは何?
「みる」は「逢う」の意味、とか言わないよね?
え? この「みる」は、「見る」ではなく、「思う」とか「判断する」って意味なの?
何だそれ。
もはや何でもありだろ、こんなの。
アタシの場合、「みる」は「ふざけんな」だわ。
「思う」なら「思ふ」でいいだろーが。
なんで「みる」が「逢う」とか「思う」とか「判断する」に変わるんだっつーの。
こういう、いい加減っていうか適当っていうか、その場の雰囲気で言葉の意味がコロコロ変わるところが、ほんっっと気に入らないのよね。
この何だかモヤモヤした感じが、理系の人間には我慢できないわけよ。
まず言葉の定義をちゃんとしろっての。
数学で言えば「ここのプラスは掛けるって意味です」とか平気で言われてるようなもんだわ、こんなの。
こんなこと、一つ一つチマチマ覚えるなんて、馬鹿馬鹿しくてやってらんないわよ。
「古文が得意です」とか言うヤツは、「アタシは大雑把な性格です。細かいことは気にしません」って言ってるようなものだわ。
あーもう、イライライするわね。
はーい! それじゃぁー坂上くんに質問でぇーす!
「吉野の里」って何ですかぁー?
これってぇー、「吉野」の「よし」は「良し」の意味でぇー、「の」は「脳」の意味でぇー、里は「里芋」の「さと」だからぁー、「脳が良くなる里芋」って意味じゃないんですかぁー?
えー、違うんですかぁー。
アタシはきょうー、このクラスのみんなからー、そんなこじつけみたいな事ばっかり言われてる気がするんですけどー。
気のせいですかねー。
え? 先生がどうかしたのかって?
別にどうもしないわよ。
ちょっと不貞腐れただけだわ。
まぁでも、もういいわよ。
どうせ歌を詠む側だって、その場しのぎでどうとでも解釈できるように、わざとモヤッとするような歌を詠んでるんでしょ?
だいたいの意味が分かりゃ、それでいいのよ。
こんなの、気にした方が負けだわ。
じゃあさっきの「有明の月と みるまでに」ってのは結局どういう意味なの?
「有明けの月と思われるほどに」って意味なのね?
何だか釈然としないけど、書いた本人がそう言うんならアタシはもう何も言わないわよ。
あと、「ふれる白雪」は「降っている白雪」の意味でいい?。
じゃあキミの歌の意味は、
「夜がほんのりと明ける頃、有明けの月と思われるほどに、吉野の里に白雪が降っている」
ってことね。
ざっくり言うと、「朝起きて吉野の里を見たら白い雪が降っていて、積もった雪が有明けの月みたいに明るく見えました」ってこと?
なぁに、これ。
何だか小学校3年生が書いた作文みたいね。
まぁ、でもこれくらいの方がアタシにとっては助かるわね。
下手にあれこれと意味を掛けて「結局、何が言いたいんだコイツ」ってなるよりも、なーんにも掛けずにそのまんまの方がむしろ清々しくて好感が持てるわ。
まるで、居酒屋で「冷やしトマト」ってメニューがあったから、頼んでみたら本当に冷蔵庫で冷やしたトマトを切っただけ、みたいな清々しさだわ。
え? アタシ、貶してなんかいないわよ?
これって褒めてるんだからね。
じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。
朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪
有明と言えば やっぱりハーバー
……横浜名物らしいけど、食ったことねーわ。




