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026.貞信公 「小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ」

はーい、じゃあ次は貞信公(ていしんこう)くーん。

こっちに来て作った歌を見せてくださーい。


お、来た来た。

……って、「ていしんこう」って絶対名前じゃないよね。

キミの本名は何ていうの?

え? 藤原忠平(ふじわらのただひら)っていうのね。


じゃあ、お父さんの名前は?

ふーん、藤原基経(ふじわらのもとつね)なんだー。

って、聞いても誰か分からないわね……ん?


あれ?

その名前、誰かから聞いた気がするわね。

ちょっと待ってね、メモで確認するから……。


あ、陽成院(ようぜいいん)くんがその名前を口にしてるわね。

彼、「源益(みなもとのまさる)」を殺した疑いを掛けられたことで、キミのお父さんの藤原基経(ふじわらのもとつね)に退位を迫られて、仕方なく天皇を(ゆず)ったって言ってたわよ。

もしかしたらキミ、あのツッパリ陽成院(ようぜいいん)くんに目を付けられてるかも知れないわね。


あと、ツッパリ陽成院くんの息子のNTR元良親王(もとよししんのう)くんも、俺が産まれる前に親父が天皇を(ゆず)らなければ、オレも天皇になれたのにってボヤいてたわよ。

親子でキミを(うら)んでる可能性があるから、注意しておいた方がいいんじゃないかしら。


じゃ、さっそく作った歌を見せてちょうだい。


小倉山(おぐらやま) (みね)のもみぢ() (こころ)あらば

(いま)ひとたびの みゆき()たなむ


なぁに、これ。

みゆきさんを待ってる歌なわけ?

相手の子は美雪さん? 美幸さん?

それとも平仮名で、みゆきさん?


ちなみにアタシの脳内検索では、美雪なら「金田一少年の事件簿」っていうマンガ、美幸ならタレントの「井森美幸」、みゆきなら「みゆき」っていうマンガが最初にヒットするわね。

搭載している検索エンジンが古すぎて、自分でもビックリしちゃうわ。


あと、やたらとマンガがヒットしてるのもどうかと思うわね。早急にアップデートしないと、こんなんじゃ若い子とデートにも行けなくなっちゃうわ。


え? もうそんな年齢(とし)じゃない、ですって?

うるさいわね。

アンタこそ、男ならただ待ってるだけじゃなくて自分から積極的に行きなさいよ。


え? これはそういう歌じゃない?

あら、そう。


「小倉山」はそのまま「小倉山」っていう山のことよね。

「峰のもみぢ葉」は分かるわ。

「峰」は山の頂上よね。

つまり、(つな)げると「小倉山の頂上の紅葉の葉」ってことね。


ちなみにアタシは、「峰」とか「岡」って漢字は見慣れてる感じなのよね。

アタシ、みんなに内緒で「峰」とか「岡」っていう漢字がやたら出てくるミステリー小説っぽい何かを書いてるんだけど、そっちはもともと無い頭を使って書いてるから大変なのよ。

最近は何だかちょっと飽きてきた説があるわね。


本当のこと言うと、アタシがこの学校へ来て、(さか)りが付いたネコの鳴き声みたいなキミたちのしょーもない歌の感想を一人一人こうやって話してるのも、まぁ言ってみれば気分転換ね。

真面目な事ばっかり書いてると、その反動で思いっきりフザケてみたくなっちゃうのよ。

でも、だんだんこっちの方も飽きつつあるけどね。

アタシのこの飽きっぽい性格、何とかならないものかしら。


あら、また話が脱線しちゃったわ。


「心あらば」は「心があれば」よね。

「ば」は仮定の意味だったり、理由を表したり、「〜すると」って意味だったりするけど、文脈から見れば、ここは「仮定」のはずだわ。


「今ひとたびの」は「いま一度」ってことよね。

英語で言うと「once more」だわ。

簡単にいうと、「おかわり」ってことね。

そう言えば「おかわり君」なんて呼ばれてる野球選手がいたわね。


「みゆき待たなむ」はみゆきさんを待ってるんじゃないのね?

え? 「みゆき」は「行幸」のことで、「天皇が訪れる」って意味なの?

へー、「待たなむ」の「なむ」は願望を表す終助詞で、「待っていてくれないか」ってことなんだ。


つまり、「もう一度天皇が訪れることを待っていてくれないか」ってことね。


じゃあまとめると、

「小倉山の峰の紅葉よ。お前に心があるなら、もう一度天皇がおいでになるまで、待っていてくれないか」

ってことね。

簡単に言えば、「もう一度天皇がおいでになるまで、小倉山の峰の紅葉よ、散らないでくれ」ってことだわ。

小倉山の峰の紅葉がきれいだから、もう一度天皇に見てもらいたいってことね。


あらー。

いかにも優等生が作りそうな歌だわね。

しっかり天皇を立ててるところが、小憎(こにく)らしいじゃない。

そりゃあ、天皇から信頼されて重宝されるわけだわ。


ま、今なら写メで撮ってインスタに上げて、「はい、おしまい」って感じよね。

便利な世の中になったものね。

でも、そうやってキミが天皇に気に入られるようにひたすら取り入って、せっせと姻戚(いんせき)関係を築いた努力が実を結んで、やがて藤原道長の時代が来て、

「この世をば わが世とぞ思ふ 望月(もちづき)の 欠けたることも なしと思へば」

っていう歌を読むほどに、絶対的な権力を藤原一族が握ることになるのよね。


そこまで徹底してゴマをするっていうのも、一種の才能なんでしょうね。

ま、これからもせいぜいゴマをすり続けてちょうだい。

あ、でもゴマって、あんまりすり続けると、ゴマ油になるらしいわよ。

やっぱり、ほどほどにしておいた方がいいわね。


そういえば昔、(トラ)が木の周りをぐるぐる回り過ぎてバターになるっていう童話があったわ。

こういうぶっ飛んだ発想が出来ないと童話作家にはなれないんだなぁ、って最近つくづく思うわね。

ま、アタシは童話作家になんてなる気はさらさら無いんだけどさ。


じゃあ最後にアタシの感想を付け加えておくわね。


小倉山(おぐらやま) (みね)のもみぢ() (こころ)あらば

(いま)ひとたびの みゆき()たなむ

みゆきと言えば 中島みゆき


……って、さっきと言ってること(ちげ)ぇし。

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